インナードライは「乾いているのにテカる」——仕組みを知れば対処はシンプル
医学文献によると、肌の最前線で外界から守っているのは角層と皮脂膜です。この二層がうまく噛み合うと、水分は角層内に保たれ、表面はなめらかに整います。ところが、洗いすぎや乾燥環境、紫外線などの刺激で角層の脂質(とくにセラミド)や天然保湿因子(NMF)が減ると、角層内の水分保持が難しくなり、TEWLが上昇します。すると肌は自己防衛として皮脂が相対的に目立ち、表面はテカるのに内側はスカスカというアンバランスが生じます。この状態が一般に「インナードライ」と呼ばれます。[1,2,6]
研究データでは、低湿度の環境や高頻度の洗顔がバリア機能を弱めることが繰り返し示されています。年齢要因も無視できません。女性はホルモン変動の影響を受けやすく、周期やプレ更年期の段階で皮脂と水分のバランスが乱れやすくなります。とくに35〜45歳では忙しさからケアが短時間化しがちで、紫外線対策の抜けや空調の乾燥が重なることで、インナードライが慢性化しやすくなります。[3,5,6]
水分と油分がアンバランスになる流れ
最初のトリガーになりやすいのは「落としすぎ」と「乾燥」です。強い洗浄剤や熱いお湯は皮脂だけでなく角層内の脂質も流し、角層のレンガとモルタルに例えられる構造の“モルタル”部分(セラミド・コレステロール・脂肪酸)を弱らせます。角層がスカスカになると水分が逃げ、肌はツッパリ感を覚えます。そのツッパリを補うように皮脂が相対的に目立つため、テカるのに乾く状態が続くのです。[1,3]
季節・年齢・紫外線が重なると難易度が上がる
冬の低湿度や夏の強い紫外線は、ともにバリア機能を乱します。紫外線は角層の脂質を酸化させ、セラミド合成にも影響すると報告されています。年齢が進むと回復スピードが遅くなるため、同じ刺激でも立て直すのに時間がかかります。だからこそ、守りと補うケアを同時に行い、刺激の総量を減らす戦略が効果的です。[1,6,7]
自己判断の落とし穴——インナードライの見極め方とよくある誤解
油取り紙で皮脂がつくからオイリー肌、と決めつけると対応を誤ります。インナードライの場合、朝は普通でも午後になるほど頬のつっぱりや粉っぽさが増え、Tゾーンはテカりやすいと感じる人が多いはずです。洗顔直後のピリつきや、メイク直後はきれいでも2〜3時間で小じわに粉がたまり、同時に小鼻周りは崩れてくるといった現象も、内側の水分不足を示唆します。混合肌という「肌質」だと固定化せず、状態としてのインナードライをとらえることが改善の近道です。
よくある誤解の一つが「皮脂が気になるなら、とにかくさっぱり洗えば解決する」という考え方です。実際には、落としすぎるほど皮脂分泌は相対的に目立ち、バリア機能は回復しづらくなります。もう一つは「化粧水だけをたっぷり与えればうるおう」という発想です。水分は入れて終わりではなく、蒸発を防ぐための油分の“フタ”が欠かせません。ミスト化粧水も単体ではすぐに飛ぶため、必ず乳液やクリームで閉じ込める流れをセットにすると、うるおいの持続力が大きく変わります。[1,5]
自宅での簡易チェックとしては、夜の洗顔後に何もつけず10分ほど置き、その後に頬や口元のつっぱり感とTゾーンのテカりの同時発生を観察してみてください。つっぱりが強いのにテカる場合は、インナードライに寄ったコンディションの可能性が高いサインです。
今日からできるインナードライ改善メソッド——洗う・補う・守るの精度を上げる
手順は難しくありません。大切なのは、落としすぎない洗顔、素早い保湿、日中の保護を一連の流れとして習慣化することです。研究データでは、マイルドな洗浄と保湿の組み合わせがTEWLを下げ、角層水分量を改善する効果が示されています。ここでは、編集部が実践しやすさを重視して再構成した方法を紹介します。[5,2]
洗いすぎをやめる——ぬるま湯と低刺激洗浄へ
まず温度を見直します。熱いお湯は皮脂と角層脂質を奪うため、32〜34℃程度のぬるま湯が理想的です。朝は皮脂量やベタつきに応じて、水洗顔かマイルドな洗顔料のどちらかを選びます。夜はメイクの濃さに合わせ、必要なときだけクレンジングを使い、洗浄は一回で終えるのが基本です。タオルで強く擦らず、やわらかく押し当てて水分をとるだけにすると、摩擦由来の赤みや乾燥を防げます。[4,3]
