グリーンジョブで再設計するキャリア:35〜45歳の転職・スキルガイド

35〜45歳のためのグリーンジョブ入門。ILO/IEAデータで成長領域を示し、必要スキル、転職・社内異動・学び直しの実践ステップやすぐ使えるチェックリストを提示します。

グリーンジョブで再設計するキャリア:35〜45歳の転職・スキルガイド

グリーンジョブとは—定義と潮流

国際労働機関(ILO)は、グリーン転換により2030年までに世界で最大24,000,000人の雇用が純増すると試算しています。[1] 国際エネルギー機関(IEA)の雇用分析でも、エネルギー分野の仕事は約6,700万人のうちクリーン系が3,500万人規模へと拡大。[2] さらにLinkedInのデータでは、2015〜2022年でグリーンスキル保有人材が約38%増し、求人の伸びが人材供給を上回る傾向が続いています。[3] 数字は冷静ですが、背景にあるのは暮らしと仕事の同時リデザイン。気候危機や資源制約が“遠い話”だった時代は終わり、企業も家庭も「使い方」「作り方」「伝え方」を更新する局面に入っています。編集部が各種レポートを読み解くと、グリーンジョブは理系や専門職だけの話ではなく、調整力や説明力、プロジェクト推進力といった普遍的なスキルが価値を持つ広い労働市場だと見えてきます。ゆらぎの多い35〜45歳にとって、それはキャリアの“延長戦”ではなく、“再設計”の入り口になり得ます。

グリーンジョブは、環境負荷の低減や資源循環、再生可能エネルギーの普及などに寄与する仕事の総称です。[4] 研究データでは製造・エネルギーだけでなく、金融、調達、広報、人事、IT、法務にまで領域が広がっています。[4] 例えば、脱炭素の取り組みは工場や発電所の話に留まらず、オフィスの電力選択、出張や物流の最適化、紙や容器の使用量、そして投資家や顧客への説明責任に直結します。つまり、日々のオペレーションを理解し、関係者の合意をつくり、現実的な落としどころを見いだすスキルこそが“グリーン”を前に進める基盤になっているのです。

日本でも、TCFD対応や統合報告、スコープ3の算定といったキーワードが一般化し、上場企業だけでなくサプライチェーン全体で実務が動き出しています。新規に立ち上がるポジションだけではなく、既存の職務へ環境視点が“上書き”されており、仕事の中味が静かに変わりつつあります。IEAやILOの統計は世界の潮流を示しつつ、日本国内の求人でも「サステナビリティ推進」「調達の脱炭素」「ESGデータ管理」といった横断的な役割が増え、専門知識×汎用スキルの掛け算が評価される局面が増えているのが現実です。[2,4]

どんな職種が増えているのか—“技術だけじゃない”広がり

研究データでは、再生可能エネルギーや蓄電池、建物の省エネといった技術領域の伸びが目立ちますが、同時に需要が高いのが、調達・サプライチェーンでの排出量管理、サステナビリティ報告、社内外コミュニケーション、企画・PMO(プロジェクト管理)です。[2,3] 取引先からのデータ回収や、製品のライフサイクルを踏まえた見直し、社内稟議の再設計など、“人と情報を動かす力”が価値の源泉になっています。そこには、段取り、説明、合意形成という積み重ねのスキルが効いてきます。

数字が示す構造変化—求人数とスキルのギャップ

LinkedInの分析では、グリーン関連求人の伸びが人材の増加を上回り続け、慢性的なスキルギャップが示唆されています。[3] 供給が足りないからこそ、学び直しや社内異動でのキャリア転換が成立しやすい土壌が生まれます。“完全な専門家”でなくても、学びながら走れる人が歓迎される空気感が広がり、OJTで経験を重ねられる余地も大きくなっています。[3]

