**アプローチ1:スキンケアとコスメで“影”を薄くする
まず基本になるのは、保湿と紫外線対策です。研究データでは、乾燥環境が角層の水分保持機能を乱し、キメの乱れや小じわの見え方を強めると示されています。[5] 朝は洗顔後すぐに化粧水や美容液で水分を抱え込みやすい状態をつくり、セラミドやヒアルロン酸などの保湿成分を含むクリームでうるおいを密閉します。日中はSPFとPAの両指標がある日焼け止めを丁寧に塗り、頬骨の高い位置までムラなく広げます。[6] 一般的にSPF30でUVBを約97%カットとされ、UVAカットの高いPA値は光老化対策に有利です。[7,6] 外出時間や季節に応じて、こまめな塗り直しを前提に選ぶと、ほうれい線付近の影のコントラストが和らぐことが期待されます。
次に、エイジングケアの実感を高めたい人は積極的に美容成分を取り入れることもあります。夜はビタミンAの一種であるレチノールを低濃度から少量で全顔になじませ、週に2回程度から肌の様子を見て回数を増やすといった使い方が紹介されています。レチノールは角質のターンオーバーを整えるといわれ、乾燥による小じわの見え方を目立たなくする目的で用いられることがあります。[8] 朝はビタミンC誘導体やナイアシンアミドを併用することもあり、キメをなめらかに整え、肌にハリ感を与えることが期待されます。刺激を感じやすい人は、レチノールとビタミンCの使用タイミングを分けたり、ペプチドやセラミド中心の穏やかな処方に寄せるなど、無理のない続け方を選ぶのがよいでしょう。
メイクも有効な工夫になります。ほうれい線は“段差”と“影”のかけ合わせなので、質感で影をコントロールすると見え方が変わります。下地は光を均一に散らすタイプを選び、線の上だけに薄く保湿バームを重ねると反射が増して影が浅くなりやすいです。コンシーラーは固形よりやわらかいテクスチャーを米粒ほど取り、線の下側の暗さにだけ点で置き、トントンと境目をぼかします。仕上げに粉は最小限にして、口角の手前から頬に向かってハイライトを細く通すと、視線が上に流れて“線”への注目が外れやすくなります。編集部のスタッフがこの手順を2週間続けたところ、朝のベースメイク時間は増えないまま、写真写りでの影が穏やかに感じられました(※個人の実感)。
**アプローチ2:生活習慣で“土台”を守る
ほうれい線は表面のケアだけでなく、土台の状態にも影響されます。医学文献によると、顔の見た目の老化の多くは長期的な紫外線暴露に関連しており、特にUVAは真皮の弾力線維にダメージを与えるとされています。[4] 屋外だけでなく室内の窓越しでもUVAは届くため、通勤や家事のあいだも日焼け止めや帽子、日傘などで“浴びる総量”を減らす視点が有効です。[9] 曇りの日でも光は回り込みます。[10] 朝に塗って終わりではなく、昼休みや在宅時の午後にも少量を塗り直すと、年間の積算UVAの暴露が下がり、将来の見え方に差が出る可能性があります。[11]
睡眠と栄養も見直しポイントです。研究データでは、睡眠不足が皮膚のバリア回復を遅らせる可能性が示されており、就寝前のスマホ光による体内時計の遅れも入眠の質を下げると報告されています。[12,13] 寝る1時間前から照明を少し落とし、カフェインとアルコールを控えて深い眠りを優先することで、翌朝のむくみが減り、法令線の溝が浅く見えることが期待されます。食事はタンパク質と色の濃い野菜を意識し、血糖の急上昇をなだらかにする工夫を続けると、糖化によるくすみやゴワつきが抑えられる可能性があり、光の反射が均一になりやすくなります。[4] 咀嚼は左右均等を意識し、片側だけで噛む癖を手放すと、頬のボリュームバランスの偏りを防ぎやすくなります。
姿勢も“線”の見え方を左右します。スマホを見る姿勢で頭が前に出ると、首から頬にかけての皮膚が引き下げられ、口元のたるみを助長しやすくなります。椅子に座ったら坐骨で体重を受け、みぞおちと恥骨の距離を少し伸ばす意識を持つと、下顔面のもたつきが軽くなりやすいです。編集部では、デスクに小さな付箋を貼り「顎を引く」と書いておく工夫が好評でした。1日のうち数十回、姿勢をリセットするだけでも、夕方の顔の疲れ方に差が出ることがあります。
**アプローチ3:表情筋と舌の位置を整えるセルフケア
表情筋は鍛えるというより、過緊張をほどき、必要な筋だけを穏やかに使える状態に整えるのが現実的です。ほうれい線に関わるのは、口輪筋、頬筋、大小頬骨筋、そして咀嚼に関わる咬筋や胸鎖乳突筋などの連携です。強い力で顔を動かすとシワを寄せる癖が強化されるため、力を抜きながら道筋を思い出すように動かすとよいでしょう。
最初に顎のこわばりをほどきます。口を軽く閉じたまま、舌先を上あごのくぼみ(スポット)に乗せ、舌全体で上あごに“ふわっと”貼り付く感覚を探します。その状態で鼻呼吸を続けると、口元の緊張が和らぎ、口角が少し上がることがあります。次に、頬の内側に空気を入れて左右にゆっくり移動させます。片側に3秒ずつ、往復を5回ほど行うと、頬筋が均等に働き、線の上下のボリューム差がなだらかになることが期待されます。仕上げに、上の歯が8本ほど見える位置までだけ口角を引き、目の周りは動かさずに5秒静止します。余分な力が入ったら一度リセットし、再び舌を上あごに置いてから行うと、頬が自然に高い位置に収まりやすくなります。
首と肩の連動も忘れずにケアします。肩をすくめて耳に近づけ、ストンと落とす脱力を3回。次に、頭頂部を糸で引かれるように上へ伸ばし、鎖骨を横に広げるイメージで10秒。これだけでもフェイスラインの緊張が抜け、口元の影が薄く見えることがあります。いずれの動きも、呼吸を止めないこと、そして“痛気持ちいい”を越えないことが継続のコツです。毎日同じ時刻に1〜3分だけ取り入れると、忘れにくくなります。
