配偶者控除の条件をひとことで言うと
法律上の配偶者が同じ家計で暮らしていて、配偶者の合計所得が48万円以下(給与収入のみなら103万円以下)、かつ申告する本人の合計所得が1,000万円以下なら、年末に一定額を所得から差し引ける——これが配偶者控除の骨格です。対になる配偶者特別控除は「48万円を少し超えたら即アウト」ではなく、そこから段階的に控除が縮む“セーフティネット”。まずはこの二本立てを地図として持っておくと、迷いが減ります。[1,2]
だれが「申告者」になれるのか
配偶者控除を申告できるのは、給与や事業などの所得がある本人側です。本人の合計所得金額が1,000万円を超える年は適用不可。ここでいう「合計所得」は給与だけでなく、不動産や配当、雑所得も含む合算です。共働きで双方に収入があっても、双方が同時にお互いを控除対象にする構造にはなりません。片方が「申告者」、もう片方が「控除対象となる配偶者」という関係で成り立ち、判定は毎年ゼロからやり直します。[2]
配偶者側に必要な条件
対象となるのは民法上の配偶者で、いわゆる事実婚(内縁関係)は含まれません。原則として日本の居住者であり、同一生計、つまり生活費や家賃の負担を分け合う関係であることが必要です。最重要の数値は合計所得48万円以下。給与だけの人なら年収103万円以下で満たしますが、年金や事業、パートと副業の組み合わせなど、所得の種類によって計算は変わります。判定日はその年の12月31日時点。途中で就職や退職、結婚や別居があっても、最終日の状態で判定する点は見落としやすいところです。[1]
控除額はいくらになるのか
配偶者控除の金額は、申告者の所得帯と配偶者の年齢で変わります。申告者の合計所得が900万円以下なら基礎額は一般の配偶者で38万円、配偶者が70歳以上のときは48万円。申告者の所得が900万超〜950万円以下ではそれぞれ26万円と32万円、950万超〜1,000万円以下では13万円と16万円に縮みます。これが「48万円以下の世界」の話で、48万円を超えたら次に登場する配偶者特別控除へバトンタッチします。[3,4]
配偶者特別控除との違いと“壁”の正体
配偶者特別控除は、配偶者の合計所得が48万円を超えたあとも、133万円以下までは控除が段階的に残る制度です。給与だけの人なら年収ベースで103万円超〜約201.6万円以下。2018年の改正以降、配偶者の給与収入が150万円までは、申告者の所得帯に応じた満額の水準が続き、そこから一段ずつ控除が小さくなり、最終的に201.6万円付近でゼロに近づきます。申告者側の1,000万円のラインは、配偶者控除にも配偶者特別控除にも共通の絶対条件として立ちはだかります。[2,4]
具体例でつかむ:いくらなら適用になる?
まず、申告者の合計所得が700万円、配偶者がパート収入100万円のケース。給与所得控除を差し引いた配偶者の合計所得は45万円なので、配偶者控除の条件を満たし、申告者は38万円(一般配偶者の場合)の控除が受けられます。[1,3,6] 次に配偶者のパート収入が150万円に増えたとします。配偶者の合計所得は95万円となり、ここからは配偶者特別控除のエリアですが、150万円までは満額の水準が維持されるため、申告者の所得帯が900万円以下なら実質的に38万円相当の控除枠が残ります。[2,3,4] さらに配偶者が180万円まで働いた例では、合計所得は約118万円となり、控除額は段階的に小さくなります。どの段階でいくらになるかは国税庁の速算表で年ごとに確認できますが、「48万円を超えた瞬間にゼロ」ではないことを押さえておくと、無理な就業調整を避けやすくなります。[4,6]
税の“壁”と社会保険の“壁”は別物
混同が多いのが、税金の配偶者控除・配偶者特別控除と、社会保険の扶養ルールです。税は48万円・103万円・150万円・約201.6万円といったラインで段階が変わりますが、健康保険・年金では年収130万円(企業規模や労働時間の条件を満たす場合は106万円)といった基準が別に存在します。つまり、税で控除が残っていても、一定ラインを超えると配偶者が自分で社会保険に加入する必要が出てくることがあるのです。働き方を調整するなら、税と社会保険の二つの地図を並べて見るのが現実的です。社会保険の考え方は家計全体の負担に直結するため、制度の違いを丁寧に分けて考えましょう。くわしくは社保の基礎を整理した「社会保険の扶養の基礎」もあわせて確認を。[1,4,5]
判定の落とし穴とグレーゾーンを整理
配偶者控除の条件で迷子になりやすいのは、年の途中で状況が変わるケースです。判定は12月31日の状態で行われるため、その時点で法律婚が成立しているか、同一生計であるか、そして見込みではなく年間の合計所得が基準に収まっているかを見ます。途中で転職して所得が増えたり、配偶者が産休・育休で収入が減ったりしても、最後に着地した数字で決まると覚えておくと、書類の書き直しに振り回されにくくなります。[1]
次に、離れて暮らす配偶者や海外滞在中の配偶者がいる場合です。国内で別居していても、生活費を仕送りするなど生計が一と認められる実態があれば対象になり得ます。一方で、原則として非居住者(日本の税法上の居住者ではない人)は対象外。また、いわゆる事実婚は制度の定義から外れます。ここを取り違えると、年末調整の自己申告が通らず、あとで確定申告で修正する手間が発生します。[1]
