老後資金は個人年金?投資?35〜45歳女性のための3軸比較

女性の平均寿命や老後2000万円問題を踏まえ、35〜45歳向けに個人年金と投資を利回り・税制・流動性で比較。続けやすさ重視の現実的な選び方と、今すぐ始められる3ステップをわかりやすく紹介します。

老後資金は個人年金?投資?35〜45歳女性のための3軸比較

個人年金と投資、まず違いを正しくつかむ

女性の平均寿命は約87歳(厚生労働省の公表値)[1]とされ、老後の生活期間はかつてより長くなっています。さらに、2019年に金融庁の報告書が示したいわゆる**「老後2000万円」という数字は、退職後に毎月数万円の赤字が長期に続く可能性を可視化しました[2]。この背景には総務省「家計調査」の高齢無職世帯の家計収支データがあります[3]。とはいえ、現役の私たちの家計は余裕が無限ではありません。教育費や住宅ローン、仕事の変化。きれいごとだけでは計画は続かない。だからこそ、老後資金づくりの主役で語られがちな「個人年金」か「投資」か**という選択を、データと暮らしのリアルの両方から見直します。編集部では公的情報や研究データを参照し、家計の意思決定に必要な比較軸を整理しました。専門用語は日常語に置き換え、続けやすさという視点も重ねて解説します。

個人年金は生命保険会社の商品で、現役期に保険料を積み立て、60歳や65歳など決めた年齢から年金形式で受け取る仕組みです。受け取り期間があらかじめ決まった確定年金、長生きに備える終身年金などタイプがあり、保険料の一部は生命保険料控除の個人年金保険料控除(所得税で最大4万円、住民税で最大2.8万円)の対象になります[4]。見返りはおおむね固定で、将来の受取額をイメージしやすい一方、インフレには連動しにくく、中途解約すると元本割れリスクが高いのが現実です。保険会社の経営破綻リスクにはセーフティネット(生命保険契約者保護機構)があり、責任準備金等の90%相当が保護対象とされていますが、満額保証ではありません[5]。

一方の投資は幅が広く、ここでは主に投資信託を使った長期積立(つみたてNISAや一般NISA、iDeCoを含む)を指します。値動きのある資産(株式や債券など)に分散投資し、長期で複利を狙う考え方です。つみたてNISAや新NISAは運用益が非課税[6](制度は2024年から新NISAに一本化・恒久化[6])、iDeCoは拠出時の所得控除や運用益非課税など税制優遇が大きい反面、iDeCoは原則60歳まで引き出せません[7]。投資は元本保証ではなく、相場環境によって資産額は上下しますが、インフレに負けにくい資産配分をとれば実質的な価値の維持・成長を期待できます。

つまり、個人年金は**「予定された受け取りの安心感」に強みがあり、投資は「インフレに耐える成長性」**に強みがあります。違いを曖昧にしたまま選ぶと、のちの不安につながります。まずは目的と制約(使い道、期限、途中で崩す可能性)を言語化し、その上で手段を選ぶのが近道です。

数字で比較:利回り、税金、流動性、インフレ耐性

利回りの現実を、月2万円・25年で可視化

家計は具体的な金額で腹落ちする方が動けます。ここでは40歳から65歳まで毎月2万円を25年積み立てた場合を、単純化した前提で試算します。金利0.5%の低利回りで積み立て続けると元本600万円に対して将来価値は約640万円、年率3%なら約892万円、年率5%では約1,191万円というイメージです(編集部試算・一般的な複利計算式に基づく)[9]。投資は年ごとのブレがありますし、個人年金の商品設計や予定利率も会社・時期で異なるため、これはあくまで比較のための目安ですが、長期・分散・積立という骨格でリスクをならすほど複利の力が効くことは押さえておく価値があります。