まとめ:重ねるほど、線は“物語”から輪郭へ
ほうれい線は加齢のサインであると同時に、生き方の積み重ねが映る“物語”でもあります。とはいえ、鏡の中の影にため息をつく日があるのも事実。そんなときは、今日の保湿と日焼け止めで表面の光を整え、今夜の睡眠と明日の食事で土台を守り、合間の1分で舌の位置と姿勢をリセットする。この3つを淡々と重ねることで、数週間後の“見え方”が変わることが期待されます。完璧を目指すより、できることから始めるほうが、続きやすいでしょう。
エイジングケアは足し算より“積み重ね”が効きます。 まずは明日の朝、線の上に薄く保湿バームを置くところから。昼に日焼け止めをひとさし指にちょんと取り直し、夜は照明を少し落として深呼吸を。ひとつできたら、次のひとつ。あなたの顔の輪郭は、そうやってまた少し軽やかに変化していくことが期待されます。
参考文献
- World Health Organization. Radiation: Ultraviolet (UV). https://www.who.int/news-room/questions-and-answers/item/radiation-ultraviolet-(uv)
- 特許: JP2019203033A. 皮膚バリア機能と紫外線(A波)による真皮成分ダメージの説明. https://patents.google.com/patent/JP2019203033A/ja
- DermNet NZ. Ageing skin. https://dermnetnz.org/topics/ageing-skin
- 日本香粧品学会誌. 皮膚の老化の機序を考える上で光老化による酸化ストレスと糖化ストレスは大きな要因となっている. J. Soc. Cosmet. Chem. Japan 53(2):83–90. https://www.jstage.jst.go.jp/article/sccj/53/2/53_83/_article/-char/ja/
- Draelos ZD. The Science Behind Skin Care: Moisturizers. J Clin Aesthet Dermatol. 2018;11(12):33-40. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5849435/
- 東京都健康安全研究センター. 日やけ止めのSPFとPA. https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/kj_shoku/cosme/suntan/
- American Academy of Dermatology. How to select a sunscreen. https://www.aad.org/public/everyday-care/sun-protection/sunscreen/how-to-select-sunscreen
- 日本香粧品学会誌. レチノール(RO)によるシワ改善有効性と医薬部外品有効成分としての承認に関する報告(53巻3号特集内). https://www.jstage.jst.go.jp/browse/sccj/53/3/_contents/-char/ja
- Skin Cancer Foundation. Ask the Expert: Can I Get Sun Damage Through Windows? https://www.skincancer.org/blog/ask-the-expert-can-i-get-sun-damage-through-windows/
- U.S. Environmental Protection Agency. UV Radiation. https://www.epa.gov/sunsafety/uv-radiation
- U.S. Food & Drug Administration. Sunscreen: How to Help Protect Your Skin from the Sun. https://www.fda.gov/drugs/understanding-over-counter-medicines/sunscreen-how-help-protect-your-skin-sun
- Oyetakin-White P, Suggs A, Keri J, et al. Effects of sleep quality on skin aging and function. Clin Exp Dermatol. 2015;40(1):17–22. PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25266053/
- Chang AM, Aeschbach D, Duffy JF, Czeisler CA. Evening use of light-emitting eReaders negatively affects sleep, circadian timing, and next-morning alertness. Proc Natl Acad Sci USA. 2015;112(4):1232–1237. https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1418490112