いまの体にやさしい基本設計:素材・シルエット・機能
厚生労働省の統計では、第一子の平均出産年齢はおよそ31歳、35歳以上での出産も増え続けており「3人に1人前後」[1]。働き盛りの時期と妊娠期が重なるのは珍しくない現実。編集部が国内外の市場動向やアパレル各社の販売データを横断して見ると、ビジネスシーンを想定したマタニティウェアの需要はここ数年で着実に拡大していました。にもかかわらず、クローゼットの前で手が止まる朝は減りません。体調と予定、そして体型の変化が日替わりでやってくるからです。**だからこそ「たくさん持つ」より「迷わず着られる」**に照準を合わせたマタニティファッション設計が、ゆらぎ世代の現実的な解になります。
医学文献や産科ガイドラインが示す推奨範囲では、標準体型の妊婦の体重増加目安は約7〜12kg[2,4]。おなかのふくらみだけでなく、肋まわりやバスト、足のむくみによる足囲の変化など、全身の寸法が少しずつ動きます[3]。つまり「ウエストが入るかどうか」だけで服を選ぶと、すぐに行き詰まるということ。素材の伸縮、ウエスト調整、縦のライン設計という3点を軸に、通勤と週末、そして産後まで見据えたワードローブを最小構成で回すのが現実的です。
マタニティファッションの出発点は、体を締め付けないこと。研究データでは、妊娠中は血流や体温調節にも変化が起こりやすく、圧迫や蒸れは不快感を増幅させます[3]。編集部が実際に複数ブランドの定番を試着比較した印象でも、伸縮性のあるジャージー、リブニット、ストレッチの効いた布帛は、見た目のきちんと感と動きやすさの両立に寄与しました。とくに、ハリのあるストレッチツイルや中肉のカットソーは、体のラインを拾いにくいのに、座り仕事でも楽に過ごせます。逆に、硬いベルト位置に縫い付けのあるボトムや、腰骨を固定するようなローライズは、後期になるほど苦しくなりやすい印象です。
シルエットは**「フィット&フレア」と「縦のIライン」**が頼りになります。上半身に適度なフィット感を残すと全身の重心が上がり、ボディラインの変化を自然に受け止めながらも品よく見えます。Aラインワンピース、ラップ風のウエスト調整ができるワンピース、前開きシャツワンピ+細見えレギンスの組み合わせなどは、期をまたいで長く使えました。加えて、ウエストの内側にゴムやボタンで調整できる仕様、後ろ身頃にギャザーやタックで余裕をもたせた設計は、体調が揺れる日にも安心です。
3カ月ごとに戦略を微調整する
妊娠初期はつわりや体温変化で「やわらかく、軽い」ことが最優先[3]。ウエスト位置の曖昧なニットアップや、前を開けて着られるシャツが出番を増やします。中期はおなかが前に出てくるため、視線を上に集めるネックラインやイヤリング、縦に落ちるロングカーディガンでIラインを作ると全身がすっきり見えます。後期は足のむくみ対策として甲を締め付けない靴や、屈んだり座ったりが多い日の裾さばきの良さが鍵。スリット入りのロングスカートや、裾に向かって落ちるテーパードパンツは、移動の多い日でもストレスが少なめでした。
サイズ選びは「今ちょうど」より半歩先
マタニティファッションで難しいのは、買った瞬間のサイズ感が翌月には変わっていること。編集部では「今ぴったり」は避け、指が一本はいる余裕、あるいはウエストが段階的に広がる仕立てを選ぶと失敗が減ると感じました。オンライン購入が中心なら、伸びの方向が縦横どちらか、股下や袖丈の実寸、返品ポリシーの確認をルーティンに。とくにパンツは、腹部パネルの高さ(へそ上まで覆うタイプか、下で支えるタイプか)で快適度が変わるので、座り仕事が多い人は高めパネル、活動量が多い人は低めの方が楽という声がありました。
通勤・オンライン・週末を横断する着回し設計
会議もリモートも家事もある日常で、装いはシーン横断で機能してほしい。編集部が検証したのは、ワンピースを中核に据え、ジャケットやニット、フラットシューズで温度とドレスコードを調整する方法です。例えば、ネイビーのジャージーワンピースにノーカラージャケットを重ねれば対面の打ち合わせに耐える端正さが生まれ、同じワンピースでもカーディガンとスニーカーに替えれば保育園の送迎や週末の買い出しにも自然に馴染みます。色は**「ネイビー・グレー・黒+一点差し色」**の3.5色運用にすると、朝の迷いが減りました。
オンライン会議中心の日は、上半身勝負。ハイゲージのニットや落ち感のあるブラウスなら、カメラ越しでもきちんと見えつつ、肌あたりはやさしい。胸元の開きが調整できるカシュクールや、襟元にドレープのあるトップスは、顔まわりに立体感を作り、むくみが気になる朝でも頼れます。外回りの日は、コートを閉めずに縦に抜けを作るとおなかの丸みをそのまま活かせて、無理に隠そうとしない分だけ全体のバランスが整います。
足元とアウターは「安全・快適・端正」の三拍子
