キャリア転換期の女性へ|今すぐ使える仕事のコピー5原則

読まれる1行を設計するコピーライティングの基礎を、キャリア転換期の女性向けに5原則で整理。メールや提案書で即使える例文とチェックリスト付きで今日から実践可能。

キャリア転換期の女性へ|今すぐ使える仕事のコピー5原則

コピーライティングの基礎は「行動の設計」

ユーザーはウェブのテキストのうち平均して約20%しか読まない――Nielsen Norman Groupの調査で知られる事実は、いまも古びていません[1]。さらに、オンラインでは短時間で判断されやすく、読みやすさが理解や成果に直結することが示されています[2]。つまり私たちの1行は、想像以上に厳しい選考を受けているということ。編集部が各種データを横断して見ても、長さよりも「必要な人に」「必要な瞬間に」「必要な言葉を」届ける設計が、読み飛ばされる世界で生き残る鍵になります。きれいごとだけで仕事は回らない。だからこそ、センスに頼らず再現できるコピーライティングの基礎を、今日のメール件名や提案書から使える形でまとめます。

コピーライティングを一言で言えば、読者にしてほしいひとつの行動に向けて言葉と構成を設計する技術です。広告だけの話ではありません。社内告知で「アンケートに回答してほしい」、採用ページで「募集要項を見てほしい」、Slackで「資料を開いてほしい」。仕事のあらゆる場面で、行動はいつもひとつに絞られます。ここが曖昧だと、どれだけ美しい表現でも成果は偶然頼みになってしまいます。

誰に・何を・なぜ・どうやって・今すぐどうする。この5点を、箇条書きにしなくても頭の中で順番に確かめるところから始めてください。たとえば「忙しい管理職に」「人事制度の改定」を「残業削減の可能性があるから」「3分で要点だけ」「今日中に10問だけ回答してもらう」。このレベルまで具体になれば、言葉は自然と研ぎ澄まされます。

表現を磨く前に、まずベネフィットを明確にします。機能は「椅子の背もたれが調整可能」、ベネフィットは「午後の腰の重だるさが軽くなるかもしれない」です。相手の1日の流れの中で、何が軽くなるのか、何が速くなるのか、何が安心に変わるのかを描き出します。ベネフィットが見えれば、冗長な形容は不要になります。

そして明快さは創造性に勝る、という原則を置きます。キャッチーさを狙う前に、まず誤解の余地をなくす。たとえば社内ポータルの告知で「制度が新しくなりました」より「フレックスのコアタイム廃止。10/1開始」のほうが、関係する人にとっての価値が即時に伝わります。創造的な遊びは、その後に乗せれば十分です[2]。

読まれる1行・動く1文のつくり方

最初のひと言で「いまの自分事」にする

冒頭の目的は、最後まで読ませることではなく次の一文に進ませることです。相手の状況に直結する言葉から入ってください。「明日の会議の配布資料について」「10分で終わる入力作業のお願い」「経費精算が5分短縮になる新機能」。時間、金額、期限、回数などの具体があるだけで、読者の脳内で優先度が上がります[3]。

1メッセージ主義で迷いを消す

1通に複数のお願いを入れると、どれも実行されないまま閉じられがちです。目的をひとつに絞り、他は別のコミュニケーションに分けます。会議招集メールなら、アジェンダの背景説明や資料の読みどころを書きたくなりますが、行動は「出席の可否を返す」ただ一点です。だから件名と冒頭に「出欠の期限」と「返信形式」を書くほうが結果につながります。

数字と固有名詞であいまいさを削る

抽象は速く読めますが、記憶に残りにくい[5]。逆に固有名詞・数字・比較は理解負荷を下げ、行動を後押しします[3]。「資料を早めに」は「本日17:00までに、3ページ目まで」のように具体化します。「たくさん参加」も「営業チームから5名、人事から2名」へ。具体化は思いやりの表現でもあります。

ベネフィット→根拠→アクションの順に並べる

読者がいちばん知りたいのは「それで自分に何の良いことがあるか」。次に「本当に?の根拠」。最後に「自分は何をすればいいか」です。たとえば「会議が15分短くなる可能性があります。新しい議事進行のタイムボックスを試します。今週中に試行の同意を返信ください」。この順の流れにすると、読み手は迷いません。

Before/Afterで違いを体感する

件名の例を挙げます。「新機能のお知らせ」は実務では弱い表現です。これを「経費精算が5分短縮。スマホ撮影で自動入力」に変えると、相手のベネフィットが先頭に立ちます。採用広報なら「チーム紹介」よりも「在宅率60%、朝は家事優先OKの開発チームへ」。提案書のタイトルも「マーケティング施策案」より「広告費15%削減とCV+20%のための3つの打ち手」にしたほうが、読む理由が最初に立ち上がります。

