年金だけで生活できる?家計別シミュレーションと固定費見直し

年金だけで生活できるかは夫婦・単身で大きく変わります。受給額と支出を家計別にシミュレーションし、住宅費や医療費を踏まえた固定費見直しと不足分の具体的対策を紹介。今すぐシミュレーションして対策を見つけましょう。

年金だけで生活できる?家計別シミュレーションと固定費見直し

年金だけで生活できる?答えは「条件次第」。データで直視

まず前提を揃えます。「標準的な年金額」は、公的資料で夫婦二人(平均的賃金で40年就業、専業主婦世帯を想定)で月約22万円と示されるケースが代表的です[1]。一方で、単身世帯は受給実態のばらつきが大きく、勤続年数や賃金水準で差が出ます。老齢基礎年金の満額は年額に直すと80万円台(年度により上下)で、これに厚生年金が上乗せされます[3]。つまり、配偶者の有無や就労歴、加入期間で家計の前提が根本から変わるのです。

支出側はどうでしょう。家計調査では高齢夫婦無職世帯の消費支出が月26万円前後[2]、単身高齢者は月15〜16万円程度という推移が見られます[4]。ここには住宅ローンの有無や持ち家の固定資産税、医療・介護の自己負担、交際費や帰省費など、生活の質を左右する支出が含まれます。収入22万円に対して支出26万円という構図なら月4万円程度の赤字。年に直せば48万円、20年なら約960万円。これがいわゆる「老後資金が必要」と言われる根拠のひとつです。ただし実像はもっと複雑で、地方在住・持ち家・自家用車なし・健康な夫婦なら支出は下がり、反対に都市部で賃貸・医療費がかさむと支出は上振れます。

「平均」に自分を当てはめない。家計のクセは世帯ごとに違う

編集部が複数の家計簿事例を観察すると、通信費やサブスク、外食・中食、趣味費の配分は現役期のクセを引きずる傾向があります。年金生活のカギは、固定費の設計の仕方にあります。住宅(ローンか賃貸か)、保険(医療・がん・介護の上乗せ)、通信、車の所有。この4領域の設計で、月の支出は数万円単位で変わります。だからこそ、今から「平均値」ではなく「わが家」の金額で試算しておくことが重要です。

単身女性のリスク視点:住まいと健康が支出を左右する

想定読者世代である35〜45歳の女性にとって、単身で老後を迎える可能性は珍しくありません。単身は共有によるスケールメリットが働きにくく、家賃・光熱費・通信費を一人で負担します。さらに健康や介護に関する意思決定を自分で担うため、予備費の厚みが必要になります。住まい(持ち家か賃貸か)と健康(予防・定期受診)の意思決定が、のちの支出カーブを大きく左右します。

「わが家」の試算を作る:3つの数字で仮説を立てる

平均に頼らず、いまの家計から老後の姿を推定する方法を、シンプルに3つの数字で組み立てます。最初に「固定費」を洗い出し、次に「変動費」の下限と上限を決め、最後に「イベント費(突発や旅行・家電の更新)」の年額を置きます。固定費は住居費、電気・ガス・水道、通信、保険料、サブスク、車関連(保有するなら)などの合計です。変動費は食費・日用品・被服美容・交際費・交通費など。イベント費は帰省・旅行・大型家電の買い替え、医療費の自己負担増などを年換算で置きます。

たとえば、固定費12万円、変動費の下限8万円・上限10万円、イベント費を年24万円(ひと月2万円の見積もり)と仮置きすると、最低ラインは月22万円、ややゆとりのある月は24万円というレンジが見えてきます。ここに年金見込み額を重ね、足りない月の差額を可視化しておきます。企業年金や確定拠出年金の記録、年金定期便やねんきんネットの試算機能を使えば、概算は誰でも作れます[5]。重要なのは、1円単位の正確さではなく、レンジで捉えて行動に移すことです。

住宅費の意思決定は「固定費」を最も動かす

賃貸か持ち家かという議論はしばしば感情的になりがちですが、老後資金の視点ではキャッシュフローで考えます。賃貸は家賃が継続的に発生し更新料や引っ越し費用も見込みます。一方、持ち家はローン完済後も固定資産税、修繕、管理費(マンション)があります。築年数が進むと修繕費は増えがちで、まとまった出費に備える必要があります。どちらもコスト構造は違いますが、月あたりの実負担を老後バージョンで再計算し、支出レンジの基軸にすることで、他の支出を合わせやすくなります。

医療・介護の見込みは「年額のクッション」で置く

医療費は年齢とともに上がりやすく、介護は発生確率が読みにくい支出です。ここで役立つのが、イベント費の年額クッション。たとえば年間24〜36万円の幅で見込み、繰り越し方式で運用します。実支出が少なかった年は翌年に繰り越し、多かった年は予備費から補います。変動が読みにくい費用は「月割り」より「年額クッション」で考えると、家計の呼吸が整います。

足りない分を埋める現実策:いまからできる設計変更

差額を埋める方法は、運用一本に賭けることでも、節約だけに頼ることでもありません。収入・支出・資産運用・リスク管理の四つを同時に少しずつ動かすと、無理なく効きます。まず収入面では、年金受給開始までの期間に「つなぎ収入」を設けたり、受給開始後も軽労働やスキル提供で月数万円を上乗せする選択肢があります。健康と両立できる働き方を現役期から試し、ネット完結の副業や業務委託など、相性の良い形を今のうちにテストしておきましょう。支出では固定費の設計変更が効きます。通信契約の整理、サブスクの棚卸し、保険の重複見直し、そして住まいのサイズや立地の再検討。固定費の1万円削減は、年12万円、20年で240万円の効き目です。

