ワンルーム投資の実態を数字で検証|手取り利回り・空室・税負担

空き家率13.8%・表面利回り3〜5%の現実をデータで解き明かす。手取り利回りや空室・税負担を具体試算し、月々収支とリスク回避策まで実務的に解説。35〜45歳の資産設計に使えるチェックリスト付きで今すぐ概要を確認できます。

ワンルーム投資の実態を数字で検証|手取り利回り・空室・税負担

ワンルーム投資の実態:数字が語る“現実”

**空き家率は13.8%(2023年・総務省「住宅・土地統計調査」)**という事実は、多くの人が思う以上に日本の住宅市場が成熟し、簡単には右肩上がりにならないことを示しています[1]。民間のマーケット調査では、**東京23区のワンルーム表面利回りは概ね3〜5%**という水準が続き[2]、金利は歴史的低水準ながら上昇局面への警戒が続いています[3,4]。編集部で複数の公開データを照合すると、広告で語られる“家賃でローンが相殺できる”という甘い見立ては、実務のコストを積み上げると成立しにくい場面が少なくありません。

投資という言葉は希望を運びますが、不動産は株式や投信よりも流動性が低く、出口の難易度が高い資産です。だからこそ、賃料・空室・コスト・税の4点を、日常語で具体的に解像度高く見ていきます。きれいごとではなく、数字で向き合うこと。それが、35〜45歳というライフイベントが重なりやすい時期に、将来の選択肢を守る最短ルートだとNOWHは考えます。

実態1:利回り“3〜5%”の中身——表面ではなく手取りで考える

広告で目にするのは表面利回りですが、家賃収入から管理委託費、修繕積立金、固定資産税・都市計画税、火災地震保険、原状回復、リーシング費用、共用部電気代などを差し引いた後の手取りに目を移す必要があります。研究データでは、築年や立地に応じて空室期間は年間で数週間から数カ月の幅があり[5]、成約賃料は築年数とともに緩やかに下落する傾向が確認されています[6]。つまり、満室前提の表面利回りから、空室損と経費を控除した“実質利回り”に引き直すのが出発点です。

シミュレーション:23区ワンルームを1戸保有したら

仮に、23区内の駅徒歩7分、20平米台・単身者向け物件を2,500万円で取得したケースを考えます。募集賃料は月8.5万円、表面利回りは約4.1%です。管理委託と共益費、修繕積立金で月2万円弱、長期平均の空室損やリーシング費用を月換算で5,000〜8,000円程度見込むと、家賃8.5万円から諸経費を差し引いた実質の手取りはおおむね5.7〜6.0万円に落ち着きます。ここに35年ローン、金利1.8%前後を適用すると、元利返済は月7.5万円ほどになり、収支は毎月1.5〜1.8万円の持ち出しという姿になりがちです。金利が0.5ポイント上がれば返済額は数千円単位で増え、築年の進行により賃料は下がり、修繕積立は上がるため、キャッシュフローはさらにタイトになります。

もちろん、自己資金を多めに入れたり、より高い賃料が取れる立地・間取り・築浅を選べば事情は変わります。逆に、築古で修繕計画が甘い、管理状態が悪い、駅距離が長い物件は、見かけの利回りが高くても手取りが伸びません。編集部で複数の販売図面と成約データを読み比べると、価格と家賃の比(Price to Rent)、管理組合の積立額、配管や共用部の更新履歴、近隣の新規供給の有無が、中長期の賃料維持に直結していました。

“相場”は地図に刻まれている:立地と築年の掛け算

医学文献のような厳密さは不要でも、データに忠実である姿勢は投資でも同じです。研究データでは、駅徒歩が短い物件ほど成約までの期間が短い傾向が観測され[5]、交通利便性(駅距離)は賃料・価格形成における重要な要因と位置づけられています[7]。築年については、築年数の進行に伴い賃料水準が段階的に低下する傾向が複数の民間レポートで確認されています[6,8]。つまり、駅距離・築年・間取り・管理状態の4点を、募集サイトの過去掲載や行政統計の地域指標と照らし、期待賃料と空室期間を保守的に置くことが、最初の関門になります。