税金の効き方は「積み立て時に効くか、運用益に効くか」

個人年金は払い込み期に個人年金保険料控除が使え、所得税・住民税が軽減されます[4]。控除枠は大きくはありませんが、毎年の負担感を和らげる働きがあります。一方、受け取り期は雑所得として総合課税され、年金受取額の全額ではなく元本相当を差し引いた利息部分に課税される仕組みです。投資は制度選択で税の姿が大きく変わります。新NISAの枠で運用すれば配当・売却益が非課税となり、複利を損なう税コストを抑えられます[6]。課税口座では上場株式等の売却益や配当に税率20.315%(所得税・住民税・復興特別所得税合計)の申告分離課税がかかります[8]。iDeCoは拠出時の所得控除の効果が大きく、運用益も非課税、受け取り時は退職所得控除や公的年金等控除の枠組みで税負担を調整できます[7]。

流動性と解約の痛み、そしてインフレ耐性

途中で崩す可能性があるなら、流動性は重要です。個人年金は契約期間中の解約で元本割れしやすい設計です。まとまった教育費や転職時の収入変動など、現実のライフイベントを考えると、全額を個人年金に固定するのは身動きを取りにくくします。投資信託は市場で売却できるため流動性は高いものの、相場が悪いときに売ると損が出ることもあるので、短期の生活費とは分け、時間分散を徹底する前提が必要です。インフレ耐性は両者の違いが出やすいポイントです。個人年金の受取額は基本的に名目で固定されるため、物価上昇が続くと実質価値は目減りします。株式を含む国際分散投資は企業の価格転嫁や世界経済の成長に乗る形で、長期的にインフレに相対的に耐えやすい構造を持ちます。もちろん短期的なボラティリティは避けられませんが、**老後資金の主戦場は「長期」**です。

どっちを選ぶ?ゆらぎの中で決める現実的な指標

固定化で安心を得るのか、伸びしろで備えるのか

家計には数直線の正解はありません。たとえば教育費のピークが近い40代前半で、毎月の貯蓄余力はあるが相場の上下にとても不安を感じるなら、一部を個人年金で**「受け取りが固定された老後のベース」**にし、残りをNISAの長期積み立てで育てる分散が現実的です。DINKsや子育てが一段落して貯蓄率を上げられる人なら、投資の比重を高め、老後資金のメインを成長資産で用意しつつ、必要最低限の固定収入は個人年金や年金型保険で補強する発想が馴染むでしょう。フリーランスや自営業で退職金がないなら、iDeCoの所得控除を軸に運用益非課税を活かし、個人年金は「長生きリスクへのヘッジ」として薄く重ねる選択肢が噛み合います[7].

家計の四つの制約で考えると迷いが減る

投資と個人年金の比率を決めるときは、月々のキャッシュフロー、使い道の期限、価格変動への心理的耐性、そして金利・物価のシナリオという四つの制約を並べてみると腹落ちします。まず、毎月いくらなら無理なく自動化できるか。次に、その資金には具体的な期限があるのか。三つ目に、価格が一時的に下がったとき、どの程度の下落なら眠れるのか。最後に、物価上昇が続く局面を想像したとき、名目が固定された受け取りだけで安心できるのか。こうして言葉にしていくと、自分にとっての「安心」の内訳が見えてきます。

数字に置き換えると、行動に変わる

「月2万円を25年」の試算が示すように、年率3%と5%では最終金額に約300万円の差が生まれます。これは単なる数字ではなく、老後の毎月のゆとりや、医療費・介護費の予備費に直結します。他方で、予定利率が低い局面の個人年金は、物価上昇局面での実質価値が目減りする可能性があります。だからこそ、どちらか一方に賭けるのではなく、性格の異なる手段を役割で持つ意識が実務的です。ベース収入は個人年金で、成長分は投資でという役割分担。編集部としては、この「二刀流」を起点に、家計の変化にあわせて比率を微調整する姿勢を推します。

具体的アクション:今月からの3ステップ

ステップ1:現状把握と目標設定を同じ紙に書く

まず、家計簿アプリや通帳を見ながら、可処分所得、固定費、変動費、現在の貯蓄・運用残高を一枚の紙に書き出します。次に、老後資金として何歳までにいくら用意したいかをとなりの欄に書きます。ここで重要なのは、老後資金を「毎月の生活費」「一時費用(住まい・車・リフォーム)」「医療・介護の備え」と用途で分けておくことです。用途を分けると、個人年金で固定したい部分と、投資で増やしたい部分が自然に見えてきます。