資産運用は、非課税制度を使い切るのが基本戦略です。新しいNISAのつみたて枠で現役期からコア資産をつくり、取り崩し期には税コストが低い形で取り崩せるよう設計します[6]。iDeCoは60歳以降の受け取りになるため、老後のベース資産の柱づくりに向きます[7]。税制優遇を最大限活用したい方は、基礎からまとまった解説を用意しているNISA入門ガイドiDeCoスタート手引きも参考にしてください。支出の圧縮と合わせて、ふるさと納税で実質的な食費・日用品を賄うやり方も家計を助けます[8]。制度の落とし穴や上限管理はふるさと納税の賢い使い方で詳しく解説しています。

取り崩しの設計:ルール化すると迷いが減る

資産の取り崩しは、相場や気分に左右されると家計のストレスになります。そこで、年初に「年間取り崩し上限」を決め、四半期ごとに自動振替にするなど、ルールで自分を助ける方法が有効です。たとえば年間で180万円を取り崩すなら、月15万円を生活口座に移す仕組みを先に作る。相場が良いときに利益確定し、悪いときは現金クッションでやり過ごすと決めておけば、毎月の迷いが減ります。取り崩し比率は年齢や期待リターンにより異なりますが、生活費の1〜2年分の現金クッションを持ち、残りを分散投資で運用するやり方は、心理的にも続けやすい設計です。

行動のハードルを下げる:小さな成功体験を積む

家計の改善は「一気に完璧」より「続く仕組み」が勝ちます。まずは固定費の1項目だけを変える、給与天引きでつみたてを自動化する、年金定期便を開いて数字を写す。この3つだけでも、手応えは明確です。行動経済学的には、人は将来の利益より現在の小さな不快を避けたがります[9]。逆手に取り、家計管理を「面倒が起きない仕組み」に置き換えるのです。サブスクの一括管理アプリや、カード明細の自動取り込み、マネーフォワード等の家計管理サービスは、続ける負担を減らしてくれます。関連して、思い込みの罠と向き合うヒントはお金の判断を曇らせる認知バイアスで紹介しています。

ケースで見る「年金だけ」:成立する条件と難しい条件

「年金だけ」で成立しやすいのは、持ち家で大規模修繕の目処が立っている、車を持たないかシェアで代替できる、医療費が安定している、そして地域の物価と相性が良い生活設計ができているケースです。買い物や病院が徒歩圏にあり、交通費や外食費が膨らみにくい生活動線もプラスに働きます。反対に、賃貸で都心居住、車が必須、家族支援の送金や帰省費が大きい、医療・介護の自己負担が増えやすい条件では、年金だけの成立は難しく、資産取り崩しや就労の上乗せが現実的になります。どちらが良い悪いではなく、自分の条件を早めに言語化しておくほど、打ち手は増えるのです。

「いまから」できる具体的アクション

今日からできるのは、ねんきんネットで受給見込みを確認し[5]、固定費の棚卸しをして、非課税枠の活用方針を決めることです。ここまで整えば、老後資金の計算はすでに半分終わっています。次に、住まいの長期コストの見積もりをつくり、持ち家なら修繕積立の年計画、賃貸なら高齢期の入居要件や保証人の手当を調べます。最後に、社会との緩やかな接点を持つ働き方を試し、月に数万円の上乗せが可能かを検証します。副業の土台づくりは現役期のほうが圧倒的にラクです。具体的な始め方は副業のはじめ方ガイドで丁寧に解説しています。

まとめ:不安は数字に置き換えられる。小さく始め、くり返し整える

年金だけで生活できるかという問いは、平均を知るだけでは答えにたどり着けません。答えは「あなたの条件次第」です。だからこそ、固定費・変動費・イベント費の三つに分けて「わが家バージョン」の支出レンジを作り、年金見込みと重ねて差額を可視化する。足りない分は、収入の上乗せ、固定費の設計変更、非課税制度の活用、そして取り崩しのルール化で、少しずつ埋めていく。不安は、数字と仕組みに置き換えればコントロールできる

まずは、ねんきんネットを開く、小さな固定費をひとつ減らす、NISAやiDeCoの手続きの第一歩を踏み出す。進み方はゆっくりで大丈夫。明日の自分を助ける選択を、今日のうちにひとつだけ増やしてみましょう。

参考文献

  1. 厚生労働省 年金検証(財政検証関連データ)厚生年金 ks-04
  2. 総務省統計局 統計Today No.103 高齢者の家計
  3. 厚生労働省 国民年金事業の概況(2024年)
  4. 総務省統計局 全国消費実態調査 高齢単身世帯(参考ページ)
  5. 日本年金機構 ねんきんネット
  6. 金融庁 NISA(少額投資非課税制度)
  7. iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)
  8. 総務省 ふるさと納税ポータル
  9. Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk. Econometrica. https://www.jstor.org/stable/1914185

著者プロフィール

編集部

NOWH編集部。ゆらぎ世代の女性たちに向けて、日々の生活に役立つ情報やトレンドを発信しています。