実態2:営業トークと税金の落とし穴——“節税になる”の言い換えに注意

個人向けワンルーム販売で頻出するのが、節税を強調する説明です。減価償却で給与所得と損益通算できるのは事実ですが[8]、築浅区分は償却年数が長く、初期の節税インパクトは限定的です。また、物件価格のうち土地部分は償却できません[9]。住宅ローン控除は自宅向けの制度であり、投資用には原則適用されません[10]。節税は目的ではなく副産物と捉え、キャッシュフローの健全性と出口価格の妥当性を優先して検討すべきです。

もうひとつの典型が、家賃保証(サブリース)を盾にした“安心”の訴求です。家賃保証には賃料改定条項や中途解約条項が盛り込まれているのが通例で、借り上げ賃料は周辺相場に合わせて見直され、空室リスクは完全には消えません。契約更新時に保証賃料が数%単位で減額されるケースは珍しくなく、保証=固定ではない点を契約条文で確かめる必要があります[11]。礼金・広告料・原状回復の費用負担の帰属も、実質利回りに直結します。

さらに、登場から時間が経ったスキームの中には、中古の減価償却を大きく見せるために建物比率を不自然に高く設定するなど、税務上のリスクを抱えるものもあります。編集部が国税庁の情報や判例の動向を追うと、行き過ぎた節税スキームは否認される可能性があることが示唆されています[12]。目先の住民税数万円の削減より、10年後に売却できる価格帯と、その時点までの累積持ち出しを、同じ画面で見比べるくらい慎重でいたいところです。

“ローンは家賃で返せる”の心理トラップ

数字が苦手な人ほど、月々の返済と想定家賃が近いと安心してしまいます。しかし、想定家賃は募集賃料であって、成約賃料とはズレます。入退去時には1カ月超の空室やADと呼ばれる広告費が発生することもあります。5年に一度は原状回復の負担が膨らみ、10〜15年で室内の設備更新が重なります。1年を12で割った“平均”は、現場で起きる凸凹をならした数字であることを、あらかじめ心に留めておくと判断を誤りにくくなります。

実態3:出口戦略と長期コスト——“買う前に売る時を決める”

ワンルーム投資で見落とされがちなのが、売却の難易度です。区分所有の流通価格は築年の影響を強く受け、駅距離や管理状態で買い手の裾野が大きく変わります[13]。売却時には仲介手数料、司法書士費用、場合によっては残債と売却額の差額の持ち出しが発生します。購入前に、同規模・同築年・同等立地の過去3〜5年の成約事例を複数確認し、想定売却価格のレンジを設定しておくと、保有中の判断がブレにくくなります。なお、仲介手数料の上限は宅建業法で「売買価格の3%+6万円(税別)」と定められています[14]。

長期コストでは、修繕積立金の将来計画が重要です。国交省のガイドラインでは、適正な積立水準は築年の進行とともに段階的に引き上げが推奨されています[15]。現在の積立金が著しく低いマンションは、将来的に大幅改定が避けられない可能性があります。エレベーター、給排水管、外壁改修は金額インパクトが大きく、“いま安い”の裏側に“あとで上がる”が潜むことを、総会議事録や長期修繕計画で確かめたいところです。

キャッシュフローがマイナスでも持つ理由はあるのか

税引き後の手取りがマイナスでも、老後の年金代わりやインフレ耐性、ローン返済を通じた強制貯蓄を理由に保有する選択はあります。ただし、それは“理解したうえで選ぶ”戦略であり、家計全体の安全余力が前提です。編集部の家計シミュレーションでは、教育費ピークと住宅ローン返済が重なるタイミングで、投資用の持ち出しが月1〜2万円続くと、貯蓄率は目に見えて低下しました。守りながら攻めるために、非常用資金6〜12カ月分を確保し、保険や自宅ローンの条件も並行して見直すと、投資の意思決定が格段にクリアになります。

