更年期に不足しがちな栄養素と食事でできる対策

揺らぎが気になる更年期。骨密度は年1〜2%程度低下することがあり、のぼせは約6〜8割が経験するとされます。食生活の工夫で不調の緩和が期待できるポイントを、35〜45歳の女性向けに編集部が実例メニューとともに丁寧にまとめました。今日から始められる具体策をチェックしてください。

更年期に不足しがちな栄養素と食事でできる対策

更年期の体で起きていることと、栄養が効く理由

研究データでは、閉経移行期の女性の約60〜80%がのぼせ・ほてりを経験し [2,3]、骨密度はこの時期に年1〜2%のペースで低下しやすいことが報告されています [1]。さらに日本の食事調査では、成人女性のカルシウム摂取量が推奨量に届かない傾向が続いています [4,5]。医学文献によると、エストロゲンの低下は骨・血管・体温調節などに多面的な影響を及ぼしますが [1,3]、食事で不足しがちな栄養を整えることで、その傾きをなだらかにできる可能性があります。耳あたりの良い魔法はなくても、日々のごはんの積み重ねは静かに効いてきます。だからこそ、きれいごとではなく、実装できる食べ方を現実的に掘り下げます。

閉経前後の数年間、エストロゲンはゆるやかな波を描きながら下がっていきます。研究データでは、このホルモンの変動が骨形成のブレーキ、脂質代謝の変化、体温調節の乱れ、睡眠の質の低下に関与すると示されています [2,3]。骨密度は閉経周辺期に集中的に落ちやすく [1]、筋肉は30代以降で自然に減るトレンドにあるため、栄養と運動の両輪が不可欠です。とくに骨・筋肉・血管・神経の四つの土台を同時に支えるような食べ方が、更年期の揺らぎに対して現実的なアプローチになります。医学文献によると、カルシウムやビタミンDの適正摂取は骨密度維持に寄与し [4]、n-3脂肪酸は中性脂肪の低下に寄与する可能性が示されています。食物繊維は血糖や脂質の安定化に役立ちます。ここからは、日常の食卓に落とし込みやすい栄養素と食べ方の設計図を、根拠とともに解説します。

骨と筋肉を守る基本セット:カルシウム・ビタミンD・たんぱく質

カルシウムとビタミンDは“ペア”で考える

骨の材料になるカルシウムは、更年期にこそ土台を固めたい栄養素です。日本の食事摂取基準では、成人女性の目安量としておよそ650mg/日が掲げられています [4]が、国の調査では平均摂取が500mg前後まで落ち込む年もあり、慢性的な不足が指摘されます [5]。医学文献では、カルシウム単独よりもビタミンDと組み合わせることで骨密度維持に有利とされ [4]、血中ビタミンDが十分でない人ほど恩恵が大きい可能性が示されています。食卓では、牛乳・ヨーグルト・チーズ、小魚、豆腐・厚揚げ、青菜をローテーションで入れ、しいたけ・きくらげ・サーモン・卵黄などでビタミンDを補うイメージが現実的です。日照からのビタミンD合成も一助ですが、季節や生活パターンに左右されやすいため、食品や強化乳製品をうまく利用すると安定します。

たんぱく質は“量×質×タイミング”

筋肉は体の代謝と姿勢、体温にも直結します。研究データでは、十分なたんぱく質摂取が筋量維持を助け、レジスタンストレーニングと組み合わせると身体組成の改善に有利であると報告されています [6]。目安としては体重1kgあたり1.0〜1.2g/日を検討すると、40kg台後半〜50kg台の女性なら50〜65g/日程度を狙う計算です [6]。さらに**一食あたり20〜30gの“等配分”**が合成効率を高めると報告され、朝食の強化がカギになります。卵・納豆・豆乳・ヨーグルト・鶏むね・ツナ・さば・高野豆腐などを組み合わせ、ロイシンを多く含む大豆や乳製品、魚を中心にすると、筋たんぱく質の合成スイッチが入りやすくなります。食べ方の工夫として、朝は卵と納豆、昼は雑穀ごはんと焼き魚、夜は豆腐と鶏むねの鍋物のように、日内で途切れさせない設計にすると体感が安定します。筋肉を動かす刺激も不可欠なので、食事とともに短時間のレジスタンストレーニングを週2〜3回取り入れると効果が相乗します [6].

