
採用現場では、1通の職務経歴書に目を通す時間は数十秒という調査結果が海外で報告されています。
2012年の米TheLaddersによるアイ・トラッキング調査では、採用担当者が履歴書を初見で評価するのに費やす時間は平均6秒とされています。[1] 国内調査でも、応募者1人あたりの書類確認にかける時間は「5分未満」と回答した企業が約6割にのぼります。[2] さらに求人動向レポートでは、書類選考の通過率が約3割程度にとどまるとの報告もあります。[3] 数字は冷徹ですが、だからこそ戦い方は明確です。読み手が最初に知りたいのは、あなたがどんな環境で何を担い、どのように成果を再現できる人なのかという点です。きれいごとの自己PRではなく、再現性のある事実と順序で勝ち取る。これが、35〜45歳の私たちが職務経歴書で差をつける最短ルートです。

読み手の現実から逆算する職務経歴書
採用担当は、限られた時間で「この人に何を任せると成果が出るか」を判断します。そこで機能するのが、冒頭に置く短い「職務要約」です。まず直近の役割と規模、得意領域、代表的な成果を一息に伝えます。求人票の要件と重なるキーワードは、自然な文脈で同義語も含めて織り込むのがポイントです。過度な盛り込みは逆効果ですが、読み手が探している言葉が見つかれば、続きを読んでもらえる確率は上がります。
30秒で伝わる「職務要約」の作り方
短い文で、現在(または直近)の役割、専門領域、成果指標、強みの裏づけ、志向性の順でまとめると伝わりやすくなります。例えば、次のように書き出します。「EC小売での販促・CRMを中心に12年。年商30億規模で年間計画の策定と運用をリードし、メール施策の改善でLTVを前年対比118%に伸長。部門横断のプロジェクト推進と育成が強み。データに基づく再現性ある改善で事業成長に貢献したい。」業界や職種が違っても、役割・規模・得意・数字・強み・志向の順番は共通の設計図として機能します。
採用要件との「一致」を見せるコツ
求人票を読みながら、必須経験、主要ツールや手法、扱う規模や対象の三つを頭の中でハイライトし、その言葉に近い語を職務経歴書の要約や各職務の冒頭に置きます。例えば、求人に「BtoBマーケ、MA運用、年商20億以上」とあれば、「BtoB領域でのMA運用(HubSpot)を3年、年商30億規模で実施」のように、相手の言葉で自分の事実を言い換えるだけで印象は大きく変わります。無理な置き換えは禁物ですが、語彙のチューニングは読み手への礼儀です。

強みは成果で語る:CARで数字に変える
成果を伝える枠組みとして、Context(状況)→Action(行動)→Result(結果)のCARが有効です。状況は簡潔に、行動は工夫や役割の分担が伝わるように、結果は定量・定性の両面でまとめます。数字が出せる場面では、前後比較や率を使うと再現性が伝わります。例えば「問い合わせ対応を担当」ではなく、「月間800件の問い合わせ体制を再設計し、平均初回応答を2.5時間から1.3時間へ短縮。FAQ整備とシフト最適化で満足度スコアを3.9から4.4へ改善」のように、前→後の変化を置くと一読で価値が伝わります。
抽象的な表現も、具体に変換できます。「新規顧客の獲得に貢献」では伝わりませんが、「セミナーの企画・運営を月2回から週1回に増やし、商談化率を12%から19%に改善。四半期で新規商談を48件創出」のように書くと、役割と結果がひと目でわかります。プロジェクト管理なら、「5部門15名の横断プロジェクトをPMとして牽引。課題票・WBSの標準化でリードタイムを23%短縮、リリース遅延をゼロ化」と表現できます。どの例にも共通するのは、自分がやった工夫と、起きた変化の対比です。
数字が出しにくい職種でも指標は設計できる
バックオフィスや人事、広報、クリエイティブなど、売上に直結しない職種でも、工数、リードタイム、エラー率、満足度、コスト、再発率、教育回数や定着など、動かした指標は必ずあります。「稟議の電子化を推進し、申請から承認までの平均日数を7.2日から3.8日に短縮」「採用広報のトーン&マナーを再定義し、応募者満足度アンケートの『情報の明瞭さ』項目を3.6から4.5へ改善」「デザインガイドを刷新し、改版時の手戻り率を約40%削減」のように、日々の改善を数字で表せば、見えにくかった価値が目に見える成果へと変わります。

40代ならではの価値を可視化する
私たちの年代は、個人で点を取るだけでなく、チームで成果を出す力が評価されるフェーズです。横断調整、育成、仕組み化、再発防止、心理的安全性の確保といった“見えにくい仕事”ほど、言語化しておく価値があります。例えば「OJTを担当」ではなく、「未経験2名の立ち上げを担当し、3か月で単独稼働に到達。標準手順を整備し、以後の立ち上げ期間を平均45日短縮」と書けば、育成が生み出す事業インパクトが伝わります。
転職回数やブランクがある場合も、後ろめたさではなく、一貫したテーマで語ると強みに変わります。職場を移った理由が「より大きな規模での改善に挑戦」「プロダクト志向の環境で経験を積む」などの学びでつながっているなら、その連続性を冒頭で明記します。介護・育児などでの離職や時短も、期間と取り組んだこと、復帰に向けた準備の三点を簡潔に書きます。「2022.4–2023.9 家族の介護に伴う離職。ケアマネとの連携を通じて調整力を実践。復帰に向け、業務再開後に必要なSaaSの資格を取得」のように事実を整えておけば、読み手は安心してスキル面の評価に進めます。
「停滞感」を経験値に変える語り方
昇進や表彰のような派手な出来事がない年でも、価値は積み上がっています。属人化した業務の棚卸し、品質基準の定義、引き継ぎや二重チェックの設計は、成果が数字に現れにくいだけで、実際には組織の損失回避に直結します。「月次レポートの定義を再設計し、数値の解釈ブレを解消。部門間の差戻しを月12件から1件に削減」「引き継ぎテンプレートを導入し、担当交代時の学習期間を実測で2週間短縮」のように、摩擦の低減を可視化すると評価されやすくなります。

見た目と送付作法で落とさない
中身が良くても、読みづらいだけで機会を逃します。職務経歴書はA4で2ページ程度を目安に、見出しと余白で情報を整理します。フォントは可読性を優先し、見出し・本文・強調の階層を明確にします。西暦か和暦かは全体で統一し、企業名や部署名の表記ゆれを避けます。プロジェクト名や略語は最初にフルスペルで示し、その後に略語を使うと親切です。なお、履歴書の様式は2020年(令和2年)7月にJIS規格の様式例が廃止され、厚生労働省が新たな様式例を公開しています。記載の統一や用語の参照先として目を通しておくと安心です。[4] 応募前には、人名や金額などの固有情報に誤りがないかを最後に必ず見直します。
ファイルの扱いも通過率に影響します。まずレイアウト崩れを防ぐためにPDF版を用意しつつ、応募フォームやATSでテキスト貼り付けを求められても問題ないよう、プレーンテキスト版も準備しておきます。ファイル名は「職務経歴書_氏名_2025MM.pdf」のように中身と更新時期が一目でわかる形にします。ポートフォリオや成果物のリンクは、アクセス権限を事前に確認し、期限なしで誰でも閲覧できる設定かをテストしておくと安心です。提出前に日付とバージョンを更新し、求人票の要件に合わせた微調整を反映した最新版のみを送付します。ATSや採用担当者は、仕事に直結するキーワードや職務要件との整合性を短時間で確認するため、内容の整流化とフォーマットの整えは有効です。[5]
応募ごとに“1割”だけ微調整する
毎回ゼロから作り直すのは非効率です。まず“マスター版”の職務経歴書を1本用意し、要約と直近2〜3件の職務欄だけを求人票に合わせて1割ほど差し替える運用にすると、品質とスピードを両立できます。要約のキーワード、代表成果の順番、ツールや規模の表記を求人に寄せるだけでも、読み手が「自社で活きる像」を描きやすくなります。応募後の面接を見据えて、微調整した箇所は自分の言葉で説明できるよう、メモに残しておくと一貫性を保てます。

まとめ:事実と順序で、静かに強く伝わる
職務経歴書は、派手な言葉で飾る書類ではありません。読み手の現実から逆算し、最初の数十秒で「任せたときの再現性」を示せば、通過率は着実に上がります。まず30分で職務要約の初稿をつくり、次に代表的な成果をCARで三つほど数字に置き換え、最後に求人票の語彙へ整えながらPDFとテキストの二種を準備する。今日できるこの小さな一歩が、次のチャンスへの扉を開きます。あなたの仕事の価値は、もうすでにそこにあります。**事実を整え、順序を整える。**それだけで、静かに、しかし確かに伝わります。
読み終えた今、どの職務からCARを書き起こしてみますか。
参考文献
- TheLadders Reveals That Job Seekers Have Six Seconds To Succeed. PR Newswire (2012). https://www.prnewswire.com/news-releases/theladders-reveals-that-job-seekers-have-six-seconds-to-succeed-143629046.html
- 書類選考にかける時間と重視項目に関する調査(HRzine). https://hrzine.jp/article/detail/2786?mode=print
- LHH「30%…書類選考の通過」. https://jp.lhh.com/knowhow/20181114_hr_ga
- 厚生労働省 履歴書様式例(JIS様式例の廃止と新様式例の作成について). https://jsite.mhlw.go.jp/toyama-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/shokugyou_shoukai/rirekisyoyousiki.html
- Indeed Career Guide: One-minute resume checklist. https://www.indeed.com/career-advice/news/one-minute-resume-checklist