セルフメディケーション税制とは?いつまで?いくら得?
2人以上世帯の一般用医薬品の年間支出はおおむね1.5〜2万円前後で推移しているとされ、季節の変わり目や子どもの感染症シーズンには出費がかさみがちです[1]。編集部にも、風邪薬や鎮痛解熱薬、胃腸薬、肩こりの貼り薬など「気づけばドラッグストアのレシートがたまっている」という声が届きます。そんな日常の出費を税負担の軽減につなげるのがセルフメディケーション税制。制度の正式名称は「特定一般用医薬品等購入費の所得控除」で、年間の対象OTC購入額が1万2,000円を超えた分(上限8万8,000円)を所得から差し引ける仕組みです[2]。研究データではありませんが、国税庁・厚生労働省の制度解説に基づく客観的な制度情報を起点に、編集部が実生活での活用ポイントを整理しました。年末調整では対応できず確定申告が必要、医療費控除とは選択制など、誤解しやすい点も含め、35〜45歳のわたしたちの家計にどう効くのかを、数字と言葉で丁寧に紐解きます[3]。
セルフメディケーション税制は、病院に行く前の軽い不調を自分で手当てする「セルフケア」を後押しする目的で2017年に始まった時限的な所得控除です[4]。現行の適用は2026年12月31日までとされています(制度は延長・改正される可能性があるため最新情報は国税庁・厚生労働省サイトで確認を)[4]。対象は「スイッチOTC」と呼ばれる成分を含む一部の一般用医薬品で、レシートやパッケージに「セルフメディケーション税制 対象」等の表示があります[3,5]。ビタミン剤や化粧品、医薬部外品の多くは対象外で、対象成分リストに該当する医薬品のみがカウントされます[3]。なお、令和6年(2024年)以降は、スイッチOTC以外でも「スイッチOTCと同種の効能・効果を有する一定の医薬品」も対象に含められるなどの見直しが行われています[3]。
控除の計算はシンプルです。1月1日から12月31日までの家計での対象OTC購入額を合算し、1万2,000円を超えた金額が所得控除の対象になります。控除できる上限額は8万8,000円です[2]。たとえば対象薬を年間4万円購入していれば控除額は2万8,000円。税金の軽減額は納めている税率によって異なりますが、所得税率10%の世帯なら所得税で約2,800円、翌年度の住民税(例示として10%)でも約2,800円、合計でおおよそ5,600円の負担減が見込めます[4]。課税所得が高いほど効果は大きく、所得税率20%の方なら同条件で合計約8,400円の軽減イメージになります[4]。
制度の基本と対象期間
対象期間は暦年単位。年の途中での引っ越しや転職があっても、1月から12月までの購入分を集計します[3]。申請者は家計の代表者(給与所得者など)で、同居の配偶者や扶養家族の購入分も合算できます[2]。ここで誤解しやすいのは「健康維持の取り組み」です。申告者本人が、その年に健康診断や特定健診、予防接種、がん検診、歯科健診など指定された健康管理の取り組みを1つ以上受けていることが前提条件になります[2]。家族全員が受ける必要はなく、申告者本人が満たせば家族分の薬代も合算できるのが実務的なポイントです[3]。
控除額と税金が軽くなる仕組み
医療費控除と同じく「所得控除」なので、課税所得を直接小さくして税額を下げます。つまり、控除額×(あなたの所得税率+住民税率)がおおまかな効果です[2]。たとえば年間の対象購入額が1万8,000円なら控除額は6,000円。所得税率5%なら所得税で300円、住民税10%で600円、合計900円の軽減になります。金額だけ見ると小さく感じますが、ドラッグストアで当たり前に買っている薬の一部が対象になるため、意識してレシートを保管し、確定申告で明細化できるかどうかが分かれ目になります。編集部の家計実験でも、冬場に風邪・インフルエンザ対策が重なる年は自然と1万2,000円のハードルを超えやすい結果になりました。
対象になる買い物とならないもの
対象になるのは、かぜ薬、解熱鎮痛薬、胃腸薬、鼻炎用内服薬、湿布や外用鎮痛消炎薬、皮膚のかゆみ止めなど、「医療用成分から一般用に転用」されたスイッチOTCを中心とした医薬品です[3]。すべての一般用医薬品が対象ではなく、同じカテゴリーの商品でも成分が異なると対象外になることがあります。いちばん確実なのは、パッケージや棚POP、レシートの「セルフメディケーション税制」対象マークや表示を確認すること[3,5]。ネット購入でも、対象表示が領収書や購入履歴に記載されていれば合算できます[3]。いっぽうで、栄養ドリンク、ビタミン剤、整腸をうたうサプリメント、コスメ、衛生用品は原則対象外です[3]。価格にポイントを充当した場合は、実際の自己負担額だけが積み上がる点にも注意してください[3]。