足のサイズや足囲は妊娠中にわずかに変化しやすく、夕方になるとさらにむくみが出ることも[3]。ストラップの調整幅が広いフラット、あるいは2〜3cmのローヒールが歩きやすさと見映えの折衷点でした[5]。ソールは滑りにくいラバー、甲がやわらかいレザーやストレッチ素材だと、一日を通してラクです。アウターは、比翼仕立てやノーカラーのコートを開けて着て縦のラインを強調。マフラーやストールで上にボリュームを足すと、視線が上がり、全身のバランスがとれます。
小物と色で「自分らしさ」を取り戻す
体が変わると「似合う」の感覚が揺れます。そんなときは、バッグやイヤリング、口紅の色こそが味方。編集部メンバーは、深い赤のリップをいつものベージュから切り替えた日、カメラ越しの顔色が一段明るく見え、気持ちのギアが入ったと話します。服の点数を増やすより、小物で季節感と華やぎを添える方が、経済的にも気持ちにも健やかでした。
産前産後兼用でムダを減らす:賢い投資と回収
コスパとサステナビリティの両方を叶える鍵は、**「産前産後兼用」**の見極めにあります。前開きのシャツやワンピース、ストレッチの効いたジャケット、サイドにゴムとアジャスターのあるパンツは、出産後の体型リズムにも寄り添います。授乳を考慮した隠しジップのトップスや、カシュクールの重なりで開きを調整できるデザインは、いかにも「マタニティ」に見えないのに、機能は十分。いま買って、長く使える服は、心理的にも「買ってよかった」に直結します。
下着とインナーの見直しは、マタニティファッション全体の快適度を底上げします。ワイヤーが当たらないソフトブラ、ストラップ調整やホックが段階的に増えるタイプ、腹部を冷やさない丈感のキャミソールやタンクトップは、服の着心地をワンランク上げてくれます。タイツやレギンスは締め付けが強すぎないものを選び、長時間座る日ほどウエストゴムの幅が広いタイプが頼れます。肌あたりや縫い目の位置など、小さな違いが一日の体感を左右します。
「買いすぎない」ための回し方
買い物のたびに新しい悩みが増えると、クローゼットの密度が上がるのに満足度は下がります。編集部では、平日の軸となるワンピースかセットアップを一つ、週末の移動に強いパンツスタイルを一つ、そして気分を上げる一点(色やテクスチャで遊べるもの)を一つ、という小さな柱を作って運用するのが心地よく感じられました。季節の端境期は、インナーで温度調整してアイテム数は据え置く方が、経済的にも収納的にもラク。レンタルやリセールも視野に入れると、短期間で役目を終える服の行き先に悩まずに済みます。
ケアと持続可能性を両立する
洗濯の頻度が上がる時期は、手入れのしやすさが重要です。自宅で洗える表記、シワになりにくい素材、色落ちの少ない染色は、朝の支度に余白を生みます。使い終えた後は、次の人へ渡す・寄付する・回収プログラムを利用するなどの選択肢も。循環させる前提で選べば、はじめから「長く使える縫製」と「普遍的なデザイン」に目が向き、結果的に着るたび気持ちいい服が残ります。
気持ちの揺らぎに効く「装いの心理設計」
妊娠中は眠りの質や食欲、体温までもが波打ちます[3]。そんな日々に、服はささやかな支えになります。編集部の一人は、重役会議の朝に濃紺のワンピースと小ぶりのパールを選びました。おなかはしっかり存在感があるのに、鏡の前で背筋が伸びる。終日オンラインだった別の日は、柔らかい杢グレーのニットアップに赤の口紅を合わせたら、画面の中の自分が少しだけ凛として見えたといいます。**「今日の自分が心地よくいられるか」**を基準に、色と素材で気持ちの位置を整える。マタニティファッションは、ただの優しさではなく、働く自分を支える戦略でもあります。
「隠す」から「整える」へ
編集部が最後に推したいのは、体の変化を否定せず、全体のバランスを整える視点です。隠そうとすると苦しく、整えようとすると選択肢が増えます。縦に落ちるライン、首元の余白、手首や足首の抜け、上に視線を上げる小物。小さな積み重ねが、写真にも記憶にも残る「その日の私」を作ります。完璧である必要はありません。朝の支度が5分短くなるだけで、その日一日のエネルギー配分は変わります。
まとめ:いま必要なのは「迷わない仕組み」
データが示す通り、体は予測通りには動きません[3]。それでも、伸びる素材、調整できる仕立て、縦のラインという基本を押さえ、ワンピース軸に通勤と週末を横断させ、産前産後兼用で投資回収を意識するだけで、マタニティファッションは驚くほど軽やかになります。まずはクローゼットの中から「いま気持ちが上がる3着」をハンガー手前に移し、明日の予定に合わせて一つずつ足してみませんか。今日の自分が心地よく働ける装いは、これからの忙しい日々を支える小さなインフラです。次に手に取る一枚が、その実感のスタートになります。
参考文献
