営業は「お願い」ではなく「設計」:週3時間で回す基盤
統計によると、日本の「広義のフリーランス」人口は1,600万人規模に達し[1]、副業・兼業として関わる人が増えています。なお推計は調査により差があり、1119万人(労働力人口の17%)とする見解もあります[2]。 同時に、企業側の副業容認は拡大傾向にあり、国のモデル就業規則やガイドラインの改正も後押ししています[3]。民間調査でも、従業員の副業を容認する企業は7割超と報告があり、企業側の姿勢変化が読み取れます[4]。働き方の選択肢は確実に多様化しました。編集部が各種データや調査を読む限り、スキルそのものよりも「営業が苦手」という心理的ハードルが、独立や副業の継続を阻むボトルネックになりがちです。そこで本稿は、根性論ではなく仕組みで支える営業術にフォーカスします。専門用語はできるだけ日常語に置き換え、35〜45歳のキャリア文脈に沿って、明日から動ける形に整えました。ポイントは、お願いではなく設計。属人的な「頑張り」を、続くプロセスに変えることです。
価値仮説を1枚で言語化する
最初に作るのは立派な提案書ではありません。1枚の価値仮説メモです。「誰の、どんな不都合を、いつまでに、どう軽くするのか」を一文で言えるまで削ぎ落とします。例えば副業のWebデザイナーなら、「採用広報の更新が追いつかないベンチャーに、2週間でテンプレ化と運用設計を提供し、採用ページ更新時間を半減させる」など。ここに、現状の困りごと、時間軸、提供手段、変化の指標を必ず含めます。成果の見取り図が明確になるほど、相手は判断しやすくなり、こちらも価格や工数の話を具体化できます。
ミニKPIで「続ける」自分をつくる
気合いではなく数字で粛々と進めます。週3時間で何件の接触を作るか、何件に提案の約束を取り付けるか、何件にフォローを入れるかというミニKPIを定め、翌週に持ち越します。例えば月の前半は新規接点づくりに寄せ、後半は提案とフォロー比重を上げるなど、月内で波形を設計しておくと焦りが減ります。副業で時間が限られているほど、やらないことを決める勇気が効きます。対象業界を2つまでに絞る、SNSは1プラットフォームで深める、などの選択と集中が、疲れにくい営業体質を作ります。
価格よりも「変化」を売る:目に見える価値の設計
副業段階でも独立後でも、選ばれる理由は価格ではありません。相手にとっての「前後の変化」を先に見せられるかどうかです。提案の最初に置きたいのは、スペック一覧ではなく具体的なビフォー/アフターの短文。例えば編集サポートなら、公開までのリードタイム短縮や校正工数の可視化、原稿テンプレの標準化といった、相手の仕事が軽くなる描写を先に示します。人は価値の比較よりも、未来の使用感で判断するからです。
実績のないテーマでも「安全に試せる」設計にする
新しい領域に挑むときは、とにかくリスクの見取り図を整えます。期間を2〜3週間に限定し、範囲を明確に区切り、途中の中間確認の頻度を先に決めてしまう。成果物のフォーマットを例示し、納品後の微修正ルールも言語化しておく。こうして「失敗しても痛くない」構造にしておけば、先方は試しやすくなります。編集部の観測でも、初回は小さく始め、短い成功体験を重ねる方が、2回目以降の発注につながりやすい傾向が見られます。
料金表は3つの軸で説明する
金額の根拠は、工数、リスク、付加価値の3つに還元できます。つまり、何時間かかるか、どこまで責任範囲を負うか、成果に直結する工夫が含まれているか。この3点が相手に伝われば、値段交渉は「高い/安い」の感想戦ではなく、「どこを削る/足す」に変わります。もし細かい見積もりが難しい場合は、段階制にして、診断・設計・実装の順に小さくステップを刻むのが現実的です。単価の考え方を整理した記事も参考になりますので、あわせて単価交渉の言語化を参照してください。
出会いを設計する:チャネルは「広く浅く」ではなく「深く反復」