代替案と“始める前のチェック”——あなたに合うリスクの選び方

不動産に魅力を感じつつ、ワンルームの重さが気になるなら、東証REITや不動産クラウドファンディングという選択肢も検討に値します。REITは分配金利回りが概ね3〜4%で推移し、少額・高流動性・分散が利く一方、価格変動リスクはマーケットに連動します[16]。クラウドファンディングは案件ごとに想定利回りや期間が明示され、元本保証はなく途中解約の制約があるため、説明資料とリスク開示を丁寧に読み込む姿勢が欠かせません[17]。株式や投信のインデックス投資を軸に、生活防衛資金と目的別の貯蓄を並走させる設計も、忙しいミドル世代には合理的です。

まず、手取り賃料を保守的に置き、空室率は地域の成約スピードから逆算して見込むこと。次に、購入後1年と5年のキャッシュフローを、金利±0.5%と賃料▲5%のストレスをかけて再計算しておくこと。さらに、管理組合の積立金・長期修繕計画・総会議事録で、近い将来の値上げや大規模修繕の予定を確かめること。加えて、出口価格のレンジを過去の成約事例から掴み、売却時の諸費用まで織り込んでおくこと。最後に、家賃保証は条文の賃料改定・解約条項・原状回復の負担を読み、節税トークは“副産物”と理解すること。こうして一つひとつ潰していくと、営業資料の“きれいな数字”に流されなくなります。

まとめ:数字で自分を守る、だから選べる

ワンルーム投資は、ローンでレバレッジをかけられる魅力と、流動性・空室・長期コストという重さが同居する選択です。空き家率13.8%、表面利回り3〜5%という現実の上に、あなたの家計と人生の計画を重ねていくと、答えは自然と輪郭を帯びてきます[12]。節税でも“夢”でもなく、実質利回りと出口で語る。その姿勢が、ゆらぎの多い30代後半から40代の時間を、静かに支えてくれます。

いまの自分に合うリスクはどのくらいか。手元資金は十分か。出口はどこに置くのか。心に浮かぶ問いをメモに書き出し、今日の家計簿と並べて眺めてみてください。次に取る一歩は、物件ページをお気に入りに入れることかもしれないし、REITの基礎を学ぶことかもしれない。どちらに進んでも、数字に強くなるあなたは、もう充分に前を向いています。

参考文献

  1. NHKニュース. 空き家 896万戸 過去最多に 13.8%(2024年5月4日)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240504/k10014439891000.html
  2. 日本不動産研究所. 不動産投資家調査(最新回)https://www.reinet.or.jp/?page_id=34152
  3. 日本銀行. 当面の金融政策運営について(2024年3月19日)https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2024/mpr_20240319a.htm
  4. 住宅金融支援機構. フラット35 金利情報 https://www.flat35.com/loan/flat35/kinri/
  5. アットホーム ラボ. 賃貸居住用物件 市場動向(マンスリー)https://www.athome.co.jp/market/
  6. 東京カンテイ. 賃貸市場データ(募集家賃レポート)https://www.kantei.ne.jp/report/rent/
  7. 国土交通省. 不動産鑑定評価基準(交通利便性等の評価要因)https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000040.html
  8. 国税庁. タックスアンサー No.2250「損益通算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2250.htm
  9. 国税庁. タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」(土地は償却不可)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2100.htm
  10. 国税庁. タックスアンサー No.1213「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1213.htm
  11. 消費者庁. 賃貸住宅のサブリース契約に関する注意喚起 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/lease/
  12. 野村不動産ソリューションズ. 国税庁の見解変更に伴う米国不動産減価償却の取扱い(解説)https://www.nomu.com/pro/contents/tax/20210531.html
  13. 東京カンテイ. 中古マンション価格の推移・築年影響(市況レポート)https://www.kantei.ne.jp/report/city.html
  14. 全日本不動産協会. 仲介手数料の上限について https://www.zentaku.or.jp/useful/commission/
  15. 国土交通省. マンションの修繕積立金に関するガイドライン(令和3年改訂)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/mansion/shuzen_guideline.html
  16. 不動産証券化協会(ARES). J-REIT 市況・データ(平均分配金利回り等)https://www.ares.or.jp/jreit/data/
  17. 国土交通省. 不動産特定共同事業法の概要(制度説明)https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk3_000035.html

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