子どもの思春期との向き合い方
【ライター:鈴木 美紀(元中学校教師・思春期カウンセラー)】
「ママなんて嫌い!」
娘にそう言われたのは、中学2年の春。朝ごはんのメニューのことで注意しただけなのに、まるで人生最大の悲劇を経験したかのような顔をして、部屋にこもってしまいました。
ドアの向こうから聞こえる音楽。きっと私への怒りを歌にぶつけているんでしょう。
でも、その時思ったんです。「あ、始まったな」って。
中学校教師として15年間、年間450名の思春期の子どもたちと向き合ってきた私には分かっていました。これは始まり。娘の脳みそが大人になるための、大切なプロセスなんだって。
今、思春期の子どもと格闘中のお母さんたちに、元教師で現在は思春期カウンセラー、そして15歳女子と12歳男子の母である私から、「まあ、なんとかなるよ」をお伝えしたいと思います。
この子の脳みそ、今何が起きてるの?
実は思春期って、脳の大改造工事中なんです。
想像してみてください。子どもの頃はシンプルな平屋だった脳みそが、思春期になって「よし、高層ビルに建て替えるぞ!」って工事を始める感じ。でも工事って、いろんなところが同時進行で進むから、一時的にすごく住みにくくなりますよね。
感情をコントロールする部分(前頭前野)は「ちょっと待って、まだ工事中!」って言ってるのに、感情を感じる部分(扁桃体)は「もう完成!フル稼働します!」って張り切ってる。だから「なんでそんなに怒るの?」ってことが起きちゃうんです。
そして、男の子と女の子で工事の進み方が違うんですよね。
男の子の場合
- 話すのが面倒になる(工事で配線がまだ複雑につながってない)
- 体を動かすことで気持ちを整理する
- 話し合いも短時間集中型「で、結論は?」
- 一人の時間が必要
女の子の場合
- 感情があふれ出る(感情の配線が超敏感)
- 友達関係にすごく敏感になる
- とにかく話したい、聞いてもらいたい
- 共感してもらいたい気持ちが強い
うちの息子は「うん」「別に」「知らん」の3語で1日を過ごしますし、娘は30分かけて今日学校であったことを事細かに報告してくれます。どちらも正常運転です(笑)。
私たち親は、どんな存在でいればいいの?
教師時代によく言われた言葉があります。「思春期の子どもにとって、親は安全基地でいてください」って。
安全基地って、つまり「いつでも帰ってこられる場所」。冒険に出かけて、失敗して傷ついても、「ただいま」って帰ってこられる場所。怒られるかもしれないけど、でも最終的には受け入れてもらえるって分かってる場所。
具体的には、こんな感じです:
- 失敗したって「まあ、いい経験になったね」って言える心の余裕
- 機嫌の波があっても、こちらは一定の温度で接する
- 全部決めてあげるんじゃなくて、少しずつ「自分で選ぶ」練習をさせる
- でも、本当にヤバい時は迷わず手を出す
まあ、言うのは簡単ですけどね。実際は「なんで宿題やらないの!」って怒鳴っちゃったり、「もう知らない!」って言っちゃったり。私だってしょっちゅうです。
思春期の子との会話、こんな感じでやってます
まずは聞く。とにかく聞く。
教師時代に先輩から教わった鉄則:「まず聞け。意見は聞いてから」。
子どもが「学校でこんなことがあって...」って話し始めたら、途中で「それは○○すればよかったのに」って言いたくなるのを必死に我慢。まずは「そっか、それは大変だったね」って受け止める。
これが意外と難しい!特に同じような失敗を繰り返してる時は「また〜?」って言いたくなっちゃう。でも、そこをグッと堪えて、まず聞く。
男の子と女の子、接し方を変えてます
息子の場合(12歳)
車の中とか、散歩してる時とか、何かしながらの方が話してくれる。「今日学校どうだった?」って聞いても「普通」で終わりだけど、一緒にゲームしながらだと「そういえば今日、体育でさ〜」って話し出す。
質問も「どう思う?」より「どうしたい?」の方が反応がいい。長々と説明するより、「で、結論は?」って感じが好み。
娘の場合(15歳)
とにかく話を聞いてほしい。解決策なんて求めてない(これに気づくまで時間かかりました)。
「友達とケンカしちゃった」→「何が原因?どう解決する?」(これはNG)
「友達とケンカしちゃった」→「そっか、つらかったね」(これが正解)
あと、娘と話す時は時間を確保する。途中で家事を始めたりすると「もういい」ってなっちゃう。スマホも見ない。目を見て話を聞く。これだけで「お母さん、最近優しい」って言われます(笑)。
スマホ問題、どうしてます?