40代女性が活きる理由—積み上げた“調整力”の資産価値

総務省統計では25〜44歳女性の就業率は約80%に達し、現場で培った実務スキルは確かな厚みを持っています。[5] 一方で日本の女性管理職比率は約15%に留まり、伸びしろが大きい状況です。[6] グリーンジョブの現場では、制度と現実のあいだの埋め作業が膨大で、経験に裏打ちされた段取り力が強く求められます。会議体の設計、社内稟議の通し方、取引先との調整、期限から逆算した進行管理。これらは40代までの仕事の中で自然と鍛えられてきた筋肉であり、環境テーマに“移植”しやすい資産です。

家庭と仕事の両立経験も、実は大きな強みです。制約のある中で優先順位をつけ、現実的に回す視点は、脱炭素や資源循環のプロジェクトにおいて欠かせません。完璧主義が過剰になると物事は進みません。まずは可視化し、次に合意をつくり、小さく始めて改善する。このプロセス思考は多くの40代女性が体得しているもので、グリーン領域にそのまま持ち込めます。

“強みの翻訳”で見える転換先—スキルの棚卸し

棚卸しは職種名からではなく、日々の動作から始めるのが近道です。例えば、営業やカスタマー対応で磨いた説明力は、サステナビリティ報告や社内研修の設計に直結します。購買や調達の経験は、サプライヤーと排出データをやり取りする場面で威力を発揮します。広報・IRの知見は、統合報告やESG情報の編集力に変換できます。情報システムに関わってきたなら、データ基盤やダッシュボードづくりへ活きるでしょう。これまでの“当たり前”が、環境テーマの“価値”に変わる瞬間を見つけることが、転換の第一歩です。

社内の“未充足ニーズ”を見つける—最短の入り口

多くの企業では、担当者不在のまま「スコープ3を出して」「取引先アンケートに回答して」「レポートを更新して」といった課題が山積みです。ここにこそ入口があります。現在の担当部署を横断して、どこで滞留が起きているかを観察し、関係者を集め、まずは期限内に“暫定版”を仕上げる。完璧より前進を合言葉に、手を挙げられる人に機会は集まります。社外転職よりも早く実績を作れるため、社内異動や肩書変更を視野に入れながら、経験を積み上げていく戦略が現実的です。

実践のステップ—学び直し、社内異動、副業という三つの動線

学び直しは、知識の“語彙化”から始めるとスムーズです。入門としては環境社会検定(いわゆるeco検定)や、温室効果ガス算定の基礎(GHGプロトコルの概念)[8]をオンラインでキャッチアップし、次に自社の実務に近いテーマを1つ深掘りします。例えば、オフィスの電力を再エネへ切り替える検討、物流の積載効率を上げる取り組み、パッケージ素材の見直しなど、生活者としての実感がある領域は理解が速い。“自社で使える”知識から着手するのが、挫折しにくいコツです。

社内異動は、非公式の実績作りが鍵を握ります。小さなプロジェクトを立て、進行と成果をメモに残し、社内ポータルや勉強会で共有する。関係部署のキーパーソンに早めに相談し、次年度計画に自分の役割が入るよう根回しします。異動願いは「希望」ではなく「必要性」と「既にやっている貢献」で語ると通りやすくなります。

副業・複業は、視界を一気に広げてくれる選択肢です。自治体や中小企業の省エネ診断の事務局、NPOの広報、製品の環境データ整理など、短時間でも経験が積める案件は増えています。就業規則やリスクは確認しつつ、本業と競合しない領域で“相互学習”を起こすことができれば、相乗効果は大きくなります。

学び直しや動き方のヒントは、関連記事でも整理しています。基礎から体系的に学びたいときは、編集部のガイド「40代の学び直し・最短ロードマップ」が役立ちます。キャリアの停滞感を整えたい人には「“停滞”をほどく仕事ノート」、暮らしのサステナブル実践は「今日から始めるやさしい循環生活」を参考にしてください。変化疲れをケアしたい日は「変化に疲れたときのセルフコンパッション」もどうぞ。

資格と実務—“合格”より“使える”が先

資格は道具箱の1つです。環境社会検定は語彙を揃えるのに有効ですが、実務経験の裏付けがないと評価は限定的です。逆に、小さくても実案件で成果を出せば、資格は後追いでも大丈夫。履歴書に書ける成果物(データの可視化、社内ガイド、取引先向け説明資料など)を増やすことが、転職市場でも社内でも説得力を生みます。中長期的にはISO14001やエネルギー管理の知見、LCAの理解など、専門の奥行きを広げることで、任せてもらえる範囲が自然に拡張していきます。

