なぜ今、不動産投資を学ぶのか——市場の二面性を直視する
総務省の住宅・土地統計調査(2023年)によれば、全国の空き家率は13.8%と過去最高を更新しました[1]。ニュースで「空き家問題」が語られる一方で、都市部の賃貸需要は堅調という二面性があります。市場データでは、都心の中古区分マンションの**表面利回りはおおむね3〜5%**に収れんし[2]、投資用ローン金利は住宅ローンより高くなる傾向があります[3]。編集部で関連データを読み解くと、物件タイプや立地、資金計画を丁寧に揃えた人ほど、収益の振れ幅を抑えられるという現実が見えてきました。
投資という言葉がときに遠く感じられるのは、知らない専門用語と見えないリスクが重なって見えるから。けれど、不動産投資の骨格はシンプルです。家賃というインカムを得て、売却時には価格差でキャピタルを狙う。この二つを、費用と金利、空室という変動要因の中でどう安定させるかが、実は全てです。**本記事は「利回りの読み方」「費用と融資の基礎」「物件タイプの違い」「リスクと運用術」**を、数字と現実感のある例で整理します。
空き家率の上昇は、不動産が「買えば上がる」時代ではないことを示します[1]。一方で、都心・駅近・賃貸ニーズが厚いエリアには粘り強い需要が続いています。たとえば東京の不動産市場は国際比較でも相対的に安定して推移しており、景気局面の変動に対しても底堅さが指摘されています[5]。子育てと仕事を両立する35〜45歳にとって、不動産投資の価値は一攫千金ではなく、家計の「第二の柱」を時間をかけて育てられる点にあります。給与だけに依存しないキャッシュフローがあれば、キャリアの曲がり角や親の介護といったライフイベントに備えやすくなります。
市場は静かに変化しています。金利が歴史的低水準からじわりと動く局面では、借入に頼った投資ほど月々の返済の重さを感じやすくなります。だからこそ、利回りを見るときは、広告の数字だけでなく、実質に近い収益力——つまり空室や修繕、税金を含めた「手残り」を意識することが欠かせません。家計でいえば手取り収入の感覚に近く、ここを現実的に見積もれるかが勝負どころです。特に賃貸住宅市場は複雑で、将来予測にあたっては多様なデータを検討する必要があると指摘されています[4]。
用語を日常語に置き換えると、何が見えるか
不動産投資の収益には二本柱があります。毎月の家賃収入はインカムゲイン、売却時の値上がり益はキャピタルゲインです。広告で目にする「表面利回り」は、年間家賃を購入価格で割っただけの粗い指標で、諸費用や空室、管理費・修繕積立金、固定資産税などを加味した「実質利回り」を見ないと実態は分かりません。ローンを使う場合、返済原資は家賃から費用を引いた残りであり、返済が重ければ家計からの持ち出しが続く可能性があります。逆に、自己資金を厚くし、賃料相場に比べて割安に購入できれば、手残りは安定します。
数字で考える癖をつける——現実的な二つの試算
編集部で簡易のキャッシュフローを作成しました。都心区分マンションの想定例では、2,800万円の中古ワンルーム、家賃10.5万円、想定空室1カ月、管理費・修繕積立2万円、固定資産税等の年換算0.96万円×12、投資用ローンは2.5%・30年・自己資金300万円とします。年間家賃は126万円、空室を1カ月見込むと実収入は約115.5万円。費用は約34.8万円。年間返済はおよそ129万円となり、手残りはマイナスで家計からの補填が必要という結果になりました。こうしたケースは珍しくなく、都心の表面利回りが低い局面では「節税」を理由に赤字を許容する戦略が語られがちですが、金利上昇や賃料下落が重なると家計の負担感は増します。
対照的に、2,000万円前後の郊外ファミリータイプで家賃9万円、管理費・修繕等は月1.2万円、固定資産税等は月0.7万円、空室1カ月、金利2.0%・25年、自己資金500万円の想定では、年間家賃は108万円、実収入は約99万円、費用は約22.8万円、年間返済は約91万円となり、手残りはわずかにプラスという試算が得られます。もちろん、立地や築年数、競合物件によって数字は変わりますが、同じ年収でも自己資金の厚さ、購入価格、管理コストの違いで結果が大きく揺れることが分かります。