もう一点、収入の種類による計算の違いも要注意です。給与だけなら「年収−55万円=合計所得」という最小の式で見通せますが、公的年金には年金収入から一定額を差し引く独自の枠組みがあり、事業や不動産、配当・雑所得が混在すると控除や経費の扱いで金額が上下します。副業が広がるいまは、「配偶者の合計所得はいくらになるか」を年の後半でいったん概算し、最終月の給与や源泉徴収票の見込みを足して、制度のどの帯に入るかを確認しておくと安心です。[6]
なお、住民税の配偶者控除・配偶者特別控除も所得税とほぼ同じ判定ですが、控除額がやや小さく設定されています。会社員であれば翌年6月以降の住民税に反映されるため、年末に適用の有無や区分を誤ると翌年の手取りに影響が出ます。税金の全体像は、基礎をまとめた「扶養控除との違い」や、手取りの流れを解説した「年末調整の基礎」も併せて読むとつながります。
手続きの現場で迷わないコツ
会社員であれば、年末に配られる「給与所得者の配偶者控除等申告書」に、配偶者の氏名・生年月日・所得見込みなどを記入します。ここで見るのは年末時点の見込みではなく、基本的に年間の着地見込みです。ボーナスや残業が増えた場合は、11〜12月に再計算しておくとギャップが減ります。もし年末調整で見込みが外れていたとしても、確定申告で修正は可能。医療費控除やふるさと納税のワンストップ特例の判定と一緒に、年明けに落ち着いて見直す選択肢もあります。確定申告の入口は「はじめての確定申告ガイド」が役立ちます。[3,5]
自営業やフリーランスの家庭では、配偶者控除・配偶者特別控除の判定も確定申告で行います。配偶者の合計所得の見込みは、月次の帳簿や年末の棚卸で揺れやすいので、11月の段階で仮決算を作る人も少なくありません。ここで「48万円を少し超えそうか」「150万円の満額帯に届くのか」「201.6万円付近で控除が消えるのか」を意識して、最後の月の働き方・請求タイミングを家計全体で相談すると無理がありません。[2,4]
編集部の肌感としては、制度の理解を「守り」だけで使うのではなく、働き方の自由度を上げる「攻め」の材料にする姿勢が、ゆらぐ時期の暮らしにフィットします。たとえば、配偶者がスキルアップの講座を受けて来年の収入を高める計画を描いているなら、今年は配偶者特別控除の満額帯(給与収入150万円まで)に安心して乗せ、来年は社会保険の加入も見越して就業時間を調整する。税と社保の両輪を俯瞰できれば、怖さは薄れていきます。[2,4,5]
ミスを減らすチェックポイント
最後に、混乱しやすい要素を短く振り返ります。判定日は12月31日で、その日の「婚姻の有無」「居住者かどうか」「同一生計かどうか」で見ること。申告者の合計所得1,000万円超は不可という大前提を忘れないこと。配偶者の合計所得48万円以下なら配偶者控除、そこを超えたら133万円以下まで配偶者特別控除で緩やかに縮むこと。そして、税と社会保険の“壁”は別の話題であること。この4点を押さえておけば、年末の書類づくりで立ち止まる回数は減ります。[1,2,4]
まとめ:条件を「怖さ」ではなく「判断軸」に
配偶者控除の条件は、覚えるべき数値がいくつかあるだけで、仕組みはシンプルです。配偶者の合計所得48万円(給与収入103万円)がひとつの区切りで、そこから150万円までは控除の満額帯が続き、約201.6万円付近で消える。申告者の1,000万円ラインは絶対。ここを押さえたうえで、税と社会保険を分けて考えれば、働き方の選択肢は広がります。焦りや不安は、情報の断片が混ざったときに強くなります。だからこそ、年の後半で収入の着地を一度見積もり、必要なら会社の年末調整担当や税務署の相談窓口に早めにアクセスしておく。そうやって「条件」を怖がる対象から、自分たちの暮らしを守る判断軸へと置き換えていきましょう。次は、社保の扶養基準や翌年の住民税の見え方もセットで確認して、安心して年末を迎えませんか。[1,2,4]
参考文献
- 国税庁. タックスアンサー No.1191 配偶者控除. https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191.htm
- 国税庁. タックスアンサー No.1195 配偶者特別控除. https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1195.htm
- 国税庁. 源泉所得税「給与所得者の配偶者控除等申告書」等について. https://www.nta.go.jp/users/gensen/haigusya/
- 日本年金機構. 被扶養者の認定について(130万円要件ほか). https://www.nenkin.go.jp/faq/kounen/tekiyoukakudai/tanjikan/fuyounintei.html
- 日本年金機構. 短時間労働者の適用拡大(いわゆる106万円基準). https://www.nenkin.go.jp/faq/kounen/tekiyoukakudai/tanjikan/nenshuu.html
- 国税庁. タックスアンサー No.1410 給与所得控除. https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm