車を手放して年間60〜90万円得する?家計・健康・環境の備え方

年間60〜90万円の維持費見直しで家計に余裕を作り、CO2約1〜2t削減と週150分の運動習慣化も可能に。雨天や買物、通院などの課題に備える具体策とカーシェア・宅配活用の実践案をわかりやすく紹介します。

車を手放して年間60〜90万円得する?家計・健康・環境の備え方
お金の余白が生まれる:年間コストの見える化

お金の余白が生まれる:年間コストの見える化

都市部で自家用車を持つと、維持費は年間60〜100万円に達する場合がある——駐車場代(都心で月2〜3万円台が一般的)[1]、任意保険、税金、車検、ガソリン、タイヤ・メンテナンス、そして購入費の減価まで含めると、この数字は珍しくありません。環境面でも、ガソリン車は1kmあたりおよそ200gのCO2を排出するとされ、年間走行5,000〜10,000kmなら約1〜2トンのCO2に相当します[2]。さらに健康の観点では、世界保健機関(WHO)が推奨する週150分の中強度運動[3]は、徒歩や自転車による日常移動で達成しやすくなります(国内の指針も概ね同様です[4])。編集部が各種統計と公開データを突き合わせて試算したところ、車を「持たない」だけで、家計・健康・環境の三方面で目に見える変化が起きることが分かりました。

もちろん、きれいごとでは語りきれない現実もあります。雨の日の送迎、重たいまとめ買い、急な通院、地方の交通事情。そこで本稿では、メリットを数値で捉えつつ、つまずきやすい場面にどう備えるかまで具体的に描き出します。正直であること、役に立つことを軸に、暮らしを少し軽くする選択肢としての「車なし生活」を検討してみましょう。

まずは家計のインパクトから。都市部のモデルケースを置くと、小型車を新車200万円で購入し7年使う前提では、減価は月2万〜3万円程度。ここに駐車場代が月2.5万円、任意保険が年7万円(月約5,800円)、自動車税が年3.5万円(月約3,000円)、車検・整備費の平準化で月4,000円前後、ガソリン代が走行5,000kmで月5,000〜8,000円ほど重なります。合計すると月あたり5万〜7万円台、年換算で60〜90万円前後に到達します。駐車場の高い都心部や走行距離が伸びる世帯では、100万円近づくこともあります。

一方で自家用車を手放し、必要なときだけ移動サービスを使う設計に切り替えるとどうなるでしょう。編集部の試算では、カーシェアを「週1回・2時間+月1回・6時間」、配車アプリやタクシーを「月2〜3回・短距離」、レンタカーを「年2回・日帰り〜1泊」で組み合わせると、**月1.2万〜2万円台(年15〜25万円)**に収まるケースが見えてきます。特に駐車場代が高い地域ほど差は大きく、年40〜70万円規模の固定費圧縮が現実味を帯びます。固定費が下がると、保険・投資教育費・資格取得・家電の更新など「攻めの支出」に回せる余力が増え、家計のリスク許容度も高まります。

モデルケースで比較する:固定費から変動費へ

固定費中心の自家用車と、変動費中心のオンデマンド移動では、支出の質が変わります。所有は「使っていなくてもお金が出ていく」のに対し、非所有は「使った分だけ払う」。通勤や送迎で毎日長距離を運転する生活でない限り、変動費型の方が総額は下がりやすく、支出と満足の一致度も上がります。たとえば日常の買い物や通院が公共交通と徒歩で完結する立地なら、オンデマンドの利用は週末のまとめ移動に集中します。これにより、「ガソリンが高いから予定を変える」「車検だから出費が重なる」といった予期せぬ痛みも減ります。

手放しても残る不安に値札をつける

「急な用事のとき困らないか」という不安は、金額に置き換えると解像度が上がります。月に数回の突発移動に上限を設定し、**『移動費は月1.5万円まで』**のように予算化すれば、心理的な余白が増えます。これで足りない月があるなら、翌月に繰り越して均す。年間で見れば所有より安い上、支払いはアプリ履歴で可視化され、家計アプリのタグ管理とも相性が良好です。

