35〜45歳女性が知るべき個人年金保険の選び方5つ

毎月の不足リスクや女性の長生きに対応するため、35〜45歳女性が知っておくべき個人年金保険の選び方を5つに整理。利回り・税制・手数料・iDeCoとの使い分けなど実例で分かりやすく解説。短時間で読めるチェックリストと家計に無理ない設計やケース別アドバイスも。

35〜45歳女性が知るべき個人年金保険の選び方5つ

個人年金保険の基礎と誤解をほどく

金融庁の報告(2019年)では、高齢夫婦無職世帯で毎月約5万円の不足が生じる可能性が示され、30年で約1,300万〜2,000万円の取り崩しが必要になり得ると指摘されました[1](前提によって幅はありますが、例えば月5万円×30年なら約1,800万円)。さらに、生命保険文化センターの調査では**「ゆとりある老後の生活費」は月約36.1万円**という結果が公表されています[2]。厚生労働省の統計でも女性の平均寿命は80代後半(2019年時点で87.45歳)に達し[3]、私たちの世代にとって「長く生きること」は喜びと同時に現実的なマネー課題にもなります。低金利とインフレが同時に進む局面では、貯金だけで備えるのは心もとないと感じる一方、投資の値動きには踏み切れない。その間にある選択肢として語られるのが「個人年金保険」です。ただ、名前に“保険”とつくからといって、万能でも絶対でもありません。編集部は、公開資料や統計の数字を起点に、メリットと注意点を地図のように整理しました。大事なのは、商品を買うことではなく、あなたの老後資金計画の中で何をどこまで個人年金保険に託すかを決めることです。

個人年金保険は、公的年金に上乗せするために自分で積み立て、将来に年金形式または一時金で受け取る私的な保険です。貯蓄と同じように見えますが、実態は「保障と運用が一体化した長期契約」。円建ての定額タイプ、運用成績で受取額が変わる変額タイプ、為替の影響を受ける外貨建てなどがあり、それぞれでリスクと見通しが違います。受け取り方も、一定期間だけ年金として受け取る確定年金、生存している限り終身で受け取る終身年金、夫婦で指定できるタイプなどが存在します。毎月払いや年払い、一時払いといった払込方法でも返戻率(払込に対する受取総額の割合)は変わります。

税制の観点では、条件を満たす契約なら個人年金保険料控除の対象になります[4]。新制度の上限では、所得税で最大4万円[5]、住民税で最大2万8千円[6]が所得控除されます。例えば課税所得の税率が所得税10%・住民税10%の人なら、満額控除を使うと単純計算で年間約6,800円の節税効果が期待できます。もちろん実際の効果は所得や加入額により異なりますが、控除による“手取りベースの利回り上乗せ”は見逃せない要素です。

一方で、注意も欠かせません。円建て定額は元本と予定利率が見えやすい反面、インフレが進むと実質的な購買力は目減りします。変額は長期でリターンが期待できる一方、元本割れの可能性があり、運用・管理コストもかかります。外貨建ては金利の妙味があっても、受取時の円ベースは為替で上下し、為替手数料も無視できません。さらに中途解約時は解約控除がかかり、特に初期は元本割れしやすいのが一般的です。販売員のトークではなく、必ず「契約概要」「注意喚起情報」「約款」といった公表書類でコストとリスクを確認してください。

向いている人・向いていない人のリアル

キャリアが波のように変化する私たちの世代にとって、毎月の固定の積立は心理的な安心をくれます。特に、将来の生活費の一部を「確実に年金として受け取りたい」「長生きリスクへの備えを厚くしたい」という人には、終身や保証期間付きの設計がフィットします。反対に、教育費や住宅ローンの比率が高く、当面は流動性(いつでも取り崩せるお金)が重要な人、またはiDeCoやつみたてNISAなど税制面やコストで有利な制度をまだ使い切っていない人は、まずそちらの枠を検討するのが合理的です。借入の金利が高いケースや、数年内に大きな出費の予定がある場合も、解約リスクを考えると優先度は下がります。