営業は見つけてもらう設計でもあります。まず、既存の縁の再編集が効きます。過去の同僚、取引先、同業コミュニティ、卒業生ネットワークなど、すでに信頼の土台がある場所で、お試しの小さな提案を流してみる。近況報告とセットにして、「今こういう価値を提供できる」ことを具体的に書くと、紹介が自然に生まれます。紹介は価格の議論になりにくく、初速をつけたい副業フェーズに相性が良いのです。
プラットフォーム×SNS×ポートフォリオの連動
オンラインでは、仕事受発注のプラットフォーム、SNS、ポートフォリオの3点を連動させます。プラットフォームで小さな案件に触れ、SNSで制作過程や学びを断片的に共有し、詳しい事例はポートフォリオで体系立てて見せる。見に来る人の関心は段階的に深まるので、浅い情報から深い情報へ自然に誘導できる導線を一度だけ作っておけば、投稿のたびに営業しなくても働きます。実装が不安なら、基礎からまとめたポートフォリオの作り方を読みながら、1枚の事例ページから始めましょう。
コンテンツは「正しさ」より「反復」
完璧な投稿より、週1回の反復が勝ちます。何を書くか迷うなら、クライアントからの質問に答える形に絞るのがおすすめです。疑問に答える記事は、そのまま提案書の補足資料としても機能します。30分のメモから書き始め、週末に整えて公開するだけでも、半年後の資産は見違えます。時間管理が課題なら、短時間集中のヒントをまとめた90分集中術も役立ちます。
場に足を運ぶ:オフラインの濃度
オンラインで完結できる時代でも、オフラインの密度はやはり強い武器です。勉強会や小規模イベントでの短い登壇、同業の朝活、読書会など、肩書ではなく関心でつながる場に定期的に顔を出すと、情報の深さが変わります。そこで得た会話は、提案の具体性を一段上げてくれるので、オンラインの発信も説得力を増します。副業の限られた時間であっても、隔月で一度、近場のコミュニティに参加するだけで十分です。
続ける交渉、切れない関係:断られてからが営業
提案が通らなかった瞬間に、営業を終わらせないこと。断られた理由は、価値がないからとは限りません。タイミング、予算、社内事情など、外的要因は常にあります。ここで有効なのが、理由を丁寧に聞く姿勢と、負担のない再接点の設計です。例えば90日後に短い近況と、相手に役立つ小さな情報を添えて連絡を入れる。季節の変わり目や決算前など、相手の時間軸に合わせた節目のコミュニケーションが、次の機会を連れてきます。
条件と期待値を先に合わせる
副業での請負は、時間制約が読みにくいほど誤解が生まれます。稼働時間帯、コミュニケーション手段、返信の目安、休日対応の可否、納品後のサポート範囲。こうした前提を先に言語化して共有すれば、後工程の摩擦が減り、信頼が積み上がります。必要に応じて、簡易の合意メモや発注書を用意しておくと、決裁が速くなります。経理の負担を軽くするための準備や税の基本も早めに押さえたいところ。基礎をまとめた副業の税金超入門もあわせて確認しておくと安心です。
単価交渉は「削る・足す・分ける」で整える
値下げに応じるかどうかは、価値の守り方の問題です。単純に下げるのではなく、範囲を削る、付加価値を外す、期間で分ける、といった整理の仕方に切り替えます。例えば、スピード重視なら品質検証の回数を1回にする、付帯のレポートをオプション化する、実装と運用を段階に分ける。こうして成果とコストのバランスを一緒に設計すれば、相手は納得して選べます。自分の原価を見える化したうえで、来期の値上げ計画も同時に描いておくと、言葉がぶれません。値上げの伝え方に迷ったら、前出の単価交渉の言語化が背中を押してくれます。
まとめ:小さく始め、同じ道を何度でも
営業は性格ではありません。道のりです。副業の限られた時間でも、週3時間の枠を取り、価値仮説を1枚にまとめ、既存の縁とオンラインを連動させ、断られた後の再接点までを一筆書きにすれば、結果は静かに積み上がります。完璧さより反復、広さより深さ、単発より関係。今日できる最初の一歩は何でしょう。価値仮説の一文を書き出す、休眠している縁へ近況を送る、ポートフォリオに事例を1本追加する。たったそれだけで、明日の提案は少しラクになります。あなたの働き方に合う営業の道を、整えていってください。