時間と身体が戻ってくる:移動の再設計

時間と身体が戻ってくる:移動の再設計

車を持つと、運転そのもの以外の「見えない時間」も積み上がります。月に一度の洗車や給油、定期点検や車検、冬タイヤの履き替え、駐車場の契約更新や保険の手続き。これらは合計すると月3〜5時間になることもあります。手放すと、その時間は家族との時間や睡眠、趣味、学び直しに振り向けられます。

移動手段が徒歩や自転車、公共交通にシフトすると、身体にも良い副産物が生まれます。買い物の往復で20分歩けば、1日あたり2,000〜3,000歩ほど自然に稼げます[5]。これを平日5日続けるだけで週150分の目安に手が届き、息が上がる程度の速歩を意識すれば中強度運動になります。研究データでは、日常的な歩行は体重や血圧、睡眠の質に良い影響をもたらすことが示されています[6,7]。運転による緊張や渋滞ストレスが減ることで、仕事終わりの疲労感がやわらぎ、夜の寝つきが良くなるという声も少なくありません。

脳のリセットとしての「歩く」

電車と徒歩の通勤は、目や耳に入る景色や音が小さく変化し続けるため、注意力を奪いすぎません。短い歩行が区切りとなり、気持ちを切り替えるスイッチになります。メールやチャットから離れて歩く10分間は、思考の粗探しではなく整理の時間。発想の質が変わり、職場に着くころにはToDoの優先順位が自然と整っていることもあります。

子どもの送迎と「歩ける半径」

子育て世帯が気にするのは送迎の現実です。園や習い事が徒歩・自転車圏に収まると、移動はむしろシンプルになります。雨の日は配車アプリでドアツードアに切り替え、荷物が多い日は宅配に頼る。すべてを徒歩で賄うと考えず、徒歩・公共交通・オンデマンドの三つを天気と予定で切り替えると、段取りは安定しやすくなります。

街とつながる:安全・環境・コミュニティ

街とつながる:安全・環境・コミュニティ

事故や違反のリスクが下がるのも車を持たない利点です。飲酒の席があっても帰り道を心配せずに済みますし、冬道や深夜の長距離運転を避けやすくなります。自損・当て逃げ・駐車場内の接触といった「小さなトラブル」も起こりにくく、心の余白が増えます。

環境面の効果は数字で表れます。ガソリン車の平均的な排出係数を使うと、年間5,000kmの運転をやめるだけで約1トンのCO2削減に相当します[2]。家族での国内フライトを一往復分控えるのに近いインパクトです[8]。もちろん、すべての移動をゼロにはできませんが、公共交通の利用比率が上がるほど一人あたり排出は小さくなります[9].

そして、歩く・乗る・待つのテンポで街を見ると、近所の店や公園、コミュニティのイベントに気づきやすくなります。顔なじみの商店で旬のものを教えてもらう、駅前の掲示板で子ども向けワークショップを見つける。こうした小さな接点は、防災や子育てのセーフティネットにもつながります。車で素通りしていたときには得られなかった「土地勘」と「人勘」が、暮らしの質を底上げします。

買い物・大物の搬入は発想を変える

重たいものは運ばない、と決めてしまうのも戦略です。米や水、洗剤、ペットボトルはネットスーパーや定期宅配に置き換え、家具・家電は配送設置込みを前提にする。週末の大量まとめ買いをやめ、仕事帰りや散歩のついでに少量を回収するスタイルへ寄せると、移動の負荷が急落します。歩きやすいバッグやカゴ、前後に荷物が積める自転車など、道具の更新も効果的です。

「持たない」不便を設計する:現実的な運用術

「持たない」不便を設計する:現実的な運用術

車なし生活は、根性ではなく設計の問題です。まずは住まいと動線の見直しから始めるのが、遠回りに見えて近道になります。駅や主要バス停まで徒歩10分圏、鎖骨のように複数路線へ乗り換えられるエリアは、移動の自由度が段違いです。保育園・学校・職場・よく行く病院や実家が「30分以内で結べる」ことを優先順位に置くと、日々の手間は確実に減ります。

次に、天候・子どもの送迎・大荷物という三大ハードルの定番対応を決めておきます。雨の日は迷わず配車アプリと決める、習い事の送迎は週のうち一日はオンラインや教室のシェア便に振り替える、まとめ買いは宅配で「玄関設置」まで頼む。ルール化すると、都度の意思決定に体力を奪われません。