“利回り”ではなく“手取り”で比べる

広告に踊る単年の利回りや返戻率だけでは、実力は測れません。見るべきは、手数料・解約控除・税制の影響を含めた手取りベース。例えば、40歳で毎月1万円を20年積み立て、60歳から10年の確定年金で受け取る定額タイプをイメージしてください。低金利下では総受取が払込総額と同程度〜数%上回る程度にとどまる設計も珍しくありません。ところが個人年金保険料控除を20年にわたり活用できれば、毎年の節税分が“見えないリターン”として積み上がります。一方、変額タイプで年率3%の運用が続いた場合は総受取の上振れが期待できる半面、相場次第では元本を割り込む可能性もゼロではありません。どちらが良いかは、あなたの家計の耐久力と、値動きへの許容度次第です。

選び方のステップを設計に置き換える

最初にすることは「目的を具体化する」ことです。何歳から毎月いくら、どのくらいの期間を、どの費目に充てるかを言葉にします。例えば「65歳から90歳までの25年間、生活費のベースとして月5万円を上乗せする」というように、金額と期間をセットにするだけで、必要な原資が見えます。退職金や公的年金、iDeCoやつみたてNISAの取り崩しと重ね合わせ、どの層を個人年金保険で埋めるのかを決めましょう。一般に、老後の基本生活費は年金収入で6〜7割をカバーできると安心感が増しますが、その残りを何で補うかが設計の要です。

次に、家計の“呼吸”を確認します。いまの固定費と教育費の山谷、ボーナスや副業収入の有無を踏まえ、無理なく続けられる払込プランを描きます。月払いならキャッシュフローはなだらかですが返戻率は控えめになりがちで、年払いや一時払いは返戻率で有利な反面、資金の拘束が強くなります。払込の停止・再開、減額や払済(それ以上の保険料を払わずに保障を小さくして継続)といった柔軟性がどこまで許容されているかも、早めに確認しておくと安心です。

受取設計では、確定年金か終身年金か、単身か夫婦かを選びます。女性は平均寿命が長いため、終身を一部に組み込むと「長生きの安心」が増します[3]。ただし終身年金は同じ払込でも確定年金より受取額が小さくなりやすい点は織り込みましょう。インフレへの備えとしては、変額や外貨建てを全体のごく一部にとどめる、あるいは保険は円建てで堅く持ち、別枠でつみたてNISAを成長枠として積み立てるなど、役割分担で考えると過度なリスクを抱えずに済みます。

最後に、商品選定です。手数料は表に出にくいので、返戻率の前提、年金管理費、特約の費用、解約控除の期間と水準を、各社の「契約概要」「注意喚起情報」で確認し、同条件で複数社の見積もりを並べてください。個人年金保険料控除を使うなら、契約者・被保険者・年金受取人の組合せなど、控除の適用要件を満たしているかも要チェックです[4]。ネット完結の商品はコストが抑えられる傾向がある一方、対面には設計相談の価値があります。どちらを選ぶにせよ、“よく分からないまま契約しない”ことが最大の防御です。

商品タイプごとの要点を自分の言葉にする

円建て定額は受取額が読みやすく、家計のベースに向きます。ただしインフレには弱いため、生活費のコアを担わせる代わりに、レジャーやゆとり費は別の成長資産で賄う、といった棲み分けが有効です。変額は長期の時間分散が効く人向けで、マーケットの波に付き合えるなら、将来のインフレに対する自然なヘッジになり得ます。外貨建ては金利や通貨分散の観点で魅力がある一方、為替の影響と手数料の層が厚く、円ベースのブレを生活設計が許容できるかが鍵です。どのタイプも途中解約に弱いため、生活防衛資金は別途、当座預金や流動性の高い資産で確保したうえで検討しましょう。

ケースで学ぶ「納得の選択」

ケース1は39歳の正社員、子どもが小学生で教育費の波がこれから来る人です。月1万円の円建て個人年金保険を20年間積み立て、60歳から10年間、月2.5万円を受け取る設計を少額で始め、控除の恩恵を受けながら、成長枠は別途のつみたてNISAに任せています。これにより、流動性を残しながら老後資金の“ベース部分”に小さな柱を立てることができました。数年後に教育費の見通しが立ったら、年払いに切り替えて返戻率を引き上げる余地も残しています。