働き方と報酬のリアル—期待と現実の“幅”を見ておく

賃金や評価は企業や業界の成熟度によって差が出ます。海外では一部のグリーンジョブで賃金プレミアムが示唆されていますが、[7] 日本では現時点で“横並び〜やや上”のレンジが体感に近いでしょう。重要なのは、やるべきテーマの増加に対して、担い手が足りていないという需給の歪みです。経験者が少ないため、成果を可視化できる人にチャンスが回りやすい。これが報酬や裁量の伸びシロになります。

働き方は、ハイブリッドやリモートが混ざる傾向が続きます。データ回収や関係者調整はオンラインで進めやすく、工場や店舗の現場に足を運ぶ日と、資料作成に集中する日在宅とを組み合わせるスタイルが増えています。家庭の事情でフルタイムに戻れない時期でも、時間ではなくアウトカムで評価される設計が広がるほど、40代女性にとって追い風になります。

やりがいと同時に、摩耗のリスクにも目を向けたいところです。環境テーマは“正解が動く”領域で、ルール変更や新基準の波にさらされます。定期的に業務の棚卸しと休息の計画を入れ、学び続ける自分を肯定する小さな設計を仕込んでおくと、長く走れます。副業の基本は「はじめての複業ガイド」で確認しておくと安心です。

編集部が見た“成功パターン”の共通項

過去の転換事例を分析すると、いくつかの共通項が浮かび上がります。まず、環境の“正義”を振りかざすのではなく、コストと便益のバランスで社内を説得していること。次に、数字とストーリーを往復し、可視化(スコアカードやダッシュボード)と物語(顧客・従業員の体験)の両輪で合意をつくっていること。最後に、短いサイクルで試し、改善を重ね、成果を“形”にして残していることです。小さな一勝の積み重ねが、肩書や役割を更新する最短ルートでした。

まとめ—“完全じゃないまま始める”がいちばんの近道

グリーンジョブは、特別な誰かのための舞台ではありません。世界の雇用トレンドが示す通り、仕事そのものが“グリーン化”していく過程で、あなたの経験は新しい価値を帯びます。今週できることから始めましょう。会社のエネルギー調達や物流の見直しについて情報を1時間だけ集めてみる。社内で環境テーマに関心のある人を一人見つけて、10分の雑談を申し込んでみる。社内ポータルに小さな改善アイデアを投稿してみる。完璧でなくていい、まずは前へ。その歩幅が、数カ月後には役割の変化へとつながっていきます。

“やっぱり、きれいごとだけじゃない”からこそ、現実と折り合いをつけながら進める視点が力になります。あなたにとっての一歩は、どこから始まりますか。

参考文献

  1. International Labour Organization. 24 million jobs will open in the green economy. 2018. https://www.ilo.org/resource/news/24-million-jobs-open-green-economy-0
  2. International Energy Agency. World Energy Employment 2023 – Executive summary. 2023. https://www.iea.org/reports/world-energy-employment-2023/executive-summary
  3. LinkedIn. Global Green Skills Report 2022. 2022. https://news.linkedin.com/2022/february/our-2022-global-green-skills-report
  4. International Labour Organization. Green Jobs – ILO Library Guide. https://libguides.ilo.org/green-jobs-en/home
  5. 総務省統計局. 労働力調査(基本集計). https://www.stat.go.jp/data/roudou/
  6. Nippon.com. Female Managers in Japan Remain Few and Far Between. https://www.nippon.com/en/japan-data/h02110/female-managers-in-japan-remain-few-and-far-between.html
  7. OECD. Vacancies and wage premia in green jobs are high. 2023. https://www.oecd-ilibrary.org/economics/vacancies-and-wage-premia-in-green-jobs-are-high_98c7549d-en
  8. Greenhouse Gas Protocol. https://ghgprotocol.org/

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NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。