カーシェア/タクシー:使う前提で上限を置く

所有の代わりに、カーシェアやタクシーは「使うために上限を置く」のがコツです。たとえば月1.5万円を移動サービス枠として確保し、余った分は翌月に繰り越す。遠出の必要が出たら、翌月分を前借りする。1時間あたり千円前後のカーシェアは、週末の家族の用事を一気に片付ける用途と相性が良く、距離料金を踏まえてルートをまとめればコストはさらに落とせます[10]。タクシーは「雨天の送り迎え」「終電後の安全確保」といった価値の高い場面に集中させ、**『安全のための必要経費』**として割り切ると満足度が上がります。

そして、月次で小さく振り返ること。移動履歴をアプリで眺め、無駄だった乗車がないか、徒歩や自転車に置き換えられる距離はなかったか、雨具や保冷バッグなど道具の不足はなかったかを見直します。3か月もすると、自分の生活に合ったちょうどいい配分が見えてきます。

まずは「30日トライアル」から

いきなり手放すのが不安なら、マイカーは駐車場に置いたまま30日間『使わない』実験をしてみてください。地図アプリで生活半径を可視化し、通勤・通学・買い物・通院・習い事を再配線してみる。天候が悪い日は迷わず配車アプリ、重い荷は宅配、遠出はカーシェア。30日後、実際に困った回数と費用、手間を記録で見返すと、判断は現実的になります。もし「やっぱり必要」となれば、その気づきは次のクルマ選び(サイズや駐車場、用途の明確化)に活きるはずです。

まとめ:暮らしの軽さは、選ばない勇気から

まとめ:暮らしの軽さは、選ばない勇気から

車なし生活のメリットは、お金・時間・身体・環境の四つに確かに現れます。年に数十万円の固定費が減り、月に数時間の「持ち物の世話」が消え、歩くことで週150分の運動に手が届く。CO2も1トン規模で軽くなります[2]。もちろん、不便はゼロにはなりません。けれど、徒歩・公共交通・オンデマンドを状況に合わせて切り替える設計を持てば、不便は「選択」へと変わっていきます。

次の休日、まずは徒歩15分の半径で用事を完了させる小さな実験から始めてみませんか。雨の日用のルールを一つ決める、移動サービスに月の上限を置く、宅配のアカウントを整える。そうした一歩が、暮らしの軽さを静かに後押しします。やっぱり、きれいごとだけじゃない毎日だからこそ、自分たちに合う速さと半径を、今日から更新していけます。

参考文献

  1. サラリーブログ 税と節約と投資. 東京都の駐車場代の相場と年間の車の維持費を試算. https://tax.salalive.com/parking/post/car-parking-cost-pref-tokyo/ (アクセス日: 2025-08-28)
  2. UK Government (Department for Energy Security and Net Zero). Greenhouse gas reporting: conversion factors 2023. Passenger cars (petrol) kgCO2e per km. https://www.gov.uk/government/collections/greenhouse-gas-reporting-conversion-factors-2023 (アクセス日: 2025-08-28)
  3. World Health Organization. Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour. 2020. NCBI Bookshelf (NBK566048). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK566048/ (アクセス日: 2025-08-28)
  4. 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index.html (アクセス日: 2025-08-28)
  5. Tudor-Locke C, Han H, Aguiar EJ, et al. How fast is fast enough? Walking cadence (steps/min) as a practical estimate of intensity in adults. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity. 2018;15:65. https://ijbnpa.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12966-018-0709-y (アクセス日: 2025-08-28)
  6. (総説)日常的な歩行が収縮期血圧を低下させ得ることを示す研究レビュー(PMCID: PMC8128358). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8128358/ (アクセス日: 2025-08-28)
  7. (レビュー)身体活動量の増加と睡眠の質改善との関連に関する報告(PMCID: PMC11544684). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11544684/ (アクセス日: 2025-08-28)
  8. Our World in Data. Carbon footprint of travel per passenger-kilometer. https://ourworldindata.org/travel-carbon-footprint (アクセス日: 2025-08-28)
  9. 国土交通省. 鉄道の環境負荷(CO2排出量は自動車の約1/6). https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk6_000015.html (アクセス日: 2025-08-28)
  10. タイムズカー. 料金プラン(ベーシック料金・距離料金). https://share.timescar.jp/fee/ (アクセス日: 2025-08-28)

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。