
骨格MIXを前提にする:全身の統一感は“配合比”で作る
骨格診断は一般に「ストレート・ウェーブ・ナチュラル」の3分類がベースですが、現実のからだはもっと複雑です[1]。上半身はストレート寄りなのに脚はウェーブ要素が強い、骨のフレーム感はナチュラルだけれど胸まわりだけは厚みがある――そんな「交差」が起きるのは自然です。編集部が主要サロンの公開ガイドやSNSのスタイリング解説を横断的に確認すると、近年はこの「MIX」前提の提案が明らかに増えています。キーワードは、全身をひとつの答えで決めつけないこと。部位ごとの特徴を読み取り、配合して装う発想に切り替えると、迷いは減り、毎朝の支度が軽くなります。なお、骨格診断は衣服・装飾品選択のための枠組みであり医学的診断ではありません。従来は対面方式が主でしたが、近年は機械学習を用いた自動化の試みも報告されています[1]。
まず出発点を共有します。骨格MIXは「例外」ではありません。年齢とともに筋肉や脂肪のつき方が変わり、生活や姿勢の影響も加わるため、どの人も程度の差はあれMIXです[2,3,4]。そこで役立つのが、編集部が推すシンプルな配合ルール。全身コーデの軸を決めるときは、似合うタイプの要素をおおよそ7:3の比率で取り入れることを意識します。たとえば「上半身ストレート×下半身ウェーブ」なら、シルエットはストレートのIラインを軸にしながら、素材やウエスト位置でウェーブの軽さを3割だけ足す。逆に「ナチュラル×ウェーブ」なら、サイズのゆとりはナチュラルで整えつつ、首元やアクセサリーでウェーブの繊細さを少量加える、といった具合です。
この“配合思考”にはメリットがあります。コーデが散漫にならず、写真を撮ったときに縦のラインと重心が安定します。どれか一つの正解に寄せすぎると、別の部位で無理が生じやすい。ミックスの自覚があるなら、最初から「混ぜて整える」。これだけで選ぶ基準が明確になります。
3タイプの要点をMIX目線で言い換える
ストレートの強みは厚みとハリを生かす直線的なIライン。過度に薄い生地で体の凹凸を拾うより、ほどよい厚みとジャストサイズが全体をスッと見せます。ウェーブは軽さと曲線、上半身の華奢さ。ウエスト位置を高く、首元は詰め気味でも似合いやすい。ナチュラルは骨のフレームが印象を作るので、ラフな質感やロング丈、余白のあるシルエットがこなれて見えます。ミックスタイプは、これらの要点を部位別に拾って配合するのが近道です。

部位別セルフチェック:5つの観察で“配合”の方向を決める
鏡の前に立ち、首肩、胸・肋骨、腰・ヒップ、太もも・ひざ下、足首・手足の5パーツを順に観察します。ジャッジは「どちらが少し強いか」を決めれば十分。白Tシャツと細身の黒パンツのようなプレーンな服で見て、光が正面から当たる場所を選ぶと差が見えます。
上半身(首肩・胸・肋骨):厚みか、華奢さか
鎖骨が目立たず首が短めに見えるならストレート要素が強め。鎖骨がくっきりで胸板が薄いならウェーブ寄り。肩線がしっかりして骨感が出るならナチュラルの可能性が高いと捉えます。ここで厚みが強い人は、Vネックやスキッパー、ハリのある生地で直線を作ると全身が整います。華奢さが強い人は、クルーやボートネック、柔らかい編地で上半身に軽さを。骨感が出る人は、ざっくりリブやツイード、ミドルゲージで面を作ると骨の線が悪目立ちしません。
中胴・腰:くびれの位置と厚み
ウエストが高く入るならウェーブ要素が活きます。厚みが出てくびれが曖昧ならストレート要素を軸に。骨盤の出方がしっかりで腰位置が低めならナチュラル寄り。高めならハイウエストや短丈トップスが効き、厚みがあるならハイミドルライズ×ベルトレスで面をフラットに。フレーム感が強いなら、ロングジレやシャツ羽織りで「縦」を増やすと腰の主張が和らぎます。
ヒップ・脚:重心とライン
ヒップ上部が平らで太ももにボリュームが集まるならウェーブ的。ヒップが丸く張りがあるならストレート的。ひざ下がスッと直線ならストレート、関節の凹凸が目立つならナチュラル。ウェーブ寄りは落ち感のあるフレアやマーメイドが美しく、ストレート要素が強い人はセンタープレスのストレートで潔く。ナチュラルの凹凸は、ワイドやコクーン、足首にゆとりを持たせて骨を包むとバランスが良くなります。

