アップサイクルコスメとは何か――廃棄物から価値へ
アップサイクルとは、リサイクルの「原材料に戻して再生」ではなく、「本来は捨てられるはずだった副産物や余剰資源を、その価値を活かしたまま別用途に高次利用する」発想です[4]。コスメの領域では、ワイン製造後に残るブドウの種から抽出したグレープシードオイル、ジュース搾汁後の柑橘果皮から得られる精油やエキス、精米時に出る米ぬか由来のオイル、醸造で生まれる酒粕エキス、コーヒー豆の焙煎や抽出後に残るコーヒー種子エキスなどがよく登場します[5]。これらは保湿やツヤ、香りづけといった機能性に寄与し、メイクアップの下地やリップ、ハイライターなどで存在感を発揮します[5]。
研究データでは、アップサイクル原料は一次原料(新規に栽培・採掘する原料)と比べて、採取・輸送・抽出の各工程でエネルギー使用量やCO2排出が下がる事例が報告されています。公開LCAの中には、特定の副産物由来オイルで製品当たりのカーボンフットプリントが有意に低減したケースも見られます[5]。もちろん原料や製法によって幅はありますが、メイクの一本を置き換えるだけでも、積み重なれば意味のある差になる――それがアップサイクルという選択の現実的な手応えです。
環境負荷が下がる理由を、工程で考える
環境負荷の低減は奇跡ではなく、ロジックがあります。すでに発生している副産物を使うため、栽培や採掘といった上流の負荷を新たに増やさないこと。製品レベルでは、軽量容器や詰め替えで輸送効率を上げ、店頭やECの回収ボックスを通じて容器を循環させることで廃棄物を減らせること[3,6]。さらに、バイオ由来溶媒や水使用の最適化が進んだ抽出技術の普及も追い風です[5]。数値はブランドや原料により異なりますが、こうした積み重ねがカーボンフットプリントや廃棄量の削減に直結します。
リサイクルとの違い、そして相性のよさ
リサイクルは「素材を回す」仕組みで、アップサイクルは「価値を回す」発想です[4]。どちらが正解というより、両者は相互補完の関係にあります。たとえば副産物由来の中身を選んだうえで、PCR(再生)プラスチックやガラス、アルミといった回収しやすい素材の容器を選ぶ[3]。詰め替えを用意し、空容器回収の動線を整える[6]。こうした設計が揃うと、製品としてのサステナブル度は大きく上がります。詳しくは、NOWHの「クリーンビューティー入門」も参考にしてください。
メイクで実感するアップサイクルの魅力
アップサイクルコスメは、環境のために我慢するものではありません。むしろ仕上がりや使い心地で選べるのが支持される理由です。副産物由来のオイルは粒子が細かく伸びがよいものが多く、下地やファンデーションに配合されると、薄く均一に広がって「素肌感のあるツヤ」を作りやすくなります[5]。果実の種子油はリップやチークに配合されると密着感とグロッシーな光沢を与え、粉体のブレンドに米由来のシリカやスターチを用いると、肌の凹凸をふんわりとぼかすソフトフォーカス効果が狙えます[5]。
香りはメイクの気分を左右します。柑橘果皮から得られる精油やハーブの蒸留残渣から抽出したフレグランスは、メイク前の深呼吸のスイッチになります。揮発が早すぎず甘さが残りにくい処方が増えており、在宅ワークでのカメラ越しメイクにも相性が良いと感じる人が増えています[4,5]。**「仕上がりが好きだから選ぶ」**というきっかけが、結果として資源循環の一票になる。ここに、持続可能性と日常の美意識が自然につながる力があります。
時短と多機能、ゆらぎ世代の味方
朝の5分が貴重になる35〜45歳の生活では、一本で複数の役割をこなせるアイテムが頼りになります。たとえば果実種子油をベースにしたリップ&チークは、唇と頬に同じ血色感をつくり、顔全体の統一感を瞬時に演出します。米ぬか由来のオイルを含む下地は、乾燥しやすい小鼻や口元をなめらかに整え、ファンデーションの量を自然に減らせます。にじみにくい処方のマスカラでまつげを引き上げ、最後に柑橘果皮のミストでフィックスすれば、日中のリタッチも簡単です。こうした「一本三役」や「下地で仕込み」の発想は、メイクの満足度を上げつつ、消費の点数も増やしすぎないバランスを生みます。関連するテクニックは「40代のミニマルメイク」でも解説しています。
仕上がりは妥協しない――持ち・発色のリアル
発色や持ちに不安がある人もいるかもしれません。近年は植物由来ワックスやエステルの開発が進み、顔料の分散性や皮膜形成が向上しています[4,5]。汗や皮脂への耐性は処方全体の設計に依存しますが、アップサイクル原料だからといって劣るという前提はすでに成り立ちません。むしろ、軽やかなフィット感や素肌の陰影を生かす仕上がりにおいて、選択肢の幅は広がっています。長時間のオンライン会議でもくすみにくいニュアンスカラー、マスク移行期でも使いやすい薄膜仕上げなど、いまの生活様式に寄り添う進化が続いています。
どう選ぶ?――ラベルと仕組みで見極める
アップサイクル原料かどうかは、商品ページや容器の説明に痕跡が残ります。成分名に「種子油」「果皮油」「果実エキス」「酒粕エキス」「米ぬか油」「麦芽(ビール)由来」といった表現があれば、副産物の可能性があります。さらにブランドのストーリーに、地域の生産者や醸造所、カフェやジュース工場との連携が記されている場合、資源の出どころが明確であることが多いもの[4,5]。迷ったら、原料の由来がどこまでトレースできるか、公開情報を読み比べてみてください。