これ、本当に悩みますよね。スマホとSNS。
うちでも大問題でした。娘なんて深夜2時まで友達とLINEしてて、朝起きられない日が続いて。注意すると「みんなやってる!」「仲間外れにされる!」って大騒ぎ。
でも、ある日気づいたんです。頭ごなしに「ダメ!」って言うより、一緒にルールを考えた方が効果的だって。
うちのスマホルール(娘と一緒に作成)
- 夜10時以降はリビングで充電(寝室持ち込み禁止)
- 食事中はスマホ箱に入れる
- 勉強中は別の部屋に置く
- 月1回、一緒にSNSの投稿を振り返る(これが意外と効果的)
最初は「厳しすぎる!」って文句言ってましたが、実際に始めてみると「よく眠れるようになった」「集中できるようになった」って本人も効果を実感してるみたい。
息子の方は、YouTubeにハマりすぎて宿題が進まない問題が。こちらは「タイマー作戦」で、30分見たら15分勉強、っていうサイクルを作りました。
完璧じゃないですよ。今でも隠れて夜中にゲームしてることありますし。でも、前よりはましかな。
親の私たちも、実は大変な時期
正直に言うと、思春期の子育てって、親にとってもしんどい時期なんですよね。
私たち40代って、体も心も変化の真っ只中。更年期で体調が不安定だし、仕事では責任ある立場になって忙しいし、親の介護も心配になってくるし。
そんな中で思春期の子どもと向き合うって、本当に大変。子どもが「ママなんて嫌い!」って言った時、普段なら「あーはいはい」って流せるのに、なぜかその日はズーンと落ち込んじゃったり。
でも、これって私だけじゃなかった
カウンセラーになってから、同世代のお母さんたちの相談を聞いて気づいたんです。みんな同じこと感じてるって。
「子どものことより、自分の気持ちをコントロールするのが大変」
「夫とも子どものことで意見が合わない」
「もう疲れた...」
そんな時は、まず自分を労わることから。子どものケアの前に、自分のケアです。
夫婦で連携プレー
うちでは、夫と「思春期対策会議」を月1回やってます。といっても、お酒飲みながら「今月の子どもたち、どうだった?」って話すだけ。
でも、これが意外と効果的。私が感情的になっちゃった時は夫がフォローに回るし、夫が「もういい加減にしろ!」って怒りそうな時は私がクッション役に。
思春期は、終わりがある
最後に、これだけは言いたいんです。思春期って、必ず終わりが来ます。
今、毎日「疲れた...」って思ってるお母さん。大丈夫です。必ず終わります。そして、あの嵐のような日々も、いつか「懐かしいな」って思える日が来ます。
私の教え子たちも、大学生や社会人になると「あの頃は先生に迷惑かけました」って謝りに来てくれるんです。その時の彼らは、もう立派な大人。「あの頃があったから、今の自分がある」って言ってくれます。
だから今、思春期の嵐の中にいるお母さんたち。一人で頑張らなくていいです。しんどい時は周りに頼って。そして、子どもと一緒に成長していきましょう。
きっと大丈夫。私たちも、子どもたちも。