型は裏切らない。今日から使えるフレーム

問題→解決→証拠→次の一歩

王道の順序です。たとえば社内ツール導入の周知なら、「月末の申請が集中して残業が増えている」という問題を提示し、「スマホでの申請が3分で完了するツールを試す」という解決を続けます。次に「導入企業で平均30%の処理時間短縮(例)」という証拠(出典があるなら併記)を置き、最後に「来週金曜までにテスターに立候補を」と行動を書きます。読み手の頭の中で疑問が生まれる順番に、先回りして答える設計です。

Before→After→Bridge

変化の前後を先に見せ、その橋渡しを自分の提案にする方法です。「いまは月末の精算に30分。Afterは10分で完了。その橋渡しが領収書の自動読取機能です」。この型は短文でも効きます。スライド1枚、SNSの短文、Slackのひとことにも応用しやすいのが利点です。

見出しは4Uのどれかを立てる

全部を満たす必要はありません。役立つ、緊急性がある、独自、具体のどれか一つを強くするだけで十分です。たとえば「今日中」「社外秘」「社長指示」「3分で」という語は、読者の優先順位を動かします。逆に、独自性を狙いすぎて意味がぼけるくらいなら、具体と緊急性を優先しましょう。

CTAは動詞を前に出す

行動喚起の文は、体言止めより動詞が前にあるほうが動きます[4]。「アンケートのお願い」ではなく「3分で回答する」。社外向けなら「資料ダウンロード」より「無料で資料を受け取る」。社内で丁寧にしたいときも、「ご確認のほどよろしくお願いします」より「本日17時までに可否をご返信ください」のほうが、相手にとって親切です。

仕事現場での実装術。時間と気力を節約する

まずリサーチに10分投資する

良いコピーの8割は、書く前に決まります。相手が誰で、いま何に追われ、何を避けたいのか。過去のメールの返信スピード、会議で出た懸念、部署ごとのKPI。手元の情報だけで十分です。10分だけ相手のカレンダーや直近の発言を振り返ると、言葉のトーンと優先順位が決まります。

構造を声に出して確認する

書く前に、声で言ってみます。「ベネフィット」「根拠」「アクション」の3点が息継ぎ少なく言えるなら、構造は整っています。どこかで詰まるなら、そこが余計な情報か、順序が逆です。声に出すことで、読み手が心の中でつぶやくリズムに合わせられます。

短く書いてから、必要な丁寧さを足す

最初から丁寧語で長く書くと、要点が見えなくなります。素のメモで一度、10行以内に要点だけを書く。次に、関係性や場面に合わせて必要なクッション言葉を足します。これなら、やさしさと鋭さの両立ができます。

推敲は「削る→整える→強める」の順

まず削る。重複、言い換え、前置きの長さを半分にします。次に整える。主語と述語の距離を近づけ、指示語を固有名詞に置き換えます。最後に強める。数字、期限、動詞、ベネフィットを前に移動します。3周で済ませると決めれば、推敲は怖くありません。

ミニケースで実装する

社内アンケートのお願いなら、冒頭を「人事制度の見直しに向け、3分の匿名アンケートに協力ください」から始めます。次に「残業削減や評価の透明性に直接反映する材料になります」というベネフィットを示し、「金曜17時までに、メール末尾のリンクから回答をお願いします」とアクションを書きます。採用広報のSNS投稿なら「家事との両立がしやすい開発環境を整えています。平均在宅率は60%。まずは募集要項を見てください」と、生活の実感を先に置きます。

まとめ:言葉は味方になる。今日の1行から

読み飛ばされる時代に、私たちは完璧な文章を目指す必要はありません。必要なのは、相手の時間を尊重しながらひとつの行動に導く設計です。誰に・何を・なぜ・どうやって・今すぐどうする。この順に自分の考えを並べ、冒頭で自分事化し、数字と固有名詞で具体にし、最後を動詞で締める。これがコピーライティング基礎の背骨です。

きれいごとだけでは片づかない現場が、日々の私たちにはあります。だからこそ、言葉くらいは味方にしていい。まずは今日のメール件名をひとつ書き換えてみませんか。ベネフィットを先頭に、期限と動詞を添えて。1行が変われば、相手の行動が変わり、チームの時間が少しだけ自由になります。明日の自分のために、最初の1行から始めましょう。

参考文献

  1. Wylie Communications. How people read on the web (citing Nielsen Norman Group). https://www.wyliecomm.com/2022/01/how-people-read-on-the-web/
  2. Readability Matters. Increase Readability, Reduce Cognitive Load. https://readabilitymatters.org/articles/increase-readability-reduce-cognitive-load
  3. Berkeley MIG. Unlocking the Persuasive Power of Numbers. https://cmr-mig.berkeley.edu/2024/11/unlocking-the-persuasive-power-of-numbers/
  4. MM-AIS. The science behind action-oriented words: 7 data-proven CTA tips (includes 2024 Adobe study). https://mm-ais.com/blog/the_science_behind_action_oriented_words_7_data_proven_cta_t.php
  5. 香川大学 経済学部 堀ゼミ資料. 記憶の種類(短期記憶と長期記憶). https://www.ec.kagawa-u.ac.jp/~hori/kaihodic.html

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。