新NISAやiDeCoをはじめ、将来のために資産運用を始めている人が増えています。これは、金融庁が実施した「NISA口座の利用状況調査」において、NISA口座数が2025年3月末で2,647万口座を突破したことからも増加傾向がみられます。

その一方で、「資産運用をなんとなく始めたけれど、思うような成果が出ていない」と悩みを抱えていませんか?
本記事では、ファイナンシャルプランナー(FP)の資格を持つ筆者が、資産形成を妨げるNG行動とその改善策を解説します。
資産形成でやりがちな5つの落とし穴

そもそも「資産運用」とは、資産(個人や企業が所有する財産)を預貯金や投資に配分(運用)することで効率的に増やすことを指します。さらに資産運用は大きく「預貯金」と「投資」の2種類に分けられます。
この記事では投資に焦点をあてて解説していきます。
預貯金の主な金融商品
- 普通預金
- 定期預金
- 積立定期預金
投資の主な金融商品
- 株式
- 債券(国債・地方債など)
- 投資信託
しかし、資産運用を始めてみたものの、「なかなか増えない」と悩んでいる人もいるかもしれません。
実は、資産運用の初心者が陥りやすいNG行動には共通点があると言われています。まずは、資産形成を始めるうえで避けたい5つのNGパターンを解説しましょう。
NG1:資産運用の明確な目標を定めていない
将来に対するお金の不安もあり、友人や会社の人など周囲からの影響がきっかけで資産運用を始める人もいるかもしれません。
ところが、明確に資産運用の目的や運用期間、金額の設定を定めずに始めることは、トラブルにつながりやすいです。
例えば、自分の目的が定まっていなかったために、おすすめされた金融商品をなんとなく購入し、後悔したというケースが挙げられます。
「何のために」「どれくらいの期間」「いくらを目指すのか」というゴールを明確にすることが、資産運用の第一歩。こうした目標設定は資産の持ち方を考えるうえで重要です。
NG2:使う予定のお金まで投資に回している
資産運用をする際、まずは「使うお金」と「備えるお金」は確保しておくことが大切です。
- 使うお金:生活維持費や冠婚葬祭の費用、税金など
- 備えるお金:生活防衛資金や将来に備えるお金など
特に「生活防衛資金」は、急な転職や病気で無収入になってしまった場合に備えて、生活費の3か月~半年分を目安に貯めておくべきだと考えられています。
資産運用は、これらのお金とは別に、使う予定のない余剰資金(余裕資金)で行うのが鉄則。短期的に必要なお金と、長期的に増やしたいお金はしっかり分けて考えましょう。
また人生には、結婚や子どもの教育、住宅の取得、退職など人の一生における出来事があり、これを「ライフイベント」と呼びます。
特に、ライフイベントの中でも、教育資金・住宅取得資金・老後資金はかかる金額が多いため、備えが必要です。つまり、ライフイベントを加味しても、数ヶ月〜1年以内に使う可能性のあるお金まで投資に回してしまうのは危険だと言えるでしょう。
NG3:値動き(価格の上下)が怖くてやめてしまう
資産運用を始めたばかりのころ、最初の値動き(価格の上下)に驚き「もうやめよう」と損失を確定してしまう人もいるはずです。
しかし、相場は常に価格が上下するのが自然なもの。資産運用をするのであれば、「上がった」「下がった」と短期的な変動に一喜一憂せず、長期的な視点をもつことが大切です。
投資における「リスク」は、リターン(資産運用による成果)の変動幅のことを示します。リスクを抑えるには、まず少額から始める「少額投資」や、複数の商品に分けて投資する「分散投資」、といった方法も有効です。
また、自分がどれだけの値下がり(損失)に耐えられるかリスク許容度を知っておくことで、ストレスの少ない運用ができます。
NG4:分散せずに1つの商品に偏る
投資初心者が陥りやすいのが、SNSや口コミなどの情報から1つの商品にだけ投資しているケースです。このように投資対象が偏ってしまうと、リスクも1点に集中し、価格が下がったときに大きなダメージを受けてしまいます。
例えば国内株式だけ、先進国株式だけといった「同じ種類の資産」では、景気や為替の影響を似たように受けやすく、値動き(価格の変化)も連動しやすい傾向があります。
一方で、株式と債券、国内と海外など、種類や地域の異なる資産に分けて投資することで、リスクを抑えることができます。投資信託やバランス型ファンドなどを活用すれば、自動的に分散された状態を作ることも可能です。
NG5:定期的に見直していない
最初に決めた積立額や商品を、何年もほったらかしたままにすることは、損失を招くリスクがあります。なぜなら、収入や家計の状況、ライフスタイルは年々変化していくものだからです。
たとえば家計の収支や支出のタイミングを表にして、先々の動きを見通す「キャッシュフロー」の考え方を取り入れることで、「無理のない投資額はどれくらいか」「急な支出に耐えられるか」といった視点が得られます。
定期的に、今の自分に合った運用になっているかを確認し、必要に応じて調整していくことが大切です。
成功に近づくために見直す3つの視点

資産形成は、ただ続けていれば成功するというものではありません。今の自分にとって「ベストな運用になっているか」を見極めるためには、以下の3つの視点を持つことが大切です。
1:自分に合った「投資目的」を持つこと
資産運用を続けるうえで最も重要なのが、「なぜ投資するのか」という目的意識です。
たとえば「10年後に夢のマイホームを購入したい」「子どもの教育費を準備しておきたい」「今から老後に向けて、少しずつでも資産を増やしたい」などの目標があれば、投資先や運用期間、リスクの取り方も明確になります。
これらの目的が曖昧であるほど、相場の変動や周囲の情報に左右されてしまい、途中で不安になったり判断に迷ったりする原因にもなります。
まずは、自身や家族の将来のライフイベントを想定し、どのタイミングに備えたいのか、自分の中で整理することから始めましょう。
2:資産運用は無理のない金額・期間で続けること
先述した資産運用は「余剰資金(余裕資金)」で行うという言葉のとおり、無理なく続けることが成功のカギです。
例えば、毎月の支出と収入を把握して、現時点のキャッシュフロー(お金の出入り)を見直し、そのうえで無理なく積み立てられる金額を設定しましょう。
資産運用を始めるときは、少額からのスタートでも構いません。大切なのは「やめないこと」です。具体的には「月5,000円からスタートして、年に1回見直す」といったルールを決めておくと、安心感を持って取り組めるでしょう。
3:情報をアップデートし、定期的に見直すこと
金融商品や制度は日々変化しています。特に2024年1月から新制度が開始となった「新NISA」や、2025年6月にはiDeCoを含む年金制度改正法が成立するなど、目まぐるしい進化を続けています。
そのため、資産運用を開始した時点の情報をアップデートせず、数年前の知識で運用を続けていると、本来得られるはずだった利益や節税効果を見逃してしまうリスクがあるでしょう。
また、制度以外にも、自身や家族のライフスタイルや家計も年々変化していくもの。そこで毎年1回は、積立額や保有商品を見直し、「今のままで運用を続けてもよいのか」を考える時間を設けることが大切です。
まとめ「なんとなく投資」を卒業しよう

今回ご紹介した5つのNG行動は、どれも投資初心者が陥りやすいものばかりです。資産運用は「なんとなく始めたまま放置してしまっている」では、なかなか成果が出にくいもの。
大切なのは、自分や家族の生活と目標に合ったスタイルで、無理のない金額で長く続けることです。
まずは将来のライフイベントや家計の状況を見つめ直し、できるところから整えていきましょう。そして、時々立ち止まり、「このままの運用でよいのか」と見直す習慣を持つことが重要です。