ケース2は42歳のフリーランスで収入が変動する人です。iDeCoを最優先で掛金を設定し、景気の波に強い低コスト商品で長期運用。個人年金保険は変額タイプを少額で併用し、受取は65歳からの終身の一部にしました。収入が薄い年は個人年金の払込を一時停止し、余裕が戻れば再開する運用ルールをあらかじめ決めておくことで、契約を守り切るストレスを小さくしています。

ケース3は45歳の会社員で、退職金の一部を一時払で活用する想定です。外貨建てを検討しつつ、為替の影響を生活設計が許容できるかを慎重にシミュレーションし、結果として円建ての一時払個人年金を中心に据え、為替リスクは別枠の外貨預金で薄く分散させました。年金受取開始を65歳と70歳で分け、長生きの後半に厚みを出す“段階受取”は、心理的な安心感も高いと感じられました。いずれのケースも数値はあくまで一例であり、実際の条件や返戻率は商品・時期・為替で変わります。

シミュレーションを見る視点は3つ

まず、返戻率だけでなく税制を加味した手取りを確認します。次に、インフレや為替の前提を置き、受取時点の購買力で考え直します。最後に、途中で払込を止めた場合や解約した場合の損失の大きさを把握します。変額タイプは想定利回りを複数(例えば年率0%、3%、5%)で並べ、悪いシナリオでも生活が回るかを確かめると、選択に後悔が残りにくくなります。

iDeCo・つみたてNISAとどう使い分ける?

老後資金の“軸”づくりでは、iDeCoとつみたてNISAをどう位置づけるかが肝心です。iDeCoは掛金全額が所得控除となり、運用益も非課税、受取時も税制優遇がある強力な制度です[7,8]。ただし原則60歳まで引き出せません[7]。つみたてNISAは途中での引き出しが可能で、運用益非課税が長く続く一方、掛金の所得控除はありません。個人年金保険は「受取時の年金キャッシュを確定させやすい」「個人年金保険料控除で所得控除が得られる」「終身や夫婦型など長生きリスクに備えやすい」という役割を担えます。だからこそ、成長と安定、流動性と確実性のバランスを家計の器に合わせて配分する発想が大切です。

制度や商品の基本は、NOWHの関連ガイドも参考にしてください。長期投資のはじめ方は「つみたてNISAの基本」で、節税の軸は「iDeCoの始め方」にまとめています。日々のキャッシュを整えるには「家計の50-30-20ルール」、働き方が変わる時期のマネー観は「セカンドキャリア設計」がヒントになるはずです。制度を横断して眺めることで、個人年金保険の置き場所が自然に見えてきます。

まとめ:今日の小さな決断が、20年後の安心をつくる

個人年金保険は、老後資金のすべてを解決する魔法ではありません。それでも、設計の芯を持って選べば、将来の毎月のキャッシュフローに静かな安定をもたらしてくれます。まず、年金定期便を開いて不足額の仮説を置き、家計の余力の中で無理なく払える金額を言語化してみてください。次に、定額・変額・外貨建てのどれをどの比率で使うかの仮の答えをつくり、同条件で2〜3社の見積もりを取り、契約書類でコストと解約控除をチェックします。最後に、iDeCoやつみたてNISAとの役割分担を決め、1年後に見直す日付をカレンダーに入れましょう。

**「何を買うか」より「なぜそれを持つか」を決めた人から、老後資金はブレにくくなります。**あなたが今感じている不安は、行動という小さな積み重ねで必ず形を変えます。最初の一歩として、今日5分だけ、老後に毎月いくら必要かをメモしてみませんか。あなたの未来の自分が、静かに拍手を送ってくれるはずです。

