2025年版 成年後見制度:家族を守る3つの準備(費用・手続きが分かる)

親の認知症リスクを見据え、成年後見制度の費用・手続き、任意と法定の違いを実例で解説。家族で合意するための3つの準備を今日から始めましょう。

2025年版 成年後見制度:家族を守る3つの準備(費用・手続きが分かる)

成年後見制度の基礎と「いま」

65歳以上の約5人に1人が認知症になる可能性が指摘される2025年。厚生労働省の推計では該当者は約730万人に達するとされます[1]。なお、推計には幅があり、直近の公的推計では令和4年の認知症の高齢者約443万人、軽度認知障害(MCI)約559万人とされ、合計で約1,000万人規模との報告もあります[1]。

家庭裁判所統計では、成年後見関係の新規申立てが年間3万件超で推移しています[2]。身近な制度でありながら、実際の使いどころや準備の仕方、費用感は「なんとなく不安」のまま語られがちです。編集部では公的資料と統計を確認し、40代女性が押さえるべき実務的な視点にしぼって整理しました。結論から言えば、早めに情報をそろえ、家族で合意をつくるほど、制度は〈負担を軽くし、生活を守る装置〉として機能します。

成年後見制度は、判断能力が低下した本人の権利を守り、財産や生活上の契約を適切に管理する仕組みです。大枠は二つ。すでに判断能力が低下した後に家庭裁判所が選任する法定後見(類型は「後見」「保佐」「補助」)と、判断能力があるうちに将来に備えて公正証書で契約しておく任意後見があります。銀行口座の管理、介護サービスの契約、施設入所や不動産の売却など、生活の要所に関わるため、仕組みを誤解なく知ることが重要です[1]。

法定後見は、本人の状態に応じて裁判所が後見人等を選び、必要な範囲で代理権や同意権を付与します。家族が選ばれる場合もあれば、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職が選ばれることもあります。統計では親族選任の割合が下がり、専門職や法人が担うケースが増えているのが近年の特徴です[3]。背景には、核家族化や単身世帯の増加、資産構成の複雑化があります。

任意後見は、元気なうちに「誰に」「どんな範囲で」将来の代理を任せるかを決め、必要になった時点で発効させる仕組みです。公証役場で契約を作成し、実際に判断能力が低下したら家庭裁判所が任意後見監督人を選任して運用が始まります。本人の意思を反映できるのが強みで、見守り契約や財産管理契約と組み合わせて、段階的に支援を設計する考え方が広がっています[4,1]。

どんな場面で力を発揮するのか

典型的なのは金融と住まいです。たとえば定期預金の解約や大口の振込、不動産の売却、施設入所の契約などは、銀行・不動産・介護の各現場で本人の意思確認が厳格に求められます。判断能力が不十分とみなされると手続きが止まり、家族だけでは前に進めません。成年後見制度が整えば、裁判所の監督のもとで適切に代理し、生活や療養上の必要な支出を実行できます。

利用が増える理由と、40代に関係する現実

親の平均寿命は延び、持ち家・金融資産・年金といった複数の収入源や財産の管理が当たり前になりました[5]。さらに共働きや遠距離別居で、子世代が平日日中の付き添いを続けるのは現実的に難しい。結果として、制度で役割と監督を明確にし、家族と専門職で分担するニーズが高まっています。40代にとっての「いま」は、親の支援と自分の将来設計を同時並行で進める局面です。

40代からの活用戦略:親のこと、自分のこと

編集部が想定するのは、次のようなケースです。たとえば41歳の長女が、70代の母の「同じ話を繰り返す」変化に気づく。財布の管理や支払いのミスが増え、通帳の残高が合わないことも出てきた。ここで「もう少し様子を見る」か「仕組みを用意する」かで、その後の負担が大きく変わります。症状が軽いうちに、任意後見と見守り契約を公証役場で整え、日常の支払いは家計アプリや通帳の記帳習慣で可視化する。判断能力が下がってからは、法定後見の申立てを視野に入れ、必要な書類や資産の一覧を家族で共有しておく。準備が早いほど、家族の時間とお金のロスは減ります。

任意後見の設計では、支援の範囲をできるだけ具体化し、本人の希望を言葉にしておくことが要です。毎月の生活費の出金方法、固定費の支払い優先順位、医療や介護の方針、住まいをどうするか。機械的に「全部任せる」ではなく、本人の価値観を反映したガイドラインを作ることが、のちの迷いを減らします。公証役場では文案の相談が可能で、地域の公証人会や司法書士会、弁護士会の窓口も併用するとスムーズです[1].

自分自身への備えも同時に考えたいテーマです。40代は就労も子育ても中盤に差し掛かり、将来の単身リスクや病気のリスクも現実味を帯びてきます。任意後見に加えて、延命治療や住まいの希望を記す事前指示書、デジタル資産の管理方針、パスワードの保管方法など、意思の見える化を進めると、身近な人にとっての負担が確実に軽くなります。

任意後見の作り方と費用感の目安

任意後見は、公証役場で公正証書の契約を作成し、法務局で登記しておくのが基本の流れです[4]。実際に発効させる段階では、家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、そこで初めて代理がスタートします[1]。費用は契約の内容や関与する専門職によって幅があります。公証役場の手数料や登記費用は数千円から数万円台が目安で、任意後見契約の登記手数料は(1件)2,600円と案内されています[4]。文案作成を専門職に依頼する場合は別途の報酬がかかります。発効後の監督人報酬は事案の複雑さや財産規模に応じて家庭裁判所が個別に定めます[2]。いずれも地域差があるため、事前に公証役場と最寄りの家庭裁判所へ確認しておくと安心です。