60秒以内の保湿——水分を入れて、油分で逃がさない
洗顔後は時間との勝負です。水分は放っておくほど蒸発しやすいので、顔を拭いたら60秒以内を目安に保湿を始めます。まずは水分を抱え込む成分(グリセリンやヒアルロン酸など)を含む化粧水や美容液で角層に水分を行き渡らせます。続いて、セラミドやコレステロール、脂肪酸といった角層脂質を補うアイテムを重ねると、バリアの“モルタル”を整える発想に近づきます。最後に乳液やクリームで油分の膜を薄くつくり、うるおいを逃がさない状態をキープします。肌表面がほんのりツヤめき、指が軽くすべる程度の仕上がりが目安です。[5,1]
ミスト化粧水を使う場合は、その直後に乳液やクリームで必ずフタをします。ミストのみは蒸発時に肌の水分も一緒に連れ出し、かえって乾燥感が増すことがあります。うるおいが続かないときは、保湿の最後にワセリンやスクワランを米粒程度だけ頬の高い位置や口元にポイント使いすると、日中の乾燥だまりを抑えやすくなります。[5]
日中の守り——紫外線と空調に負けない
紫外線はバリア機能を乱す主要因です。外出の有無にかかわらず、日焼け止めは毎朝塗りましょう。目安としては、日常生活ではSPF30〜50・PA+++程度を選ぶと安心です。乾燥を感じやすい人は、保湿力のあるテクスチャーを選ぶとメイクのノリも安定します。昼に頬のつっぱりや粉っぽさが出たら、ティッシュで汗と皮脂を軽く押さえ、ミストと乳液を少量なじませてから日焼け止めを塗り直すと、厚塗り感なく立て直せます。室内では湿度40〜60%を目安に保ち、風が直接顔に当たらない位置に座る、デスクでは小型加湿器や濡れタオルを活用するなど、環境からの乾燥刺激を減らす工夫も効いてきます。[7]
やりすぎ注意の角質ケア——低刺激・低頻度が鉄則
つるんとした手触りを求めて角質ケアに走ると、インナードライは悪化しがちです。フルーツ酸(AHA)や乳酸などの角質ケアは低濃度・低頻度から慎重に始め、肌の様子を見ながら回数を調整します。ピリつきや赤みが続くようなら中止し、保湿重視に切り替えてください。物理的なゴマージュや強い摩擦は、バリアを直撃するため避けたほうが無難です.[1]
編集部の検証メモ——4週間で感じた変化
編集部メンバーが、洗いすぎをやめる・60秒以内の保湿・日中の塗り直しという三点に絞って4週間続けたところ、午後の頬のつっぱりと小じわの目立ちが落ち着き、メイク直しの回数が減りました。あくまで実践例であり、個人差はありますが、角層の生まれ変わり周期を踏まえて4〜6週間を一つの目安に、焦らず続ける価値は十分にあると感じています。※個人の感想であり、効果効能を保証するものではありません。[1]
肌は生活の鏡——改善を後押しする習慣と季節調整
スキンケアの外側にも、インナードライの改善を支える要素があります。まず水分摂取です。厚生労働省の情報でも、飲料からの水分は1日およそ1.2リットルが目安とされ、こまめに分けてとると体表の乾燥感が和らぎやすくなります。タンパク質や必須脂肪酸(とくにオメガ3)、ビタミンC・E、亜鉛などは、肌の材料や酸化ストレス対策として役立つ栄養素として知られています。食事での摂り方は、毎食の主菜で良質なタンパク源を確保し、青魚やナッツ、色の濃い野菜や果物を意識して添える、といった現実的な工夫からで十分です。[8,7]
睡眠とストレスも見逃せません。研究では心理的ストレスがTEWLを上げる可能性が示されており、睡眠不足は回復力を鈍らせます。完璧な8時間を目指すより、就寝前の光とカフェインを控える、起床・就寝の時刻を一定にするなど、崩れにくいリズムを作ることが近道です。入浴は長風呂や熱すぎるお湯を避け、湯上がりに5分以内で保湿する習慣に変えると、うるおいのロスを最小化できます。[9,10,5]
