ユニセックスの今:選ぶ理由とつまずきの正体
ユニセックスが広がった背景には、トレンドの中性化、サステナビリティ志向、そしてワーク・ライフの境界が薄れる生活の変化があります。シェアしやすい厚手スウェットやワークパンツは耐久性が高く、買う点数は抑えても、組み合わせの自由度で日々の装いはむしろ増える。一方で、「肩が落ちすぎて大きく見える」「丈が長くて野暮ったい」「ウエストが余って腰張りが強調される」といった悩みは共通しています。編集部が試着検証を繰り返す中で見えてきたのは、失敗の多くが“設計の想定身長・肩幅”と“素材の落ち感”に起因すること。ウィメンズ前提の癖(ウエストのくびれや短め丈)を外した途端、同じSでも体感は1サイズ以上変わります。つまり、数センチの丈と数ミリの生地厚が、印象を決定づけるのです。
「似合う」は重心で決まる:3つの観点
似合わせの核は重心バランスです。トップスの着丈がヒップのどこで止まるか、肩線がどこに落ちるか、そして素材が縦に落ちるか横に張るか。この三点が整うと、ユニセックス設計でも女性のボディラインに無理なく寄り添います。目安として、着丈は上半身と下半身の配分が1:2に近づく位置だと脚が長く見え、肩線は肩頂点から指1本分外に落ちるくらいがこなれときちんとの中間。張りの強い裏起毛よりも、表面がフラットで落ち感のある裏毛や天竺のほうが縦ラインを作りやすく、フェミニンもミニマルも選べる余白が生まれます。
「男性ものっぽさ」を中和する質感と言葉づかい
ユニセックスを着るとき、私たちが恐れているのは“借りてきた感”。それを中和するのは、質感のコントラストと、コーデの中に入れるささやかな「装飾の言葉」です。たとえば、ドライなチノには艶のあるレザー小物を添える。ヘビーなスウェットには繊細なジュエリーで光を一点置く。硬派なナイロンシェルには、とろみのあるインナーを重ねる。言い換えれば、ラフに一言、上品という言葉を足すだけで、印象はぐっと大人のバランスに寄っていきます。
失敗しない選び方:部位ごとの目利きとサイズ思考
ユニセックスは“サイズを下げる”だけでは解決しません。パーツごとに見るべき寸法があり、数値で確認するとブレが減ります。トップスなら肩幅・着丈・袖丈、ボトムスなら股上・わたり・裾幅、アウターならラペル幅やアームホールの太さ。オンラインでの購入でも、商品ページの寸法表と自分の基準値を照合していけば、返品を確実に減らせます。小売側でも、サイズ・フィット情報の強化やバーチャル試着ソリューションの導入が進んでおり、将来的に導入予定とする事業者も多数報告されています。[3]
トップス:肩線と着丈の“2センチ勝負”
スウェットやTシャツは、肩線が落ちすぎると上半身が大きく見えがち。ジャスト寄りを選ぶか、オーバーに振るなら着丈はヒップの頂点前後で止めると重心が下がりすぎません。袖は手の甲に少しかかる長さなら、軽く一折りして手首の骨をのぞかせると抜けが生まれます。クルーネックが詰まりすぎると胸元がフラットに見えるため、短いネックレスや縦線を作るロングチェーンで視線を縦に流すのが有効です。シャツは1サイズ下げるよりも、肩幅は適正、身幅でゆとりを出すほうがきれい。オックスの張りが強く感じる日は、ブロードやシルケットなど落ちる素材を選ぶと、ユニセックスでも柔らかさが宿ります。
ボトムス:股上の深さが安心感をつくる
ユニセックスのデニムやチノは、ウエストが余るのに太ももは合う、という“余りと窮屈の同居”が起きやすいアイテム。ここでは股上の深さが鍵です。股上が浅いとお腹周りに食い込みやすく、腰張りが強調されます。股上は30cm前後のミドル〜ハイライズが、ヒップの丸みを受け止めて安定。わたりが大きい場合は、ヒップ後ろ中心のベルトループにレザーの細ベルトを通し、前だけ軽くタックインすれば余りが均されます。裾は9〜9.5分で足首の細い部分を見せると、ワーク感の重さが軽減されます。
アウター:Vゾーンと袖太で選ぶ
ユニセックスのテーラードやMA-1、コーチジャケットは、Vゾーンと袖の太さで印象が決まります。ラペルが細すぎると顔幅が強調され、太すぎると胸元が重くなります。中庸の幅でVゾーンが程よく深いものなら、インに光沢感のあるカットソーを差すだけで女性らしさが自然に立ち上がる。MA-1は袖が太めの設計が多いので、インはノースリーブや薄手ニットで層の厚みを抑え、裾リブは腰骨に軽く乗せてブラウジング。コーチジャケットは比翼仕様などディテールのミニマルなものを選ぶと、スポーティが大人の顔に変わります。
小物:足元と指先で“借り物感”を外す
スニーカーはボリュームがありすぎると全身が下に重く見えます。ローカットで甲がやや見える設計は脚をすっきり見せ、ハイテクなら配色は2色以内に。パンプスやフラットを合わせる日は、つま先がわずかに尖るポインテッド寄りだと、ユニセックスの直線に細い線が加わりバランスが整います。リングやピアスは小ぶり1点でも十分。点の光は全体の“余白”を作ると覚えておくと、盛らずに効かせられます。
シーン別:今日から使える現実解
忙しい朝に必要なのは、悩まず決まる組み合わせの蓄えです。ユニセックスをベースに、シーンごとの“外せない条件”を一つだけ決めておくと、選択の速度が上がります。
通勤:清潔感と機能の二兎を追う