利回り、費用、融資——基礎のキモを一気に掴む
利回りは広告の表面値から入って、最終的に「手残り」で判断するのが王道です。家賃の見立てはポータルの掲載賃料だけでなく、直近の成約事例や同条件の空室期間も参考にします[4]。費用は見落としがちな項目ほど効いてきます。区分マンションなら管理費・修繕積立金が毎月の固定費として重くのしかかり、戸建てなら自主管理の手間と突発修繕がボディーブローになります。原状回復や退去時の広告費、鍵交換や火災・地震保険、更新料の扱いなど、細かなルールも月次のキャッシュフローに積み上がります。
融資については、住宅ローンと同じ感覚で考えると足をすくわれます。投資用は金利が高く、返済比率の審査も厳しめに見られます[3]。頭金を厚くするほど金利条件が改善されることがあり、短期固定か変動か、長期固定かでリスクの性質が変わります。共働き世帯では、片方の収入に依存しない返済計画を前提にし、金利上昇時に備えた余力をあらかじめ家計に確保する設計が現実的です。返済比率は家計の総合戦略の一部と捉え、つみたてNISAやiDeCoなど、他の資産形成とのバランスも同時に考えると無理が生まれにくくなります。制度面の基本は、NOWHの解説「NISAの基礎知識」も参考になります。
REITとクラウドファンディングという「時間に優しい」選択
忙しさが常態の世代にとって、現物投資だけが選択肢ではありません。上場REITは証券口座で少額から始められ、分配金という形でインカムを受け取りつつ流動性が高いのが特徴です。価格は市場で動くため短期の振れはありますが、物件の維持管理や入居者対応をプロに任せられる点は大きな魅力です。不動産クラウドファンディングは案件ごとの期間と想定利回りが明示され、少額で分散しやすい一方、途中解約ができない、事業者のリスクを見る必要があるといった制約があります。現物、REIT、クラファンは「時間と手間」「流動性」「コスト」の配分が異なるので、自分の生活リズムに合うものから試すのも合理的です。
物件タイプの違いと選び方——立地と出口を先に決める
区分マンションは初期費用を抑えやすく、管理の外部化もしやすい反面、管理費・修繕積立金が固定費として重く、ワンルームは賃料下落の影響をまともに受けやすい性質があります。一棟アパートはスケールメリットで利回りが見えやすい代わりに、空室や大規模修繕のインパクトが大きく、融資難易度も上がります。戸建ては入居が付けば長期化しやすいものの、退去時の原状回復コストと募集期間のブランクが家計に響きます。いずれも、「入居が付く賃料」と「出口の売却価格の妥当性」を先に決め、それに合わない価格なら見送る姿勢が結果的に時間の節約になります。
出口の見立ては、購入時よりむしろ重要です。人口動態と開発計画、駅距離、築年別の成約事例から、保有期間中の賃料レンジと、売却時の価格帯をざっくり描いておきます。広告の写真ではなく、平日昼・夜、休日の周辺環境を自分の足で確かめると、数字に出ない違和感が拾えます。保育園や学区、生活利便施設の動線は、実需にも賃貸にも共通して効くポイントです。もし一次取得の自宅購入も検討中なら、NOWHの「家計と保険の見直し」の記事で固定費全体の最適化を先に進めると、余力の見え方が変わります。
相場の「声」を聞く——募集と成約の差を見る
賃料は募集価格ではなく成約価格で決まります。同じ建物内や同条件の部屋の直近成約を確認できるなら、募集との差を埋めることで空室期間を短縮できます。空室1カ月は家賃の約8.3%の機会損失に相当し、見た目の利回りを簡単に1ポイント以上削ることもあります。内見時の印象を上げる小さな工夫や、初期費用の柔軟な設計、ペットや在宅ワーク対応など、実需の変化に合わせた条件出しは、広告費を増やすよりも効果的な場面が少なくありません。これらの判断にあたっては、募集と成約、空室期間など複数の指標を横断して見る姿勢が有効です[4].