目印はレシートの「対象」表示と成分
最近は多くのドラッグストアのレシートに対象品名の横へ「★」「対象」などの印字があり、明細作成の助けになります[3]。もし表示がない場合は、店頭で対象マークの有無を確認し、購入後は品名・金額・日付が分かるレシートを必ず保管しましょう。パッケージの対象マークは購入後に捨ててしまいがちなので、レシート管理が実務的です。迷ったときは成分名で検索し、厚生労働省が公開する対象成分リストに載っているかを確認すると安心です[3]。なお、共通識別マークは任意表示のため、対象製品でも一部に表示がない場合があります[5]。
家族分の合算やネット購入の扱い
セルフメディケーション税制は「家計単位」の考え方で実務が進みます。同居の配偶者や扶養親族が購入した対象薬も、申告者がまとめて合算可能です[2]。たとえば中学生の子ども用の解熱薬、パートナーの花粉症薬、自分の頭痛薬や湿布を一緒に積み上げられます。ネット購入も対象ですが、ショッピングサイトの注文履歴だけでは要件を満たさないことがあり、領収書データのダウンロードや明細の印刷が必要なケースがあります[3]。返品・キャンセルがあれば差し引いて計上し、同一商品の重複計上が起きないように、月ごとに簡単な台帳をつけておくと年末の作業がぐっと楽になります。
申請の流れと必要書類、よくある落とし穴
サラリーマンでも年末調整では対応できず、確定申告で申請します[3]。必要なのは、源泉徴収票、対象薬の合計額をまとめた明細書、そして「健康診断等を受けたことが分かる書類」です[2,3]。健康診断の結果通知、特定健診の受診記録、インフルエンザなどの予防接種の領収書、がん検診の結果通知などが該当します[2]。これらは提出ではなく提示・保存が原則で、申告時は明細書の提出で足りますが、領収書類は5年間の保管義務があります[3]。医療費控除と似ていますが、合算ルールや対象範囲が異なるので、ひとつのフォルダに混在させないのがミス防止の第一歩です。
年末調整ではできない—確定申告の基本
会社員の多くは年末調整で所得税の精算が完了しますが、セルフメディケーション税制は対象外。国税庁の確定申告書等作成コーナーやe-Taxで申告するか、税務署で書面提出します[3]。まず医療費控除の画面で「セルフメディケーション税制」を選択し、年間合計額と健康診断等の受診情報を入力します[3]。所得税の減税効果は申告の還付金や追徴の計算に反映され、住民税は翌年度の納税通知書に反映されるのが一般的です。パートや副業の有無、住宅ローン控除など他の控除との兼ね合いもあるので、作成コーナーの自動計算を使って複数パターンを試し、いちばん有利な組み合わせを探すのが賢い進め方です[3]。
レシートの保管と明細書、電子申告のコツ
年の途中からでも遅くありません。財布や引き出しに眠るレシートをまず月ごとに並べ、対象表示のあるものだけを抜き出して合計してみましょう。編集部のおすすめは、スマホのクラウドストレージに「2025_セルフメディケーション」というフォルダを作り、月ごとのサブフォルダにレシートの写真やPDF領収書を投げ込む方法です。明細は、日付・店名・商品名・金額が分かれば十分。返品があればマイナス計上し、ポイントやクーポンを使ったときは差し引いた実支払額で記録します[3]。e-Taxを使う場合、マイナンバーカードと対応スマホがあればオンラインで完結しますが、最初の環境設定に時間がかかることがあります。申告期限の直前はアクセスが集中しがちなので、2月中に仮入力だけでも済ませておくと安心です。
医療費控除とどちらが得かを見極める
セルフメディケーション税制と医療費控除は同じ年に併用できません[2,4]。原則として、病院・薬局での医療費(保険適用の自己負担や治療のための医薬品購入など)の合計が大きい年は医療費控除が有利になりやすく、病院の支出が少なくOTC薬の購入が多い年はセルフメディケーション税制が候補になります。医療費控除は総所得金額等の5%か10万円のいずれか低い方を超えた部分が控除対象です[6]。たとえば年収500万円の給与所得者なら、おおよそ10万円がハードルです[6]。病院の支出が8万円、対象OTCが3万円の年を例にすると、医療費控除は8万円では要件を満たせない一方、セルフメディケーション税制なら3万円−1万2,000円=1万8,000円が控除可能で有利、という逆転が起きます。
2つは併用不可—損しない比較のしかた
比較の手順は次の通りです。まず、年間の病院・薬局での治療目的の支出(通院の自己負担、処方薬、治療のための市販薬、交通費など)を合計して医療費控除のハードルを超えるかを確認します[6]。次に、セルフメディケーション対象のOTC購入額だけを合算し、1万2,000円をどれだけ超えるかを算出します[2]。両者の控除額が分かったら、あなたの所得税率と住民税率を当てはめて、どちらの節税効果が大きいかを比べます。忙しい人ほどここで迷いがちですが、国税庁の申告作成コーナーなら「医療費控除」と「セルフメディケーション税制」を切り替えて試算できるので、数字で判断できます[3]。
