心の揺らぎと上手に付き合うマインドフルネス
【ライター:高橋由美(ヨガインストラクター・マインドフルネス講師)】
朝5時。
鎌倉の海が、ゆっくりと目を覚ます時間。
窓を開けると、潮の香りが部屋に流れ込んできます。
深呼吸をひとつ。
今日も、新しい一日が始まる。
でも、こんな穏やかな朝を迎えられるようになったのは、つい最近のこと。
43歳の私も、少し前までは、朝から心がざわざわして、息苦しさを感じていました。
「なんでこんなにイライラするんだろう」
「小さなことで涙が出てしまう」
「理由もなく不安になる」
生徒さんからも、同じような声をよく聞きます。
30代後半から40代の女性たち、みんな同じような揺らぎを感じているんです。
マインドフルネスって、実はとてもシンプル
マインドフルネス。難しそうなイメージがありますよね。私も最初は座禅を組んで、無の境地に...なんて、とても無理!って思ってました。
でも違うんです。マインドフルネスは「今、この瞬間を大切にする」ただそれだけのこと。
例えば、朝のコーヒーを飲む時。いつもはスマホを見ながら、今日の予定を考えながら、慌ただしく飲んでいませんか?それを、ただコーヒーの香りを楽しみ、温かさを感じ、苦味や甘みを味わう。それだけでもマインドフルネスなんです。
私のヨガクラスでも、最初は「瞑想なんて無理」って言っていた生徒さんが、「あ、これならできる」って笑顔になる瞬間があります。特別なことじゃないんです。ただ、今ここにいる自分を感じるだけ。
私が実践している、日常の中の小さな瞑想
朝の3分呼吸
朝、目が覚めたら、すぐに起き上がらずにベッドの中で3分だけ呼吸を感じます。
「吸って...吐いて...」
ただそれだけ。でもこの3分があるだけで、一日のスタートが全然違うんです。慌ただしい朝も、「まず呼吸から」って思うと、不思議と落ち着いてきます。
生徒さんの中には「子どもに起こされて3分なんて無理!」という方もいます。そんな時は1分でも、30秒でもいいんです。トイレの中でもできますから。
体と対話する時間
ヨガを教えていて気づいたのは、私たちって自分の体の声を聞いていないということ。肩がガチガチになっていても、腰が痛くても、「まあいいか」って無視しちゃう。
だから時々、体の各部分に「調子はどう?」って聞いてあげるんです。お風呂に入っている時でも、寝る前でも。「あ、右肩が重いな」「足が冷えてる」って気づくだけで、体は喜んでくれます。
私はこれを「体との井戸端会議」って呼んでいます。ちょっとおかしいですけど(笑)。
歩きながらの気づき
駅まで歩く道、スーパーへの買い物道。いつもは「早く着かないかな」って急いでいるけど、たまには足の裏の感覚を感じながら歩いてみる。
「右足が地面につく...左足が上がる...」
最初は変な感じがするかもしれませんが、これが意外と気持ちいいんです。季節の変化にも気づけるし、「あ、こんなところに花が咲いてた」なんて発見もあります。
生徒さんが「通勤電車でもできますか?」って聞いてくれたことがあります。もちろん!つり革を握る手の感覚、足の裏の感覚を感じるだけでも立派な瞑想です。
感情の嵐がきた時の、私の対処法
先日、娘と大喧嘩をしました。些細なことだったんですが、カーッと頭に血が上って、言わなくてもいいことまで言ってしまって...。
そんな時、私が使うのが「STOP」という方法。
Stop - まず立ち止まる
Take a breath - 深呼吸をする
Observe - 今の自分を観察する
Proceed - そして進む
怒りの真っ最中は難しいけど、「あ、今私怒ってる」って気づくだけでも違います。感情に名前をつけてあげると、不思議と落ち着いてくるんです。
「怒りさん、こんにちは。今日も元気ね」なんて、心の中で話しかけたりして。すると怒りも「認めてもらえた」って満足して、少し静かになってくれるんです。
続けるって難しい?いえいえ、ゆるくでいいんです
「瞑想は毎日続けないと意味がない」なんて言われると、プレッシャーですよね。私もそう思って、「今日もできなかった...」って自己嫌悪に陥っていた時期があります。
でもある時、先生に言われたんです。「瞑想は歯磨きと同じ。やらない日があってもいい。でも、やった方が気持ちいいでしょ?」って。
それからは気が楽になりました。できない日は「今日はお休み」、できた日は「今日はできた、えらい!」って自分を褒める。そんな感じでいいんです。
私のクラスでも「週に1回でも来れたら100点」って言っています。完璧を目指すと疲れちゃいますから。
おすすめの始め方
私がおすすめしている方法をご紹介しますね。
朝起きて、顔を洗った後、鏡の前で深呼吸を3回。それだけ。「今日も一日、ゆっくりいこう」って自分に言ってあげる。
慣れてきたら、お昼休みにも。デスクで目を閉じて1分間、呼吸を数える。周りの目が気になるなら、トイレの個室でも大丈夫。
夜は、ベッドに入ってから今日あった「小さないいこと」を3つ思い出す。子どもの笑顔、美味しかったランチ、きれいな夕焼け...どんな小さなことでも。
アプリを使うのもいいですね。私も最初はアプリの音声ガイドに助けられました。一人じゃないって感じられるから。
心の揺らぎは、成長のサイン
私がいつも思い出す言葉があります。
「心が揺らぐのは、変化している証拠。成長している証拠。」
人生の大きな転換期。心が揺らぐのは当たり前のことで、むしろ自然なことなんです。
揺らぎと一緒に歩いていく方法、そのひとつがマインドフルネスだと思います。
完璧じゃなくていい。
上手にできなくていい。
続かなくてもいい。
ただ、今この瞬間、ここで深呼吸をしているあなたがいる。それだけで十分素敵なことです。
今日も、明日も、ゆっくりでいいんです。心の揺らぎと優しく付き合っていくうちに、きっと今より少し楽な自分に出会えると思います。
深呼吸をもうひとつ。
ほら、もう始まっています。