社債と国債の基本:発行体、返済の裏付け、金利の受け取り方
統計によると、日本の家計による債券の「直接保有」は全体の約1%前後にとどまります(日本銀行・資金循環統計、2024年)[1]。現預金が厚く、投資は投資信託や株式に偏りがち[2]。だからこそ、聞いたことはあるのに実は自信が持てないテーマが債券、とくに「社債」と「国債」の違いです。まず押さえたいのは、社債は企業が資金調達のために発行する債券、国債は国が発行する債券で、返済の裏付け(信用力)と価格の揺れ方が違うという出発点です。
社債は企業が設備投資や運転資金などのために発行します。購入者は企業にお金を貸し、その見返りとして利子(クーポン)を受け取り、満期に元本の返済を受ける仕組みです。返済の原資は企業の事業キャッシュフローで、ここに経営の強さが問われます。無担保普通社債が主流ですが、銀行などの劣後債のように、万一のときの弁済順位が低く利回りが高めに設定されるタイプもあります[6]。一方の国債は国が発行し、利子と元本の支払いは税収等で賄われます。通貨発行権を持つ政府の信用で裏づけられるため、国内通貨建ての日本国債の信用リスクは一般にきわめて低いとされています[3]。
利子の受け取りは両者とも通常半年ごとなどの定期払いが基本です。価格は市場金利で上下し、金利が上がると既発の債券価格は下がり、金利が下がると価格は上がるという逆相関が働きます[4]。個人向け国債には、金利が定期的に見直される変動10年と、満期まで利率が固定される3年・5年があり、満期前の換金も可能ですが、直近利子の一部が差し引かれる中途換金ルールがあります[5]。社債は原則として満期まで保有する前提の商品設計で、途中売却は市場での時価によるため、相場次第で損益が出ます。ここに「売りたいときに思った価格で売えるとは限らない」という流動性の壁が生まれます。
信用力の違いは「格付け」とスプレッドに表れる
信用力は格付会社の評価(AAA〜BBBなど)に表れます。国債は国内通貨建てで極めて高い信用力とされ、社債は同じ満期でも企業ごとに利回りが異なります。これは**国債利回りに上乗せされる「信用スプレッド」**の差です。景気が悪化したり市場が荒れたりすると、このスプレッドが広がり、社債価格は国債よりも敏感に下落しやすくなります。高い利回りが示すのはしばしば高いリスクで、単に利率だけで選ぶと意図せずリスクを取りすぎることがあります。
税制・購入単位・コスト:実務的な違いも見逃さない
利子所得は社債・国債ともに国内では20.315%の源泉分離課税が基本で、特定口座(源泉徴収あり)にしておけば確定申告の手間を減らせます[7]。新NISAでは原則として個別の社債・国債は対象外で、債券にNISAを使いたい場合は公募の公社債投信などを検討します[8]。購入単位は、個人向け国債が1万円単位と小口で、毎月の定例発行がありいつでも購入できる仕組みです[5]。個別の社債は10万円単位などのことが多く、募集期間が限られ、人気銘柄は早期に完売することも珍しくありません。売買コストは販売会社により表示方法が異なり、社債はスプレッド(買値と売値の差)に実質的なコストが内包されるケースが多い点も知っておくと実務で迷いません[9]。
リスクとリターンを生活目線で比べる
社債の中心的なリスクは、発行体の信用が悪化することです。業績悪化で格付けが下がると市場価格が落ち、満期前の売却で損失になりやすくなります。利回りは国債より高く見えますが、そのぶん変動も大きく、景気後退時には信用スプレッドが広がりやすい特性があります。満期まで保有して元本償還を受けられれば約束通りの利子と元本を得られますが、潜在的なデフォルトリスクはゼロにはなりません。
国債の中心的なリスクは、金利とインフレです。金利上昇局面では保有中の価格が下がり、満期前に売ると損失が生じることがあります[4]。とくに利率が固定のタイプは金利上昇に弱く、逆に変動型は見直しで徐々に金利が追いつきやすい構造です[5]。長期的なインフレが続くと、受け取る利子が実質的に目減りする可能性もあります。それでも、国内通貨建ての日本国債は信用面で安定しており、家計の資産の土台として位置づけやすい商品です[3]。
税金面で両者に大差はなく、実務的な差は購入単位と流動性の体感に出ます。毎月の家計から積み立てのように少額で始めたいなら1万円単位の個人向け国債は親和性が高く、ピンポイントで決まった満期と利回りを狙うなら社債が候補に入ります。どちらも「使う時期が明確なお金」と相性がよく、必要な時期に満期が一致するかを最優先の軸にすると迷いが減ります。
35〜45歳の資金設計と相性:教育費・住宅・老後のバランス
ゆらぎ世代の資産設計では、まず生活防衛資金を現預金で確保し、次に3〜10年の使途が見えるお金を債券に充て、10年以上の長期は株式や成長資産で育てる、という時間軸の分け方が実践的です。3年後に定期的な教育費の支出が見えているなら、固定3年の個人向け国債で利率をロックしておく方法がシンプルです。5〜7年の余裕資金があり、格付けの高い発行体を絞って利回りを少し上積みしたいなら、社債を少額ずつ複数に分ける選び方が合います。ボーナスから30万円を債券に回す場合、1万円単位で柔軟に配分できる国債は設計がしやすく、社債は10万円単位で満期の階段(ラダー)を作ると、毎年どこかが満期を迎える設計になり、再投資のタイミングも分散できます。
住宅ローンを抱えている人は、ローンの金利タイプと金利感応度のバランスも考え合わせたいところです。変動金利の比率が高く、金利上昇が気になるなら、債券は変動型の個人向け国債を厚めにするなど、家計全体の金利リスクをならす発想が役立ちます。教育費、住まい、老後という三つ巴のタスクの中で、「満期が味方になる」お金をいくつか作っておくと、想定外の出費にも呼吸の余地が生まれます。