白のユニセックスシャツに、センタープレスのブラックテーパード。ポイントは着丈のコントロールで、前だけ軽くタックインし、後ろはヒップを半分覆うくらいに。袖は1カフス分だけ折り、手首の骨を見せると、会議室の蛍光灯の下でも軽やかな空気がまとえます。足元はレザーのフラット、バッグはA4が入るトート。ジュエリーは短めの一粒ネックレスで、顔周りに小さな光を置く。ONの緊張に、OFFの余白を一滴。それだけでユニセックスの直線が“仕事ができる人の余裕”に見えてきます。
週末:動きやすさに女っぽさを一匙
杢グレーのユニセックスフーディに、Iラインのスカート。足元はローカットの白スニーカー。着こなしの要はバランスで、フーディはヒップトップで止まる短めを選ぶか、長いなら裾を内側にひと折りしてブラウジング。袖口から手首と細いブレスレットをのぞかせると、部屋着感が消えます。リップは青みを抑えた血色カラーにすると、フーディのカジュアルと調和し、すっぴんに見えない最小限の整いが手に入ります。スニーカーのケアは週一で紐を外して中敷きを乾かすだけでも持ちが変わります。詳しいケアはスニーカーの正しいケアも参考にしてください。
学校行事・保護者会:端正さの温度を上げる
ネイビーのユニセックスブレザーに、とろみ素材のブラウス、足元はポインテッドのローヒール。Vゾーンが浅いブレザーなら、ブラウスは比翼やスタンドカラーで襟元をすっきりさせると清潔感が際立ちます。袖口はジャケット・ブラウスの順にずらし、白を数ミリのぞかせるだけで端正さの温度が上がります。バッグは小ぶりのレザーで、書類はサブトートに。きちんとと親しみやすさの両立は、ディテールの静かなレイヤーで叶います。
旅行・出張:撥水アウターで身軽に
撥水のユニセックスシェルに、黒のジョガーと白T。機内や移動の冷えには薄手のカーディガンを携帯し、シェルの襟元から色をひとしずく見せると顔色が明るく見えます。ポケットは多いほうが便利ですが、形はミニマルが賢明。写真にも残る旅先コーデは、装飾を足すより“線を減らす”ほうが洗練されて見えます。荷物を絞るヒントは10着で回すカプセルワードローブにもまとめています。
長く使うための運用術:直す、計算する、手放す
良いユニセックスは、手入れと運用で“相棒”になります。まずは洗濯と保管。裏返してネットに入れる、乾燥機は避けて平干しする、といった基本を徹底するだけで、型崩れと毛羽立ちは目に見えて減ります。ニットや裏毛は表面の毛玉を放置しないのがコツで、シェーバーで優しく表面をなでるだけでも表情が整います。スニーカーはインソールを乾かし、シューレースを月1で洗う。これだけで匂いも型崩れも予防できます。
次に「直す」ことへのハードルを下げましょう。街のお直し店の目安感として、デニム裾上げは数百〜1,500円前後、シャツの着丈詰めは2,000〜4,000円台、ジャケットの袖丈直しは3,000〜5,000円台。例として、国内メーカーの修理サービスではシャツの着丈詰めが約3,300円、ジャケットの袖丈直しが約2,750円という設定例があります。[5] 2,000円の投資で、着ない服が“毎週の一軍”に変わるなら、費用対効果は高いと言えます。ベルト穴の追加やウエストの微調整も数千円で対応できることが多く、ユニセックスの“惜しい”を“ちょうどいい”に変える近道です。
そしてコストを“回数”で割る考え方を持つと、判断がぶれません。たとえば15,000円のスウェットを週1回着て2年使えば、1回あたり約144円。単価が少し高くても、縫製と素材が良ければ結局は得をします。色は黒・ネイビー・グレー・ホワイトなどニュートラルがリセールでも有利で、手放すときの選択肢も広がります。家族でシェアする前提でサイズを選ぶのも合理的。もし体型バランスに不安があれば、編集部の骨格タイプ別バランス術も合わせて読んでみてください。自分の“似合う重心”がわかると、ユニセックスの地図が一気に広がります。
まとめ:小さく始めて、確かに進める
ユニセックスは“誰でも似合う魔法”ではありません。でも、数センチの丈、数ミリの生地感、そして一点の光で、昨日までの違和感はたしかに整えられます。まずはクローゼットのフーディや白シャツを鏡の前で試し、肩線と着丈を観察してみましょう。次の週末、ヒップトップで止まる着丈のスウェットを一枚迎える。あるいは、今ある一本のチノの裾を9分に詰める。それだけで、“借り物”は“自分の制服”に変わるはずです。あなたの毎日に、無理のない自由を増やす一歩を。さあ、どのユニセックスから始めますか?
参考文献
- 楽天カード「みんなのマネ活」トピック:日本人の平均身長に関するまとめ(2021年)https://www.rakuten-card.co.jp/minna-money/topic/article_2112_00001
- Impress Watch ニュース:日本全国の足の平均サイズに関する調査(2020年)https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1258322.html
- Virtusize 返品レポート(Coresight Research 2023年3月調査)オンライン返品の主因とVTO導入見込み https://www.virtusize.com/ja/articles/return-report
- PR TIMES:働く女性に関する実態調査(概要)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001009.000011795.html
- ファクトリエ「お直し・修理サービス」料金表(参考価格)https://factelier.com/repair/