季節や環境に合わせた調整も効果的です。夏は軽めのテクスチャーでべたつきにくい処方を選び、冬はセラミドや油分を少し厚めにして保護膜を強化します。冷暖房の風が直接当たるデスクでは、顔に向けず、加湿とこまめな保湿で乾燥のピークを作らないようにします。マスク着用が続く日は、摩擦が起こりやすい頬骨や鼻周りだけクリームを薄く重ねるなど、局所対応が奏功します。ホルモンの影響でゆらぎやすい時期は、あえて攻めのケアを控え、やさしい保湿とUV、そして十分な睡眠に戻す“原点回帰ウィーク”を設けるのも一案です.[6,7]
まとめ——完璧より、続けられる小さな一歩を
インナードライは、肌の水分と油分のアンバランスが作る“ゆらぎ”の一形態にすぎません。仕組みを知り、落としすぎない洗顔、60秒以内の保湿、日中の保護という三つの軸を習慣にすれば、状態はゆるやかに整っていきます。角層の生まれ変わりを考えると、変化を感じるまでの目安は4〜6週間。今日から何を変えますか。もし迷ったら、まずは「洗いすぎをやめる」か「保湿のタイミングを早める」のどちらか一つで構いません。できる日を増やしていくほど、午後のつっぱりやメイク崩れは少しずつ穏やかになります。より詳しいUVの考え方はこちら、クレンジングの選び方はこちら、忙しい朝の時短保湿テクはこちら、季節別の保湿戦略はこちらもあわせてどうぞ.
参考文献
- Proksch E, Brandner JM, Jensen J-M. The skin: an indispensable barrier. Experimental Dermatology. 2008;17(12):1063-1072.
- Fluhr JW, Darlenski R, Lachmann N, et al. Transepidermal water loss (TEWL) as a measure of skin barrier function: A practical approach. Contact Dermatitis. 2006;54(3):161-165.
- K’s Skin Clinic Beauty Blog. スキンケアの基本と皮膚の保湿機構(皮脂膜・NMF・セラミド). https://www.ks-skin.com/beautyblog/skincare/
- K’s Skin Clinic Column. 2017/01 洗顔・皮脂・年齢変化について. https://www.ks-skin.com/2017/01/
- Lodén M. Role of topical emollients and moisturizers in the treatment of dry skin barrier disorders. American Journal of Clinical Dermatology. 2003;4(11):771-788.
- Knackstedt R, et al. (Review including sebum as important barrier factor). PMC9428133. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9428133/
- 日本脂質栄養学会 委員会資料 オメガ脂肪酸と皮膚・紫外線. https://jsln.umin.jp/committee/omega62.html
- 厚生労働省「健康のため水を飲もう」推進運動 目安量. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suido/index.html
- bibgraph(PubMed抄録)PMID:36759891. 心理的ストレス・睡眠と皮膚バリア機能(TEWL)の関連. https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/36759891
- Lee CH, et al. Skin physiological changes during sleep and after waking: TEWL dynamics. Skin Research and Technology. 2019. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/srt.12673