リスクは消せない、でも管理できる——実務と心構え
不動産投資のリスクは、空室、賃料下落、金利上昇、修繕、災害、入居トラブル、流動性、そして税制変更など、多岐にわたります。ゼロにすることはできませんが、分解して一つずつ弱めることはできます。立地で空室リスクを抑え、家賃設定で募集期間を短縮し、管理会社と役割分担を決め、保険で災害と賠償をカバーする。金利は固定比率を高めたり、繰上返済の原資を家計に別建てで確保したりすることで、ある程度の上昇には耐えられる設計が可能です。修繕は毎月のキャッシュフローに含めて積立を続け、突発費用を前提にしておくと、心理的なダメージが減ります。
税務も「味方にする」視点が役立ちます。減価償却は帳簿上の費用として損益に影響し、青色申告特別控除は帳簿や申告方法、規模の要件次第で適用額が変わります。具体的な適用可否や最適化は、最新の制度と個別状況によって異なるため、税務署や専門家に早めに相談してから動くのが結局近道です。確定申告の段取りや家計の可視化には、NOWHの「家計管理の基本」も併せて確認すると、固定費・変動費の整理がはかどります。
女性のライフイベントと両立させる運用設計
不動産投資は、時間と注意力をそれなりに連れてきます。働き方が揺らぎやすい時期だからこそ、管理会社の選定は「費用の安さ」だけでなく、報告の頻度、修繕提案の妥当性、緊急対応の強さで比較する姿勢が重要です。夜間・休日に対応できる体制か、見積もりの透明性はあるか、退去時の工事過剰提案を抑制できるフローになっているか。日々の判断を委ねる相手との相性が、そのままあなたの時間を守る盾になります。介護や子どもの行事と重なる時期でも、意思決定の粒度を揃えたルールがあれば、迷いのコストを減らせます。
最後に、今日からできる小さな一歩を置いておきます。まずは自分の家計にとっての「手残りいくらなら意味があるか」を金額で言語化します。続いて、興味のあるエリアを三つまで絞り、平日と休日の現地を歩いて生活動線を確かめます。気になる物件を一つ選び、空室1カ月、募集から成約の家賃差、管理費・修繕積立、保険、固定資産税、広告費を含めた実質利回りを計算します。最後に、同じ物件を頭金を増やしたケースと、金利が0.5%上がったケースで再計算し、家計の許容範囲を体で掴みます。ここまでやれば、営業トークに流されない「自分のものさし」が一本立ちます。投資と暮らしの全体最適を考える視点は、NOWHの「副業アイデアと始め方」の記事とも相性が良いはずです。
参考文献
- NHKニュース. 2024-05-04. 空き家“過去最多の900万戸超” 空き家率は過去最高の13.8% 住宅・土地統計調査(2023年). https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240504/k10014439891000.html
- 野村不動産PRO. 2023-09-12. 中古区分マンションの表面利回りの推移(2017年以降の低下と直近水準). https://www.nomu.com/pro/contents/market/20230912.html
- 東新住販マガジン. 投資用不動産の融資の金利と住宅ローンとの違い(一般的傾向の解説). https://www.tohshin.co.jp/magazine/article0032.html
- 野村不動産CRE-NAVI. 2023-10-19. 賃貸住宅市場の見方と将来予測に必要なデータの検討. https://www.nomu.com/cre-navi/market/20231019.html
- JLL Japan. Review of and outlook for the Japan real estate investment market(東京市場の相対的な安定性の言及). https://www.joneslanglasalle.co.jp/ja/trends-and-insights/investor/review-of-and-outlook-for-the-japan-real-estate-investment-market