- 厚生労働省. 平成23年人口動態統計月報年計(概数)の概況(第1子出生時の母の平均年齢 等). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/kekka02.html#:~:text=%E3%81%AF%E6%B8%9B%E5%B0%91%E3%81%97%E3%80%81%E7%AC%AC3%E5%AD%90%E4%BB%A5%E4%B8%8A%E3%81%AF%E5%A2%97%E5%8A%A0%E3%80%81%E5%B9%B3%E6%88%9021%E5%B9%B4%E3%81%AF%E5%85%A8%E3%81%A6%E3%81%A7%E6%B8%9B%E5%B0%91%E3%80%81%E5%B9%B3%E6%88%9022%E5%B9%B4%E3%81%AF%E7%AC%AC1%E5%AD%90%E3%81%8C%E6%B8%9B%E5%B0%91%E3%80%81%E7%AC%AC2%E5%AD%90%E3%80%81%E7%AC%AC3%E5%AD%90%E4%BB%A5%E4%B8%8A%E3%81%AF%E5%A2%97%E5%8A%A0%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82%EF%BC%88%E8%A1%A82%EF%BC%8D2%EF%BC%89%20%E7%AC%AC1%E5%AD%90%E5%87%BA%E7%94%9F%E6%99%82%E3%81%AE%E6%AF%8D%E3%81%AE%E5%B9%B3%E5%9D%87%E5%B9%B4%E9%BD%A2%E3%81%AF%E4%B8%8A%E6%98%87%E5%82%BE%E5%90%91%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8A%E3%80%81%E5%B9%B3%E6%88%9023%E5%B9%B4%E3%81%AF30
- 国立成育医療研究センター. 10万人の全国分娩登録データベースから「日本人の適切な体重増加量」を算定(2017年プレスリリース). https://www.ncchd.go.jp/press/2017/optimal-body-weight.html#:~:text=match%20at%20L23%2018.5%E6%9C%AA%E6%BA%80%E3%81%AE%E3%82%84%E3%81%9B%E3%81%AE%E5%A6%8A%E5%A9%A6%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%84%E3%81%A6%E3%81%AF%E3%80%81%E7%8F%BE%E5%9C%A8%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81%E3%81%8C%E6%8E%A8%E5%A5%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E4%B8%AD%E4%BD%93%E9%87%8D%E5%A2%97%E5%8A%A0%E6%8E%A8%E5%A5%A8%E5%80%A4%EF%BC%889,%E7%8F%BE%E5%9C%A8%E6%8E%A8%E5%A5%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E4%BD%93%E9%87%8D%E5%A2%97%E5%8A%A0%E9%87%8F%E3%81%AF%E3%80%81%E3%82%84%E3%81%9B%E5%9E%8B%E3%81%AE%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%81%AB%E3%81%AF%E4%BD%8E%E3%81%99%E3%81%8E%E3%82%8B%E5%8F%AF%E8%83%BD%E6%80%A7%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82%E6%9C%AC%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%81%8B%E3%82%89%E5%BE%97%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%9F%E9%81%A9%E5%88%87%E3%81%AA%E4%BD%93%E9%87%8D%E5%A2%97%E5%8A%A0%E9%87%8F%E3%82%92%E6%8E%A8%E5%A5%A8%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%A7%E3%80%81%E4%BD%8E%E5%87%BA%E7%94%9F%E4%BD%93%E9%87%8D%E5%85%90%E7%8E%87%E3%82%92%E6%B8%9B%E5%B0%91%E3%81%95%E3%81%9B%E3%82%8B%20%E3%81%8B%E3%82%92%E4%BB%8A%E5%BE%8C%E6%A4%9C%E8%A8%8E%E3%81%97%E3%81%9F%E3%81%84%E3%80%82