具体例で見る選び方(年収別・購入額別)
年収500万円の給与所得者(所得税率10%・住民税10%と仮定)のケースを考えてみます。対象OTCが2万円なら控除額は8,000円、節税効果はおおよそ1,600円。OTCが4万円なら控除額2万8,000円で約5,600円[4]。いっぽうで、その年に病院の自己負担が12万円あれば医療費控除の方が控除額は大きくなりやすい、という方向感です。年収700万円(所得税率20%・住民税10%想定)でOTCが5万円なら、控除額3万8,000円に対し節税効果はおおよそ1万1,400円[4]。数字に置き換えると、自分の家計にとってどちらが「効く年」かが見えてきます。なお、医療費控除を選ぶ年でも、対象OTCのレシートを取っておけば翌年以降の判断材料になるので、日頃からの記録習慣は無駄になりません。
生活に根づく「備え」としての使い方
セルフメディケーション税制は、派手な一発逆転ではなく、静かに家計を軽くしてくれる仕組みです。ゆらぎ世代のわたしたちは、自分の不調だけでなく、親の通院付き添いや子どもの看病、チームの体調管理まで視野に入る時期。だからこそ、買い置きの補充はカレンダーに記録し、レシートは月次で集計し、毎年の健康診断や予防接種は家族の予定に組み込みます。これは節税テクニックであると同時に、家族の健康に対する「小さな段取り」の積み重ねでもあります。編集部の取材ノートには、秋に保湿剤と風邪薬、春に花粉症薬、夏に虫さされ薬と胃腸薬といった季節のリズムが刻まれており、これを意識するだけで対象額がどれくらいになりそうかの見当がつくようになりました。制度は税制改正により見直されることがあり、直近では対象の重点化や適用期限の延長が行われています[4]。
しなやかな家計管理のヒント
制度はいつか終わる可能性があり、対象成分の見直しが行われることもあります[4]。だからこそ、今使える制度は静かに使い切る。つらいときに無理しないよう、必要な薬を適切に備えつつ、レシートを整えておく。確定申告のハードルは高く見えますが、一度フォーマットを作れば翌年以降は転記に近くなり、所要時間は短くなっていきます。完璧でなくて大丈夫。まずは今月分のレシートを1枚の封筒かフォルダに入れ、次の週末に合計してみる。そんな小さな一歩が、来年の春の還付や住民税の軽減、そして暮らしの安心感へとつながっていきます。
まとめ:数字で「軽くする」を、習慣に
セルフメディケーション税制は、1万2,000円超〜8万8,000円までの対象OTC購入額を所得から差し引ける、家計にやさしい仕組みです[2]。年末調整ではできないこと、健康診断等の受診が前提であること、医療費控除と同年併用はできないこと。この3点を押さえ、レシートの保管と月次の集計を習慣化できれば、無理なく恩恵を受けられます。今、あなたの財布やアプリに残るレシートを数枚取り出してみると、すでにハードルに手が届いているかもしれません。次のドラッグストアの買い物から対象表示に目を留め、確定申告の下書きを2月中に一度作ってみる。今日の小さな行動が、来年の負担感を確実に軽くします。
参考文献
- 総務省統計局「家計調査 二人以上の世帯・品目別支出(一般用医薬品関連)」集計ページ(eStat転載)https://ecitizen.jp/statdb/StatsData/0003168331
- 国税庁 タックスアンサー No.1129「特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1129.htm
- 国税庁「セルフメディケーション税制(確定申告特集)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/keisubetsu/self-medication.htm
- 厚生労働省「セルフメディケーション税制について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_57281.html
- 日本薬剤師会「セルフメディケーション税制(共通識別マーク等の案内)」https://www.nichiyaku.or.jp/drug-store-info/system/document01.html
- 国税庁 タックスアンサー No.1120「医療費控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm