
株式譲渡益の税金の基本を、まず正確に
株式の「譲渡益」とは、売却額から取得費や売買に係る手数料などを差し引いた最終的な利益のことです。上場株式等の譲渡益は申告分離課税の対象で、所得税15%と復興特別所得税0.315%、住民税5%を合わせた**合計20.315%**が原則の税率になります[1]。特定口座(源泉徴収あり)を選んでいる場合、多くの証券会社で年内の損益通算を自動計算し、売却の都度または年末に税が差し引かれます[3]。源泉徴収なしや一般口座の場合は、ご自身で年間損益を集計し、確定申告で納税する流れになります。
数値の感覚を持つことは、行動のための第一歩です。例えば100万円の譲渡益が出たなら税額は約20万3,150円、50万円なら約10万1,575円。逆に30万円の損失が出た場合は課税は生じませんが、年内の他の利益と通算して税額を抑えられる可能性があります[4]。なお、手数料は譲渡損益の計算に含められますが[1]、投資信託の信託報酬のように日々基準価額に反映される費用は個別に控除対象と考えないのが一般的です。
一方でNISA口座なら売却益も配当も非課税です[2]。2024年からの新NISAでは、非課税保有限度額が合計1,800万円(つみたて投資枠600万円、成長投資枠1,200万円)に拡充され、年間投資枠はつみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円。保有期間は恒久化され[2]、売却で非課税保有残高が減った分は翌年以降に枠を再利用できます(年内の即時復活ではない点に注意)[5]。
税率と計算を「数字」で掴む:3つのミニケース
計算は難しくありません。売却代金から取得費と売買手数料を差し引いた額が譲渡益で、その金額に20.315%を乗じます[1]。例えば取得費80万円、売却120万円、手数料が売買合計で1万円なら、譲渡益は39万円。ここに税率をかけると税額は約7万9,229円です。逆に取得費120万円、売却100万円、手数料1万円なら、譲渡損は21万円。年内に他銘柄の利益が20万円あれば通算してほぼ相殺でき、源泉徴収されていた税が年末精算や確定申告で戻る可能性があります。配当は別の所得区分ですが[6]、申告分離課税を選ぶことで上場株式等の配当と譲渡損益を合算できる仕組みもあります[7]。総合課税での配当控除を選ぶ場合との比較は世帯の所得状況で結論が変わるため、ここでは「通算する道が開かれている」と押さえておき、詳細は確定申告時に検討するのが現実的です。
口座の違いと確定申告の「要・不要」
特定口座(源泉徴収あり)なら、原則として確定申告は不要です[3]。とはいえ、年をまたいだ損益の繰越控除を使いたい、複数の証券会社の損益をまとめて通算したい、配当と譲渡損益を合算して還付を受けたい、といった意図があるなら、源泉徴収ありでも確定申告を選ぶ価値があります[4]。源泉徴収なしや一般口座は申告が必要で、年間取引報告書や売買の明細を用いて自ら集計します。住民税の課税方式は原則として申告分離ですが、配当の扱いなど細部は自治体の手続仕様に違いがあり得るため、気になる場合は自治体の案内を確認すると安心です。

NISAと課税口座、どちらで売る?実務の判断軸
NISAでの売却益は税率0%[2]。これだけで「すべてNISAで」という結論になりがちですが、現実は少し複雑です。NISA枠は貴重で、非課税保有残高の上限(総枠1,800万円)をどう配分するかが長期のリターンを左右します。値上がり期待が高く長期で持ちたいコア銘柄や、広く分散された低コストのインデックス商品は、非課税のメリットを最大化しやすい対象です。反対に、短期売買が多く損益の振れが大きい戦術的な銘柄は、課税口座で損益通算を活用したほうが税務の柔軟性を得られることがあります。NISA内の損失は、課税口座の利益と通算できないからです[8].
新NISAでは、売却すると非課税保有残高が減り、その分は翌年以降に再び投資枠として使えます[5]。つまり、人生イベントに合わせた「売って現金化→翌年に枠を再利用」という運用設計が可能です。ただし、年の途中で売っても同年の枠が復活するわけではない点は覚えておくと、年末に慌てずに済みます。なお、旧NISAからの移行資産は制度上の取り扱いが異なる場合があるため、証券会社の案内を合わせて確認しましょう[5].
課税口座を使う合理的な場面
課税口座の強みは、損益通算と繰越控除の選択肢があることです[4]。例えば相場が不安定で、短いサイクルでの見直しを繰り返す戦術を取る時期には、意図的に損切りして損失を顕在化させ、年内の他の利益と相殺することで、手取りの凸凹を抑えることができます。翌年以降に大きな利益が見込まれるイベント(株式報酬の権利確定、持株会の売却など)が見えているなら、今年はあえて課税口座で損失を作り、翌年の利益にぶつける設計もあり得ます。逆に、強い成長テーマに乗る長期投資や、つみたてでコツコツ増えるインデックス商品は、非課税の果実を最大化できるNISAのほうが一貫した選択になりやすいでしょう。
複数口座・複数社を使うときの整理術
証券会社を複数使っている人は珍しくありません。特定口座(源泉徴収あり)同士でも、会社をまたいだ損益の通算は確定申告を通じて行います[3]。年末に思わぬ税の取り過ぎ・取り残しが生じないよう、年間取引報告書を時期をずらしてでも集め、1年単位の「通算後の利益額」を一度だけ確認しておくと安心感が違います。源泉徴収ありをやめる必要はありませんが、還付の可能性がある年には確定申告を前提にしたメモを秋口から準備しておくと、繁忙期の自分を助けてくれます。

損益通算と繰越控除を、味方にする
損失は3年間繰り越して、将来の利益と相殺できる。このルールは、譲渡益課税の中でも特に家計の防波堤になります[4]。例えば今年の譲渡損失が80万円、来年の譲渡益が50万円、再来年の譲渡益が40万円だったとします。今年の損失を確定申告しておけば、来年の50万円には課税されず、残り30万円分を再来年の譲渡益にぶつけられます。結果として再来年の課税対象は10万円。制度の骨格はシンプルですが、繰越控除を使うには毎年の確定申告が必要という点を忘れがちです[4]。源泉徴収あり口座であっても、繰越控除を使う年は申告が必須になります。
配当との関係をざっくり整理すると、申告分離課税を選ぶことで、上場株式等の配当と譲渡損益を同じ土俵に乗せ、相殺することが可能です[7]。総合課税で配当控除を生かす選択とどちらが有利かは、給与所得や各種控除の状況、住民税の影響など、世帯ごとに結論が違います。迷ったときは「今年は通算を優先して分離課税」「来年は所得水準を見て総合課税も再検討」といった年次プランで柔軟に考えるのが現実的です。
よくある勘違いを3つの視点でほどく
第一に、NISA内の損失は課税口座の利益と通算できません。非課税のメリットの裏側として、損失を税務上の材料にできない設計だと受け止めておくと判断がブレません[8]。第二に、特定口座(源泉徴収あり)でも、確定申告をすることで年内に相殺しきれなかった損益を横断的に通算し、すでに引かれた税の還付を受けられる年があります。「源泉あり=節税の余地がない」わけではありません。第三に、家族の口座との通算はできません。損益通算も繰越控除も、あくまで同一納税者の中での手続きです。家族全体の家計で投資戦略を考えるのは有効でも、税務計算は人ごとに行われる点を切り分けておくと、あとで混乱しません。
揺らぎ世代の家計にフィットする売却と納税の設計
教育費、住宅、親のケア。35〜45歳は、個人戦からチーム戦へと重心が移る時期です。だからこそ、売却と納税のタイミングは「気分」ではなく「目的」に紐づけるとブレにくくなります。具体的には、必要資金の期日から逆算して、課税口座で通算余地を確保しつつ、コア資産はNISAで非課税のまま育てる設計に寄せていく。譲渡益は給与などと分離課税なので[1]、医療費控除や扶養判定といった総合課税の世界と直接は混ざりませんが、住民税の扱いや各種制度の判定基準は制度によって異なります。就学支援や保育料など、特定の制度への影響が気になるときは、自治体の案内で「何を基準額に使うか」を一度確認しておくと、あとからの驚きを減らせます。
もう一つ、心の設計も大切です。目標達成に近づいたポジションを利確するとき、「税金でもう一回分の外食が消える」と感じるのは自然な感情です。それでも、ルールを把握し、手取りベースで計画を立てるほど、投資は生活の味方になります。迷ったら、まずは足元の枠組みから。NISAの使い方は「新NISAガイド」、家計キャッシュフローは「家計の見える化」の特集も、併せて読むと判断が軽くなります。

まとめ:税率ではなく、設計で手取りを最適化する
株式譲渡益の税金は、原則20.315%[1]。この数字は変えられませんが、手取りは変えられます。NISAで非課税の果実を積み上げ[2]、課税口座では損益通算と3年の繰越控除[4]を使いこなす。複数口座の損益は年単位で通算し、必要な年だけ確定申告を選ぶ[3]。制度の骨格を押さえるだけで、売る・持つ・積み立てるの判断は軽やかになります。
次にやることはシンプルです。いま保有する銘柄を「非課税で育てたいコア」と「柔軟に通算したい戦術」に分け、NISA枠と課税口座を割り振り直してみる。年間取引報告書の保管場所を一つに決め、秋に「今年の通算後利益」を一度だけ点検する。もし判断に詰まったら、公的な案内や証券会社のヘルプを確認し、必要に応じて税務署に相談する。
参考文献
- 国税庁 タックスアンサー No.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1535「NISA制度」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1535.htm
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー「特定口座(源泉徴収あり)とは」 https://www.keisan.nta.go.jp/h30yokuaru/ocat3/ocat33/cid1065.html
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー「上場株式等の損益通算・繰越控除(措置法37条の12の2)」 https://www.keisan.nta.go.jp/r4yokuaru/cat2/cat21/cat219/kabushikijototokurei/sochiho37_12_2.html
- 金融庁 NISA特設ウェブサイト「よくある質問(非課税保有限度額・再利用)」 https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/question/index.html
- 国税庁 タックスアンサー No.1331「上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1331.htm
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー「上場株式等の配当所得と損益通算(申告分離課税選択)」 https://www.keisan.nta.go.jp/r4yokuaru/cat2/cat21/cat219/kabushikijototokurei/sochiho37_12_2.html
- 国税庁 通達・解説「措置法第37条の14に関する解説(NISA口座に係る損益の取扱い)」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/020624/sanrin/1273/37_14/01.htm