「ダブルケア」経験者が語る、介護と育児の両立

育児と介護の「ダブルケア」に直面したとき。介護福祉士の松本優花が、経験者のリアルな声と、利用できる支援制度をまとめました。

「ダブルケア」経験者が語る、介護と育児の両立

親の介護と子育てのダブルケア経験談

【ライター:松本 優花(介護福祉士・ダブルケア経験者)】

「ママ、おばあちゃんまた同じこと聞いてるよ」

高校生の息子の言葉に、ハッとしました。

朝6時、母を起こして着替えを手伝い、朝食を食べさせる。その間に息子のお弁当作り。母がデイサービスに行くのを見送って、自分も仕事へ。夕方、母を迎えに行き、夕飯の支度。息子の塾の送り迎え。母の薬の管理。宿題の確認。お風呂の介助...

認知症の母(78歳)と反抗期の息子(16歳)。この3年間、私は走り続けてきました。

介護福祉士として働きながらのダブルケア。正直、何度も倒れそうになりました。でも、なんとか続けてこられた。その「なんとか」の部分を、今日はお話ししたいと思います。

私の1日、リアルに公開します

朝4時半起床の理由

5:00 起床(本当は4:30に目覚ましが鳴るけど、スヌーズ3回)
5:30 母の部屋チェック(夜中にトイレで失敗してないか確認)
6:00 母を起こして着替え(「今日は何曜日?」に10回答える)
6:30 朝食準備しながら息子のお弁当作り(冷凍食品様様)
7:00 母の薬を飲ませる(「もう飲んだ」と言い張るけど飲んでない)
7:30 息子を起こす(3回目でやっと起きる)
8:00 デイサービスのお迎え(持ち物チェックで毎回バタバタ)
8:30 自分もやっと出勤

夜も同じような感じで、気づいたら日付が変わってる。睡眠時間?4時間取れたら良い方です。

お金の話、正直にします

母のデイサービス:月8万円
訪問介護:月2万円
おむつ代:月1万円
息子の塾代:月3万円
部活の遠征費:月2万円

合計16万円。

しかも私、時短勤務にしたから給料が5万円減った。実質21万円の負担増。

「お金がない」って母に言えないし、息子の夢も応援したい。だから私が我慢するしかない。新しい服なんて2年買ってません。美容院も3ヶ月に1回。それでも足りない時は、貯金を崩してます。

一番辛かったのは、孤独でした

友達とランチ?無理。
同窓会?行けない。
息子の学校行事?半分は欠席。

「優花ちゃん、最近見ないね」って言われるたび、胸が痛かった。

でも一番辛かったのは、誰にも理解されないこと。

「施設に入れたら?」って簡単に言う人。
「息子さんにも手伝ってもらえば?」って言う人。
「仕事辞めたら楽になるよ」って言う人。

みんな悪気はない。でも、そんな簡単じゃないんです。

母は「ここにいたい」って泣くし、息子は受験で精一杯。仕事を辞めたら生活できない。八方塞がりで、夜中に一人で泣いたことも数えきれません。

助けを求めることから始まった変化

地域包括支援センターが救世主だった

限界を感じて、地域包括支援センターに電話したのが転機でした。

「一人で抱え込まないで」

ケアマネージャーさんのその一言で、涙が止まらなかった。

最初は週2回のデイサービスから。母は「行きたくない」って抵抗したけど、3週間で慣れてくれた。今では「今日はお友達に会える日?」って楽しみにしてる。

週1回のヘルパーさんも入れました。お風呂の介助をお願いして、その間に息子と話す時間ができた。たった1時間だけど、この時間が私たち親子には必要だった。

月1回のショートステイも始めました。最初は罪悪感でいっぱいだったけど、この2泊3日で私は人間に戻れる。美容院に行って、友達とお茶して、息子の試合も見に行ける。

知らなかった制度で、月3万円も節約できた

恥ずかしい話、介護保険のこと、全然知らなかったんです。

ケアマネさんに教えてもらって、びっくり。
デイサービス、1割負担でいいの?
要介護3なら、こんなにサービス使えるの?

市役所で聞いたら、高校の就学支援金も申請できるって。年収によるけど、うちは月1万円もらえることに。部活の遠征費補助もあった!

知らないって損ですね。プライドなんて捨てて、使える制度は全部使う。それが家族を守ることだって、やっと分かりました。

今、介護費用は月5万円以内に収まってます。これなら、なんとか続けられる。

「完璧」をやめたら、楽になった

手抜きのススメ

以前の私は、全部完璧にやろうとしてた。

母の食事は手作り、息子のお弁当もキャラ弁、掃除も毎日...

でも、ある日息子に言われたんです。
「ママ、冷凍食品でいいよ。それより笑ってて」

ハッとしました。

今は:

  • 週3日は宅配弁当(母も「これ美味しい」って)
  • 息子のお弁当は冷凍食品50%(文句言わない約束)
  • 掃除は週1回(誰も気にしてなかった)
  • 洗濯物は畳まない(ハンガーのまま収納)

これで睡眠時間が2時間増えました。イライラも減った。家族の笑顔も増えた。

「手抜き」じゃなくて「手放し」。これ、ダブルケアの極意です。

息子が見せてくれた成長

「俺、介護の仕事したいかも」

先月、息子が突然言い出しました。

おばあちゃんの車椅子を押しながら、
「おばあちゃん、今日は調子どう?」
って優しく声をかける息子。

学校の友達は知らないような介護保険の仕組みも理解してる。薬の管理も手伝ってくれる。何より、人の痛みが分かる子に育ってくれた。

担任の先生からも
「お母さん、息子さんすごく大人ですね。クラスで困ってる子がいると、真っ先に助けに行くんです」
って言われました。

ダブルケアは大変。でも息子にとっては、お金では買えない経験になってる。そう思うと、少し救われます。

これから先のこと、正直怖い

母の認知症は確実に進んでる。
去年できてたことが、今年はできない。
来年はもっと大変になるかもしれない。

でも、息子はあと2年で大学生。
自立してくれたら、私も介護に専念できる。

施設入所も考えてます。
要介護4になったら、もう限界かもしれない。
でも、それまでは頑張りたい。
母が「家にいたい」って言う限り。

まとめ:一人じゃないって知ってほしい

ダブルケアしてる人、本当にお疲れ様です。

毎日が戦いで、誰も褒めてくれなくて、孤独で、お金もなくて。
分かります。痛いほど分かります。

でも、一人じゃない。

地域包括支援センター、ケアマネージャー、ヘルパーさん。
SNSのダブルケア仲間、学校の先生、近所の人。
みんな、あなたの味方です。

「助けて」って言っていい。
「無理」って言っていい。
「疲れた」って泣いていい。

完璧じゃなくていい。
母も、子どもも、あなたも、みんな幸せになる方法を一緒に探していきましょう。

私もまだ道の途中。
でも、3年前より確実に楽になってる。
あなたも、きっと大丈夫。

一緒に、ゆっくり、進んでいきましょう。

松本 優花

46歳。介護福祉士、ダブルケア経験者。経験に基づく深い共感で、家族ケアの悩みに寄り添う。