ステップ2:仕組み化で迷いを減らす

目標が見えたら、給与天引きや口座振替を設定し、考えなくても積み立つ流れを作ります。投資はつみたてNISAの枠を優先して、低コストのインデックスファンドに広く薄く分散するのが基本です[6]。個人年金は受け取り開始年齢と受け取り方式(確定か終身か)を選ぶ段で、家族史や健康状態、仕事の見通しも含めて検討します。重要なのは、どちらも**「毎月の生活がギリギリにならない金額」**に収めること。続かない設計は、どれほど理屈が通っていても実りません。

ステップ3:年1回の見直しで「いまの自分」に合わせる

年に一度、家計の変化や相場環境、金利・物価の動きをふりかえり、積立額や配分比率を見直します。投資は値動きで比率がずれていくので、リバランスの考え方を取り入れるとブレが小さくなります。個人年金は契約後に大きく変えにくいため、新規の追加契約や投資側の配分で全体最適をとる視点が実践的です。もし不安が大きくなったら、いったん積立額を減らし、生活防衛資金を厚くするという保守的な調整も立派な戦略です。やっぱり、きれいごとだけでは続きません。だからこそ、現実と折り合いをつけながら「続けられる設計」を選ぶことが、老後資金のいちばんの近道になります。

まとめ:二刀流で、未来の自分に余白を残す

個人年金は受け取りの見通しを固定し、投資はインフレと成長に乗る。どちらも長所と短所がはっきりしています。女性の平均寿命が80代後半に伸びる時代[10]、老後資金は短距離走では用意できません。だから、固定と成長の二刀流で役割を分け、家計の変化に合わせて配分を微調整していく。編集部が繰り返し強調したいのは、**完璧な一手より「続く仕組み」**です。今日、このあと10分だけ時間を作って、現状と目標を一枚の紙に書き出してみませんか。月2万円からでも動きだせば、25年後の数字は確実に変わります[9]。次に読むなら、NISAやiDeCoの基礎をざっと確認し、あなたの家計の四つの制約に照らして配分を決めていきましょう。未来の自分に、余白を残すために。

※本記事は特定商品の勧誘ではありません。投資は元本割れリスクがあり、個人年金は中途解約で元本割れリスクがあります。制度の最新情報や税制は変更される可能性があるため、必ず最新の公的情報と各社の商品概要でご確認ください[6,7]。

参考文献

  1. NHKニュース. 日本人の平均寿命 女性87.14歳・男性81.09歳(厚労省発表, 2024年) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240726/k10014525171000.html
  2. 金融庁. 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(2019年6月3日) https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf
  3. 総務省統計局. 家計調査(家計収支編):高齢無職世帯の家計収支 https://www.stat.go.jp/data/kakei/
  4. 国税庁. 暮らしの税情報 生命保険料控除(個人年金保険料控除を含む) https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/04_2.htm
  5. 生命保険契約者保護機構(公式)保護の内容(責任準備金等の90%保護) https://www.seihohogo.or.jp/
  6. 国税庁タックスアンサー No.1535 NISA制度(新NISAの概要を含む) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1535.htm
  7. iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)税制優遇の仕組み・受給条件(原則60歳まで引き出し不可) https://www.ideco-koushiki.jp/guide/merit/
  8. 日本証券業協会. 金融・証券税制(上場株式等の税率 20.315% 等) https://www.jsda.or.jp/sonaeru/tebiki/chap5.html
  9. 複利効果の基礎(複利計算の考え方・シミュレーション例) https://f-inde.com/compound-interest/
  10. NHK 政治マガジン. 平均寿命が延びる時代の資産寿命と長生きリスクに関する特集 https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/18715.html

著者プロフィール

編集部

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