容器や流通の仕組みもサステナブル度を左右します。PCRプラスチック、ガラス、アルミなどリサイクルインフラに乗りやすい素材は回収ボックスとの相性がよく、詰め替えが用意されていると廃棄をさらに減らせます[3,6]。ブランド独自の空容器回収やポイント還元があれば、使い切りの動機づけにもつながります。日常でできることは地味ですが、**「詰め替えがあるか」「回収の導線があるか」**という二点を基準にすると、選択がシンプルになります。詰め替え文化については「詰め替えコスメの続け方ガイド」も役立ちます。
認証・表記の活用と注意点
第三者認証は目安になります。オーガニック規格(例:COSMOS、Ecocert)や、アップサイクル原料の認証制度を導入する団体のロゴが記載されるケースも増えてきました[4,5]。ただし、認証は「ある/なし」で品質のすべてが決まるわけではありません。コストと公開情報のバランスを見ながら、処方の透明性が高いブランドを選ぶのが賢明です。成分の感じ方は肌質によって異なるので、新しいアイテムは腕の内側などで軽く試してから本番のメイクに取り入れると安心です。
続けるコツ――価格、香り、習慣化のつまずきを越える
価格が気になる場合は、まず使用頻度が高く消費サイクルの速いアイテムから置き換えるのが現実的です。たとえばリップバームや下地は毎日使うぶん、一本をアップサイクル原料配合に変えるだけで、環境面のインパクトも、使い切る満足感も大きくなります。**「全部を一気に」ではなく「次に買い替える一本だけ」**と決めると、無理なく続きます。
香りは好みが分かれるポイントです。柑橘やハーブの天然香料はリフレッシュに最適ですが、敏感な人には強く感じられることもあります。店頭でムエットや手の甲にのせてボリュームを確認し、顔にのせる量を微調整する。無香料や微香性のバリエーションを用意するブランドも増えています。季節で使い分けるのも有効で、夏は軽いジェルやミスト、冬はオイルリッチな下地といったチューニングが快適です。
持ちやにじみが心配なら、ベース側の工夫が効きます。保湿後に薄くティッシュオフして油分を整え、米由来のパウダーやスターチでTゾーンだけ軽くセットする。リップ&チークは指で置いてからスポンジで境目をぼかすと、マスクやマフラーでも移りにくくなります。オンライン会議が続く日は、光が当たる頬骨や鼻筋にだけハイライトを忍ばせ、全顔を厚塗りしない。こうした小さなテクニックの積み重ねが、アップサイクル処方の良さを引き出します。仕上がりの作り方は「低廃棄な暮らしのヒント」の記事でも紹介しています。
最後に、メイクは気分を上げるためのもの。アップサイクルは「正しさ」よりも「好き」で選んでいい。色や質感に心が動いたら、その一本を連れて帰る。使い切ったら、また次を選ぶ。その循環の中に、自然とサステナブルな選択が根づいていきます。
まとめ――次の一本を、未来にやさしい相棒に
年間1200億個のパッケージと、世界の食料の3分の1の廃棄。どちらも遠い話ではなく、私たちのメイクポーチとキッチンとを貫く現実です。アップサイクルコスメは、その二つをつなぐ小さな架け橋。副産物由来の原料が仕上がりの美しさを支え、詰め替えや回収の仕組みが使い切る喜びを後押しします。
次に買い替える一本を、アップサイクルにしてみませんか。 ラベルに「種子油」「果皮」「酒粕」の文字を探し、詰め替えや回収の導線があるかを確かめる。それだけで、あなたの「好き」が地球の「うれしい」に変わります。気になる色は、今日の帰り道に手の甲で。週末、鏡の前で新しい質感を試しながら、あなたらしいメイクの更新を楽しんでください。
参考文献
- University of Connecticut, Office of Sustainability. Sustainable Beauty. https://draft.sustainability.uconn.edu/2020/09/11/sustainable-beauty/
- FAO. Global Food Losses and Food Waste: Extent, Causes and Prevention (2011). https://www.fao.org/4/mb060e/mb060e00.htm
- CosmeticsDesign. Pros and cons of recycled plastic packaging (2021-12-15). https://www.cosmeticsdesign.com/Article/2021/12/15/Pros-and-cons-of-recycled-plastic-packaging/
- CosmeticsDesign-Europe. The rise of upcycled ingredients for cosmetics (2024-04-24). https://www.cosmeticsdesign-europe.com/Article/2024/04/24/The-rise-and-rise-of-upcycled-ingredients-for-cosmetics
- MDPI Sustainability. Review on upcycled ingredients and green extraction for cosmetics. https://www.mdpi.com/2071-1050/17/13/5738
- 日本化学工業協会(JCIA). 容器包装リサイクル法等に関する情報・指針. https://www.jcia.org/admin/information/detail/code/00012315