編集部のケーススタディ:迷いがちな場面を翻訳する
たとえば、3年後に100万円の出費が確定しているケース。途中で使う可能性が低いなら、固定3年の個人向け国債で必要額を確保しておくと、相場に振られず安心感があります。逆に、5年後か7年後か、使う時期が少しあいまいなときは、5年と7年の社債を半分ずつにし、どちらが来ても対応できるようにしておくと余白が生まれます。景気後退が心配で価格変動を抑えたい心理が強いなら、同じ満期でも格付けの高い発行体を選ぶ、または個人向け国債の変動10年に厚みを持たせる、といった工夫が効きます。高めの表面利率に惹かれたときほど、劣後性やコール条項の有無を読み飛ばさないことが重要です。名前に「劣後」や「永久」といった言葉が入る商品は、一般的な無担保社債とは性格が異なり、満期や弁済順位に特殊な条件がつくことがあります[6]。
はじめ方と見極め方:3つの軸でシンプルに
債券選びは、目的、期間、信用の三つを一続きに考えると迷いません。まず、何のために使うお金かを言葉にします。次に、そのお金をいつ使うのかをカレンダーに落とし込み、満期を合わせます。最後に、その目的と期間にふさわしい信用リスクを選びます。安定性を最優先にしたいなら国債寄り、利回りを少し積み上げたいなら格付けの高い社債を薄く重ねる、といった調整です。購入の実務では、募集要項の満期、利率(または利回り)、格付け、劣後・コールの有無、購入単位、流通市場の有無を、販売会社のサイトで一度に確認します。表示されている利回りが税引前か税引後か、手元のキャッシュフローでどう受け止めるかも合わせて点検すると、期待値が現実に近づきます。
積立感覚で続けたい、あるいはNISAを活用したい場合は、個別債券ではなく公社債型の投資信託という器を使う方法もあります。信託報酬というコストを負担する代わりに、複数の債券に自動で分散され、再投資も自動で行われます。個別銘柄の選定が不安、あるいは社債の分散を少額で行いたい人には現実的な選択肢です。家計全体の配分の考え方は、編集部の関連記事「50-30-20で組む家計バランス」や、投資の器選びを整理した「はじめてのNISA完全ガイド」、緊急資金の厚みを決める「生活防衛資金はいくら必要?」も参考になります。
最後に、価格の揺れとどう付き合うかです。債券は株式より穏やかと言われますが、金利が上がる局面では想像以上に価格が動きます[4]。満期まで待てる設計にしておく、満期を階段状に分散する、変動と固定を組み合わせる、といった工夫でストレスを下げることができます。逆に、短期で値上がり益を狙うなら、債券よりも本質的にボラティリティの高い資産の領域になり、役割が変わります。自分の生活リズムに合った役割を債券に与えられると、利回りに振り回されず、必要なときに必要な現金があるという実益が手元に残ります。
まとめ:満期という味方を、今の自分に合わせて使う
社債と国債の違いは、発行体の信用と、金利や景気への反応の仕方に集約されます。社債は利回りが上乗せされる分だけ企業固有の揺らぎを引き受け、国債は信用の土台として家計のベースを整えてくれます。どちらが正解かではなく、いつ使うお金かに合わせて役割を割り当てる発想が、ゆらぎ世代の時間に負けない資産設計のコアになります。
まずは「このお金はいつ・何に使うか」を決め、満期を合わせる。それだけで選択肢は自然と絞られます。もし次の一歩に迷うなら、少額の個人向け国債から感触をつかみ、余裕が出たら格付けの高い社債を小さく足す。そんな段階的な進め方で十分です。今日、カレンダーを開いて、直近3年と5年の大きな支出を書き出してみませんか。満期という味方は、あなたの時間の味方でもあります。
参考文献
- 日本銀行「資金循環統計(四半期)」 https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq/index.htm
- 内閣府「令和6年度 年次経済報告 第3章 第1節」 https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je24/h03-01.html
- 日本銀行 業務局「日本国債の『一生』に関わる仕事」 https://www.boj.or.jp/about/annai/genba/focusboj/focusboj25.htm
- 日本銀行「債券の価格と利回り(学ぼう!にちぎん)」 https://www.boj.or.jp/announcements/education/weve-tried/wtp20180925.htm
- 財務省「個人向け国債」 https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/
- JCGR「優先社債・劣後債とは」 https://jcgr.org/JCGR/blog/cf/2021cf12.html
- 国税庁タックスアンサー「No.1310 利子所得」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1310.htm
- 金融庁「新しいNISA」 https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/
- 大和証券「債券:いくらから買えるの?」 https://www.daiwa.jp/seminar/study_products/bond_special/cost.html