法定後見の申立て:期間と流れ

法定後見は、本人、配偶者、四親等内の親族、市区町村長などが家庭裁判所に申立てます。必要書類は戸籍や住民票、財産目録、収支予定、医師の診断書などで、ケースによっては鑑定が行われることもあります。期間は地域や混雑状況に左右されますが、診断書のみで進む場合は数週間から数ヶ月、鑑定が伴うとさらに時間を要するのが一般的です。費用は収入印紙、郵便切手、登記手数料に加え、鑑定がある場合は数万円から10万円程度の幅感で見込まれます。弁護士や司法書士に申立てを依頼するなら、別途報酬が発生します。いずれも最新の案内を家庭裁判所のウェブサイトで確認すると確実です。

失敗しない制度活用の勘どころ

最初の要は、タイミングです。任意後見は元気なうちにしか契約できません。家族の中で「まだ早いかな」と感じる時期こそ、本人の意思を言葉にしやすいタイミングだと考えてください。法定後見を検討する場合も、日々の支払いの滞りや詐欺・過大請求への脆弱性が見え始めた段階で、相談につないでおくことが被害予防になります。

二つ目は、透明性です。後見や財産管理は、良かれと思ってやったことが「不信」に変わりやすい領域でもあります。通帳のコピーやオンライン明細、領収書の保管、月次の出納メモなど、後から第三者が見ても分かる形で記録を残しましょう。家族間の役割分担も、曖昧な言外の期待にせず、担当と頻度、連絡手段まで具体的に合意しておくと、感情の摩耗を防げます。編集部のおすすめは、家族のグループチャットに「支払い」「通院」「手続き」の三つの話題を固定化し、写真と簡単なメモを残していく方法です。証跡がそのまま共有の安心になります。

三つ目は、金融機関対応の下準備です。口座や証券、保険、年金、公共料金の契約情報を一覧化し、名義、番号、連絡先、引落口座をひと目で追えるようにします。各社で必要書類や対応が微妙に異なるため、事前にウェブのFAQで要件を確認し、後見開始後に必要な書式を取り寄せておくと、切り替えに時間をかけずに済みます。資産の全体像が分かれば、裁判所への財産目録作成もスムーズです。

四つ目は、制度に頼り切らないことです。成年後見制度は強力なセーフティネットですが、日常生活自立支援事業(地域の社会福祉協議会が提供する日常的な金銭管理の援助)や見守りサービス、ケアマネジャーの支援など、周辺の仕組みと併用することで、本当に必要な判断だけを後見で担う設計が可能になります。結果として本人の自由が守られ、家族の負担も適正化されます。

よくある誤解と、現実的な答え

「親が嫌がれば契約はできないのでは」という不安には、現実の線引きを伝えておきましょう。任意後見は本人の自由意思が絶対条件なので、焦っても前に進みません。ただ、見守り契約や財産管理契約から始め、信頼を積み上げることで、将来の任意後見に合意しやすくなることはあります。「後見に入るとお金が全く使えなくなるのでは」という懸念については、本人の利益に資する合理的な支出は可能で、裁判所の監督のもとで適切に運用されます。「相続対策を後見で進められるか」については、原則として本人の財産を守ることが目的であり、贈与などの一方的な資産移転は厳格に制限されます[2]。遺言は本人の意思能力が前提で、後見人が代わりに作成することはできません。

今日からできる小さな一歩

一週間のスパンで考えると、現実的なステップはシンプルです。まず、親と自分の財布の流れを「見える化」します。年金の受け取り先、公共料金の引落口座、クレジットカードの明細、保険の更新時期、通院先とお薬手帳。紙ならファイルに、デジタルなら共有フォルダに、たとえ完璧でなくても「見える場所」に置きます。次に、公証役場と家庭裁判所のウェブで任意後見と法定後見の案内を読み、問い合わせ先と必要書類をメモしておきます。そして、家族グループで15分のミーティングを設定し、「困った時の連絡網」と「役割の仮置き」を決める。ここまで進めば、制度の本格利用が必要になったときに迷いません。

相談の窓口は複数あります。地域包括支援センターは介護の入口相談に強く、社会福祉協議会は日常生活自立支援事業の利用可能性を教えてくれます。法テラスは法的手続の情報提供や費用の立替制度の案内があり、弁護士会・司法書士会は個別事情に合わせた実務の相談が可能です。初回は「状況の整理」と「次の一手の確認」と割り切り、短時間で複数の窓口に当たる方が、全体像の把握が速いという実感があります。

まとめ:不安の輪郭を描けば、暮らしは守れる

成年後見制度は、私たちの暮らしを「守りながら進める」ための道具です。仕組みを知り、準備を前倒しし、家族で合意を作れば、いざという時に必要な決断を落ち着いて実行できます。完璧である必要はありません。まずは資産と手続きの情報を見える化し、任意後見と法定後見の違いを家族で共有することから始めましょう。時間の余裕があるほど、選択肢は増え、本人の意思を尊重しやすくなります。

**早い準備は、自由を奪うのではなく、自由を守る。**今日の15分で、親と自分の小さな安心を一つ増やしませんか。

参考文献

  1. 日本公証人連合会. 任意後見制度の概要と関連データ(高齢者の認知症・MCI推計等). https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow04
  2. 公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポート. 成年後見の動向(家庭裁判所統計等, 2023年8月). https://kouken.or.jp/report/trend/2308/
  3. 公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポート. 親族が後見人に選任される割合に関する統計. https://kouken.or.jp/report/trend/2308/
  4. みんなの成年後見プロジェクト. 任意後見の費用(公正証書作成・登記手数料等). https://kouken-pj.org/about/voluntary/v-cost/
  5. 公益財団法人 日本家族計画協会. 日本人の平均寿命(最新の年次データの概要). https://new.jfpa.or.jp/kazokutokenko/topics/002378.html

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。