- MSDマニュアル家庭版. 妊娠中の体の変化. https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/22-%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E4%B8%8A%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E6%AD%A3%E5%B8%B8%E3%81%AA%E5%A6%8A%E5%A8%A0/%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E4%B8%AD%E3%81%AE%E4%BD%93%E3%81%AE%E5%A4%89%E5%8C%96?ruleredirectid=464#:~:text=%E3%81%B8%E9%80%81%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E4%B8%AD%E3%81%AF%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%8B%E3%82%89%E9%80%81%E3%82%8A%E5%87%BA%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E8%A1%80%E6%B6%B2%E9%87%8F%EF%BC%88%E5%BF%83%E6%8B%8D%E5%87%BA%E9%87%8F%EF%BC%89%E3%81%8C%E5%B9%B3%E5%B8%B8%E3%81%A8%E6%AF%94%E3%81%B930%EF%BD%9E50%EF%BC%85%E5%A2%97%E5%8A%A0%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82%E5%BF%83%E6%8B%8D%E5%87%BA%E9%87%8F%E3%81%8C%E5%A2%97%E5%8A%A0%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%80%81%E5%AE%89%E9%9D%99%E6%99%82%E3%81%AE%E5%BF%83%E6%8B%8D%E6%95%B0%E3%81%AF%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E5%89%8D%20%E3%81%AE%E6%AD%A3%E5%B8%B8%E5%BF%83%E6%8B%8D%E6%95%B0%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E6%AF%8E%E5%88%86%E7%B4%8470%E5%9B%9E%E3%81%8B%E3%82%89%E6%AF%8E%E5%88%86%E7%B4%8490%E5%9B%9E%E3%81%AB%E3%81%BE%E3%81%A7%E4%B8%8A%E6%98%87%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82%E9%81%8B%E5%8B%95%E4%B8%AD%E3%81%AE%E5%BF%83%E6%8B%8D%E5%87%BA%E9%87%8F%E3%81%A8%E5%BF%83%E6%8B%8D%E6%95%B0%E3%82%82%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%84%E5%A0%B4%E5%90%88%E3%82%88%E3%82%8A%E5%A2%97%E5%8A%A0%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
- エレビット(バイエル薬品). 妊婦さんにおすすめの靴はどれ?ヒールがあるとNG?(監修: 看護師). https://www.elevit.jp/ninshin/articles/worries/shoes/#:~:text=