コーデ戦略:ベース×スパイスで“似合う”を設計する
配合比の目安は7:3。ここからは具体的な組み合わせ方をケース別に整理します。大切なのは、シルエット・素材・開き(首元)・重心の四つを同時に動かさないこと。ひとつずつ調整すると着地が安定します。
ストレート×ウェーブ:Iラインに軽さを少量
上半身に厚みがあり下半身が軽めなら、ベースはストレート。上はハリのあるジャストサイズのシャツで直線を作り、下は落ち感のあるフレアで重心をほんの少し上げます。首元は浅めのVやスキッパーで詰まりすぎを避け、アクセサリーは小さめで光を足す程度に。アウターはダブルではなくシングルのノッチドラペルや細めのテーラードで縦を強調すると、ウェーブの甘さが“効く”範囲で収まります。
ストレート×ナチュラル:直線の軸に質感の余白
フレーム感も厚みもあるタイプは、シルエットはIラインを死守しつつ、素材で抜けを作ります。上は目の詰まったカットソーやミドルゲージ、下はストレートやセミワイドで太さを均一に。ここへナチュラルのスパイスとして、リネン混のジレやロングカーディガンを一枚。足元はポインテッドのミドルヒールで直線を伸ばすと、骨の主張が洗練に変わります。
ウェーブ×ナチュラル:軽さに“面”を足して大人に
華奢さと骨感が同居する場合、甘さに逃げず、面で支えるのが肝心。上は短丈のニットやツイードで上重心を作り、下はフルレングスのワイドで骨格の線を受け止めます。首元は詰めるか、ボートで横のラインを引く。アクセは華奢一辺倒にせず、艶のある小ぶりフープなど存在感のあるものを一点。ラフなだけで終わらせず、素材の“良さ”で大人の余裕を添えると、年相応の静けさが宿ります。
色と柄、靴とバッグ:重心のダイヤルを回す
重心を上げたいときは、上半身に明るい色や光沢を。抑えたいときは、上をマット、下に艶のあるレザーやエナメルで視線を落とします。靴は甲の露出が多いほど軽さが出ます。ストレート要素が強い日は甲の覆いがあるパンプスやローファー、ウェーブを効かせたい日は甲浅のフラットやストラップを。ナチュラルの骨感が気になる日は、厚みのあるソールで地面との距離を作ると全体が安定します。バッグは線の太いトートで骨格を受け、華奢な日はミニバッグで重心を上げるなど、小物で1割調整する意識が効きます。

シーン別・アイテム別の応用:今日の予定に“MIX”を寄せる
ビジネスでは信頼感と機能性が最優先。MIXの人ほど、セットアップをベースにすると迷いません。ジャケットの肩線や着丈でタイプの差が出るので、肩が強い人は肩パッド控えめ・袖山低め、華奢な人はショート丈・袖山高めで調整します。インナーは得意な首元を選び、アクセサリーは一点に絞ると情報過多を防げます。
週末は動きやすさと気分。ストレート要素が強い人がスウェットを着るなら、厚手で目の詰まった生地を選び、ボトムはセンタープレスのジョグやストレートデニムで“整える”。ウェーブ要素が強い人なら、短丈スウェット×落ち感フレアで軽やかに。ナチュラル要素が強い人は、ロングT×リネン混ワイドに艶小物を足すとラフさが“だらしなさ”に転ばず、今の気分にマッチします。
オケージョンは写真に残るシーン。ミックスこそ、素材の格で整えます。ストレート寄りはハリのあるサテンやシャンタンでIラインのドレスを選び、ウェーブ寄りはジョーゼットやチュールで上に軽さを。ナチュラル寄りはツイードやジャカードで面を作り、シューズはつま先の形で直線・曲線を微調整します。迷ったら、ドレスは得意要素7割、小物で別タイプを3割。これで十分に華やぎます。
買い物とクローゼット運用:残す・足す・直す
ミックスの人ほど、“なんとなく可愛い”理由で増やすと渋滞します。クローゼットは、まず得意シルエットの軸(I・A・ワイドストレート)を決め、そこに合う素材だけを残す。次に足りないのは、配合比を動かせる小物です。ベルトの幅、靴の甲の露出、アクセのボリュームは、重心を数ミリ動かすダイヤル。仕上げに「直す」を恐れないこと。着丈を数センチ詰める、ウエスト位置を上げる、肩線を微調整するだけで、ミックスの“ノイズ”が消え、理想の7:3に近づきます。
失敗しにくい試着の順序
試着では、先にシルエットを決め、次に素材、最後に**開き(首・足の露出)**で微調整します。たとえばパンツなら、まず脚の縦線が出るかをチェックし、そのうえで生地のハリや落ち感を選びます。首元の開きは最後に足し引きするのがコツ。逆順にすると、素材や装飾に引っ張られてシルエットの正解を見失いがちです。

まとめ:混ぜて整える、自分の比率を見つける
ミックスは「ブレ」ではなく、「余白」です。全身をひとつのラベルで縛らなくていい。首肩・胴・ヒップ・脚・手足の5パーツを観察し、得意要素をおおよそ7:3で配合すれば、コーディネートは驚くほど安定します。予定や気分に合わせて、シルエット、素材、開き、小物のどれか一つだけを動かす。それだけで、今日のあなたに必要な“似合わせ”に寄っていけます。
明日の予定は何でしょう。会議、送迎、久しぶりの外食。ひとつ思い浮かべたら、鏡の前で自分の比率を決めてみてください。あなたのミックスは、足りないものではなく、唯一のバランス。混ぜる勇気が、整える力になる――そう思えたとき、クローゼットはもっと自由になります。
参考文献
- 近年,衣服及び装飾品選択における骨格診断の利用が注目されている…機械学習を用いた自動骨格診断システムの開発を目指している(CIR-NII). https://cir.nii.ac.jp/crid/1050863782912914688
- 早稲田大学 競争的資金等研究活動支援室ニュース(2024-11-18)筋内非収縮要素の浸潤と加齢・不活動の関連. https://www.waseda.jp/fsps/rcsports/news/2024/11/18/1924/
- MSDマニュアル家庭版:加齢に伴う体の変化. https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/24-%E9%AB%98%E9%BD%A2%E8%80%85%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E4%B8%8A%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E9%AB%98%E9%BD%A2%E8%80%85%E3%81%AE%E4%BD%93/%E5%8A%A0%E9%BD%A2%E3%81%AB%E4%BC%B4%E3%81%86%E4%BD%93%E3%81%AE%E5%A4%89%E5%8C%96
- 日経Gooday:脊柱管狭窄症と背骨の変形、加齢や筋力低下による姿勢変化の影響. https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/column/24/022200003/080100007/