参考文献

  1. 金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ(2019年4月12日)議事録. https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market_wg/gijiroku/20190412.html#:~:text=%EF%BC%92%EF%BC%94%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%82%92%E3%81%94%E8%A6%A7%E3%81%84%E3%81%9F%E3%81%A0%E3%81%8D%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%A6%E3%80%81%E9%AB%98%E9%BD%A2%E5%A4%AB%E5%A9%A6%E7%84%A1%E8%81%B7%E4%B8%96%E5%B8%AF%E3%81%AE%E7%8F%BE%E5%9C%A8%E3%81%AE%E5%8F%8E%E5%85%A5%EF%BC%92%EF%BC%90%E4%B8%87%EF%BC%99%2C%EF%BC%91%EF%BC%99%EF%BC%98%E5%86%86%E3%81%A8%E5%AE%B6%E8%A8%88%E6%94%AF%E5%87%BA%EF%BC%92%EF%BC%96%E4%B8%87%EF%BC%93%2C%EF%BC%97%EF%BC%91%EF%BC%98%E5%86%86%E3%81%A8%E3%81%AE%E5%B7%AE%E3%81%AF%E6%9C%88%EF%BC%95
  2. 生命保険文化センター プレスリリース(2019年)「生活保障に関する調査」. https://www.jili.or.jp/press/2019/130.html
  3. 厚生労働省 e-ヘルスネット「平均寿命」. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/hale/h-01-002.html
  4. 国税庁 タックスアンサー No.1140「生命保険料控除」. https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1140.htm
  5. 国税庁 タックスアンサー No.1140「生命保険料控除」(所得税の新制度上限40,000円に関する記載). https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1140.htm?referral=referral%3Dyh_etax%2Cyh_etax%2C#:~:text=%E5%B9%B4%E9%96%93%E3%81%AE%E6%94%AF%E6%89%95%E4%BF%9D%E9%99%A2%E6%96%99%E7%AD%89%20%20,%E4%B8%80%E5%BE%8B40%2C000%E5%86%86
  6. 国税庁 タックスアンサー No.1140「生命保険料控除」(住民税の新制度上限28,000円に関する記載). https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1140.htm?referral=referral%3Dyh_etax%2Cyh_etax%2C#:~:text=%E5%B9%B4%E9%96%93%E3%81%AE%E6%94%AF%E6%89%95%E4%BF%9D%E9%99%A2%E6%96%99%E7%AD%89%20%20,%E6%94%AF%E6%89%95%E4%BF%9D%E9%99%A2%E6%96%99%E7%AD%89%C3%971%2F4%2B25%2C000%E5%86%86
  7. 厚生労働省「iDeCo(個人型確定拠出年金)」制度概要. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/kyoshutsu/ideco.html
  8. 厚生労働省「iDeCo(個人型確定拠出年金)」税制優遇に関する記載(掛金の全額所得控除・運用益非課税 等). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/kyoshutsu/ideco.html#:~:text=%E2%96%A0%E5%8A%A0%E5%85%A5%E8%80%85%E3%81%8C%E6%8B%A0%E5%87%BA%E3%81%97%E3%81%9F%E6%8E%9B%E9%87%91%EF%BC%9A%E5%85%A8%E9%A1%8D%E6%89%80%E5%BE%97%E6%8E%88%E9%99%A4%EF%BC%88%E5%B0%8F%E8%A6%8F%E6%A8%A1%E4%BC%81%E6%A5%AD%E5%85%B1%E6%B8%88%E7%AD%89%E6%8E%9B%E9%87%91%E6%8E%9B%E9%99%A4%EF%BC%89%20%E2%96%A0iDeCo%EF%BC%8B%E3%82%92%E5%88%A9%E7%94%A8%E3%81%97%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E4%B8%BB%E3%81%8C%E6%8B%A0%E5%87%BA%E3%81%97%E3%81%9F%E6%8E%9B%E9%87%91%EF%BC%9A%E5%85%A8%E9%A1%8D%E6%90%8D%E9%87%91%E7%AE%97%E5%85%A5%20%E9%81%8B%E7%94%A8%E6%99%82%20%20,%E2%96%A0%E9%81%8B%E7%94%A8%E7%9B%8A%EF%BC%9A%E9%81%8B%E7%94%A8%E4%B8%AD%E3%81%AF%E9%9D%9E%E8%AA%B2%E7%A8%8E

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