ビタミンKとマグネシウムで“骨の質”を底上げ

ビタミンKは骨たんぱく質(オステオカルシン)の活性化に、マグネシウムは骨や筋に広く関与し、睡眠の質にも関わる可能性が示されています。研究データでは、これらの充足が骨代謝マーカーを良好に保つ一助となりうると報告されており、日々の食卓での積み上げが現実的です。納豆や青菜、海藻、全粒穀物、ナッツ・種実を少量ずつ繰り返し登場させると、カルシウムやビタミンDの働きを後押しできます。

血管・代謝・メンタルの揺らぎを整える栄養

n-3脂肪酸(EPA/DHA)は“青魚週2回”から

更年期は脂質プロファイルが変化しやすく、LDLコレステロールや中性脂肪が上がりやすくなります。医学文献によると、EPA/DHAは中性脂肪の低下に寄与する可能性があり、気分の落ち込みに対しても一部で有望なデータが示されています。実装としては、さば・さんま・いわし・鮭などの青魚を週2回以上食卓にのせることが現実的で、缶詰や冷凍を活用すれば忙しい日でもハードルが下がります。まずは魚を食べる頻度を増やし、揚げ物の油を控えめにすることから始めるのがおすすめです。

食物繊維とカリウムで“整える力”を高める

食物繊維は腸内環境を通じて全身の代謝に影響し、LDLコレステロールの低下や食後血糖の安定化に役立ちます。穀類は白米だけでなく雑穀やオートミール、全粒パンを混ぜる工夫が有効です。豆類・野菜・きのこ・海藻を一品足すだけでも、一日の合計が伸びていきます。あわせてカリウムが多い青菜、果物、いも類を取り入れると、塩分の多い食事に傾いた日のバランスを取り戻しやすくなります [7]。むくみやすい時期にも、こうした“整える栄養”は穏やかに効いてきます。

ビタミンB群は“代謝の潤滑油”

ビタミンB6・B12・葉酸はエネルギー代謝や神経系に関与し、高ホモシステイン血症の是正にもつながるとされます。研究データでは、B群の充足が疲労感や気分の面で間接的な支えとなる可能性が示唆されています。魚、赤身肉、卵、乳、緑の葉野菜、豆類、強化シリアルを分散して取り入れると、過不足が起きにくくなります。菜食中心の方や胃酸分泌が少ない方は、B12が不足しやすい点に注意してください。

鉄は“不足しやすい人にとって重要”

プレ更年期〜移行期は月経が不規則で経血が増え、鉄不足〜鉄欠乏性貧血に陥りやすい時期です(一般に月経1回で鉄を15〜20mg程度失うとされます) [8]。逆に閉経後は必要量が下がるため、サプリメントでの過剰摂取は勧められません。食事では、あさりや赤身肉、レバー(食べ過ぎに注意)、大豆製品、小松菜などを上手に組み合わせ、ビタミンCの多い野菜や果物と一緒に食べると吸収率が上がります。コーヒーや濃い茶は食後すぐではなく、時間をずらすとロスが減らせます。ふらつきや強い疲労が続くなら、自己判断でサプリを始める前に医療機関でフェリチン(貯蔵鉄)まで検査するのが安全です。

不調のゆらぎに寄り添う+α:大豆イソフラボンと生活の整え方

大豆イソフラボンは“食事からコツコツ”

研究データでは、大豆イソフラボンがのぼせや寝汗などの血管運動神経症状を数%〜数十%程度やわらげるとする報告があり、効果の大きさには個人差があります。体内でエクオールをつくれる人は反応しやすい可能性も指摘されます。安全性の面では、通常の食品からの摂取は概ね安全とされています。まずは豆腐、納豆、きなこ、豆乳、厚揚げなどを一日一回のペースで食卓に置き、2〜3か月ほどかけて体の変化を観察するアプローチが現実的です。サプリを検討する場合は、用量と摂取期間が明確な製品を選び、甲状腺疾患など基礎疾患がある方は医療者に相談してください。

水分・カフェイン・アルコールの微調整

のぼせや動悸が強い日は、脱水が少しあるだけでもつらさが増します。こまめな水分補給に加え、カフェインは午後早めまで、アルコールは量と頻度を控えめにすると、夜間の中途覚醒が減ったと感じる人が多い印象です。睡眠環境の整え方は眠りのセルフケアが参考になります。ストレス対策は食だけでは完結しないので、呼吸や瞑想、軽い有酸素運動を食後に5〜10分差し込むと、血糖の急上昇も抑えながら心身のギアを落とせます。

一日の食べ方の実例:無理なく続く“整う”献立

朝は、納豆ごはんに卵を添え、味噌汁にはわかめと豆腐、仕上げに小松菜のおひたしをひと口。これでたんぱく質とカルシウム、ビタミンK、マグネシウム、ヨウ素がバランスよくそろいます。時間がない日は、無糖のギリシャヨーグルトにきなことバナナ、オートミールを重ね、豆乳でのばすだけでも、朝のたんぱく質と食物繊維を確保できます。昼は、雑穀ごはんに焼き鮭とほうれん草のごま和え、ひじきの煮物を足せば、n-3脂肪酸と鉄、食物繊維が自然に集まります。外食なら、そばにいなりを添え、海藻サラダを追加するだけで、血糖の乱高下を抑えながら満足感が続きます。夜は、鶏むねと厚揚げ、きのこをたっぷり入れた鍋にして、仕上げにチーズを少量落とせば、カルシウムとたんぱく質の“締め”になります。どうしても遅い時間になる日は、汁もの+たんぱく質一品+野菜一品の三点セットで軽くまとめ、炭水化物は朝や昼に多めに回すと睡眠の質が落ちにくくなります。デザートは果物を基本にし、甘いものが欲しい日は食後すぐではなく、午後の間食に少量回すと血糖の波が緩やかです。

サプリは必要?選び方と注意点の“現実解”

結論から言うと、基本は食事ファーストです。そのうえで、冬場や日照の少ない生活ではビタミンD、乳製品や小魚が苦手でカルシウムが慢性的に不足する人はカルシウム、菜食中心でB12が足りにくい人はB12、プレ更年期で経血が多く貧血の既往がある人は医療者と相談のうえ鉄、といった絞り込みが現実的です。医学文献では、高用量サプリが必ずしも有利とは限らず、むしろ過剰摂取のリスクが指摘されるケースもあります。製品を選ぶ際は、含有量と一日摂取目安、第三者検査の有無、原材料表示が明快であることを確認し、複数サプリの“重複摂取”に注意してください。

まとめ:小さな一口を積み重ねるほど、体は静かに持ち直す

更年期の揺らぎは、気合いでは解けません。でも、食卓の一口ごとは積み重なります。今日から、朝にたんぱく質を足し、日中に青魚か豆を一回、夜はカルシウムと野菜で締める。この三つの線を日々つなげていくと、数週間後には体の“基礎体力”が静かに上がっていることが期待されます。のぼせや睡眠の質、気分の波はすぐにゼロにはならないかもしれませんが、波の高さは少しずつ下がっていくことがあります。あなたの一日に、どの一口を最初に足しますか。買い物メモに豆腐と青菜、缶のさばをひとつ加えてみる。その小さな選択が、未来の骨と筋肉、血管の“ご機嫌”をつくる助けになります。続ける力を育てるために、時々の“外さない工夫”だけを意識して、完璧主義はそっと手放しましょう。

参考文献

  1. eJIM(厚生労働省). 更年期におけるエストロゲン低下と骨量減少に関する解説(骨量は閉経後に年間約1〜2%減少). リンク
  2. Reed SD et al. Racial/ethnic differences in vasomotor symptoms: review and data (PMCID: PMC6226267). リンク
  3. 国立長寿医療研究センター. 更年期症状(VMS)とSWAN研究の概要. リンク
  4. 公益財団法人 長寿科学振興財団(健康長寿ネット). カルシウム(日本人の食事摂取基準2025年版). リンク
  5. 厚生労働省. 平成19年(2007年)国民健康・栄養調査結果(栄養素等摂取量:カルシウム約510mg/日). リンク
  6. SNDJ(栄養・健康ニュース). 体重あたり1.2gのタンパク質とレジスタンス運動で高齢女性のサルコペニア肥満を改善. リンク
  7. 公益財団法人 長寿科学振興財団(健康長寿ネット). カリウム(日本人の食事摂取基準・食品中のカリウム). リンク
  8. JBIS. 女性の月経と鉄の損失(1回の月経で鉄15〜20mg相当). リンク

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。